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生きていくために


ヴァイオレットがアルデバランを担いで出ていったしばらくたった頃、先程よりは顔色のよくなったアルデバランを担いでヴァイオレットが戻ってきた。


アルデバランはヴァイオレットの冷たい視線を向けられるが気にせずヘラヘラと笑っている。


「…………一応二日酔い用の薬出しといてやるから、感謝しなさいよ……………………このボケナス」


「…………最後の方よく聞こえなかったけど、サンキュー」


ヴァイオレットは小さく舌打ちをしてアルデバランを床に放り投げた。静かな部屋に大きな振動が波打つ。するとヴァイオレットはポフンと煙をたててパープルと同じ背丈の少……年?に変化した。


「…………あー、疲れた…………」


小さくなったヴァイオレットはコキコキと肩をならし伸びをする、そしておもいきり…………


「ぉうぇっふ!」


顔面を強打したアルデバランはピクピクしているが放っておこう。ヴァイオレットはアルデバランをげしげしと蹴りつつ指を指す。


「…………で、コリンちゃんにはこいつのことはもうあらかた説明した?」


手のひらをパタパタとはたきながらヴァイオレットは小さくあくびをした


「は、はい、一応アルデバランさんの主な仕事は説明しておきました。何か付け足しがあれば…………?」


呻きながらも顔を上げたアルデバランがルルの言葉を止めた。


「いんや、ないよ。ルルちゃんが僕の仕事を説明してくれたならそれで十分!まぁでも、折角だからちゃんと自己紹介しておこうかな?」


パタパタと膝を払いアルデバランはコリンの目線に合わせるように屈んだ。よくみるとアルデバランは思いの外イケメンである。あれだけ殴り倒されたのに関わらず少し長めの黒髪はサラサラと揺れ、少し切れ長の目はブラックオニキスを連想させる程底の無い黒。


「こんにちは……コリン君だっけ?僕の名前はアルデバラン・トリック ここの武器とか乗り物は全部僕お手製なんだ。この城の使用人たちは僕をボケナスだとか酔っぱらい野郎だとか言うけど全然気にしないでいいからね!てことでよろしく!!」


「あ……よろしくおねがいします…」


半ば強引に握手された、アルデバランの大きな手はコリンの小さな手を意図も容易く覆い隠してしまう。


「無断で城からふらふら脱走する野郎がよく言うわね……コリンちゃん、気にしないでいいから」


「だーかーらー、脱走じゃなくて僕は旅人なの!旅しないと寂しくて心が死んじゃうの!わかる?」


「いいかげんにして、アルデバラン・トリック……あんたが何処かへ遊んでいる間どれだけヴァイオレットに迷惑がかかったと思ってるの?」


「そ、それは悪いと思ってるけど…………少しは僕の旅人精神をわかってもらいたいんだけど……!」


「……いいえ、分かりません。分かる気もございませんね。」


「ガ、ガビーン…………!」


ビシリと否定されたアルはへなへなと床に座り込む。


「ル、ルルちゃん………………そんな」


「んーーー、レベッカちゃんはアルがいてもいなくてもダイジョーブ!!怒ってないよ!」


「………そ………それ傷つく」


「仕事をほったらかして、なにも言わずに出ていくなんて旅とは呼べないと思います。迷惑ですし旅人さんに失礼です。」


「ニシキまで…………!」


アルにとっては思いがけない苦情の嵐、どんどんとアルの影が薄く小さくなっていく。


「そのせいでオレたちの仕事が増えてヴァイオレットのイライラがこっちに向けられてすんげーとばっちり受けてんだけど!」


「ガ、ガルト………………」


「ま、まあまあ、み、皆さんそこまでにして下さい!アルさんも多分反省しますよ!」


「こ、コノハちゃん…………!」


コノハの思いがけない助け船にアルは目を輝かせた………………が、


「でも、もう少し迷惑がかからないように旅していただけたら嬉しいです…………ねっ!」


「い、言い方優しいけど悲しい!!…………」


アルはしくしくとうずくまりしばらくはうごかなそうだ。


「さて、皆さんもう気は済んだでしょう?そろそろ本題に戻りましょうか。」


そう切り出したのは骸骨のシリウスだった。低くて重みのある声は一瞬にしてみんなを黙らせた。

シリウスの声にハッとしたようにルルが頭を下げる。


「すみません、シリウスさん。私、少し調子にのってしまいました……。コリン君も、すみませんでした。」


「あぁ!いえ、面白かったですよ!」


「……あるぇー?コリンくーん………………ぐぶぇっ」


「黙んなさい」


「…………では、気を取り直して…………こほん、ではコリン君、この城のことは大体のことはルルがまとめておきました。わからないことがまだたくさんあると思いますので遠慮なく質問してくださいね!」


ドサリと辞書ほどの分厚さの本をルルに渡され、その重みに体が傾く。


「うわっ、とと…………!ぶあつっ」


ヨロヨロとぐらつきながらもコリンは必死に本を落とさぬように体を支える。


「お、おも…………」


「見た目からして厚さ20センチ重さ3キログラムってとこかしら?大分重そうね…………パープル」


「重いでしょ?少しもってあげるわ、貸しなさい。」


「あ、ありがとうございます。パープルさん」


「ルル、少しは手加減なさいよ…………」


「私なりに考えたのですが、コリンくんはまだこの城で生活する力が不十分です。ですからまずは健康な体力、魔力作りが必要不可欠」


「……健康な体力と魔力……………………」


「地味にスルーしたわね…………」


「この魔界は魔獣が普通に生息しているのです。あなたのようなまだ幼く力のないものはすぐに餌食になってしまう…………ですからまずは鍛えるのです!生きていくために」


「生きていくため…………」


思えばずっと僕は生きていくために何かをしたことがなかった、外の世界は荒れ果て廃れていくのを本部の分厚い窓からしか見たことがなかった。僕は何も知らない無知で無力な子供。


でも今ここは本部から遠い外の世界、生きていくためには鍛えるしかない、それがなんだか嬉しい。


「………はいっ、頑張ります!」


ルルはコリンの瞳に小さな光が輝いたように見えて微かに目を見開いた。


「……そうですね!その気構えで頑張りましょう‼」


ルルは優しく微笑んだ。


…………本当は心配だった、初めて会ったときのコリン君は瞳に光がなかった、何も知らずわからないことに怯えている。そんな目をしていた。あの人間達は一体この子に何をしたのだろう…………でも今はコリン君の瞳に光が見える、私はこの子を守っていこう。生きていくために…………


そう、ルルは心のなかで誓った。













































読んでくださりありがとうございました!まだまだ続きます!

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