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無機質な会話

第七章

一方その頃、コリンの兄カルロスは人間界の首都へ到着していた。


夜の闇の黒へ交わるような車を走らせる。車窓から見えるのは貧困・飢餓・争い・怒り・悲しみ・虚無……………………そしてたくさんの絶望……


幾度とこの悲惨な光景という傷跡を目の当たりにしているのに関わらず、思わず吐き気を感じる。

元々色白の肌がいっそう蒼白くなり眉を歪ませる

…………この状況に「慣れ」を感じる事は一生無いだろう。


街の明かりがチカチカと点滅し、人々の叫びとも思える声が耳にこびりつく。


「……………………」


たまらず目をつぶる………視界が闇に覆われ…………

意識を手放した。


目を開けたのか閉じたままなのかはわからない、ただ見えているのは光をも吸収する闇。

自分は闇を走っているようだ、呼吸がとても苦しい…………くらりと目眩を感じ……暗闇に足をすくわれよろける、どす黒い手が首に絡み付く……叫びもできない、もがくことも許されない…………


助けて、助けて、助けて、たすけて、たすけて、タスケテ、タスケテ、タスケテ、タスケテ、タスケテ!!!!


無駄だとも頭でわかっていながら、心のなかで助けを呼んでいた。


するりと布が擦れる音が響いた、目だけを動かしておとのする方向を見る。見えたのはカルロスが嫌い、恐れ、そして大切だった人物。


「この世界を作り出したのは神である。我々人間は神に与えられた試練を乗り越えることのできなかった…………その罪は償わなければならない…………」


「罪………………?」


「そして我々人間は神から最後の試練を与えられた………」


「……この世に希望はない…………」


「それは…………」


無意識に手を伸ばす、掴まなければその人は闇に………………………………


「……………………………っ…!」


はっ、と意識が戻される。

冷や汗が一筋、頬を伝っていく。サラサラの黒髪を乱れさせ荒く肩で息をする。


「…………カルロス様、大分うなされていたようですが大丈夫ですか…………?」


運転席に座り苦しそうなカルロスを心配するように話しかける女性はカルロスの秘書 メイ・ローレンスである。短くぱっつんにした黒髪を揺らし、いまだ蒼白いカルロスの顔を見つめる。


「…………ああ、大丈夫だ………」


暫しの沈黙が続く。


「少し…………疲れた」


「……………お疲れ様でした……カルロス様」


微笑むメイは髪の毛、服装、瞳の色がすべて黒い。だからこそ唇にのせられた朱色はいっそう美しさを引き立てた。


「今日も、月が見えないな……」

車窓から覗くと空は灰色の雲に覆われ、月の光はこちらに届いてこない。


「……いつか、雲は晴れます。その時は一緒に月を見ましょう…………独りは、寂しいですから……」


「…………そうだな」


メイの穏やかな優しい顔は悪夢の冷たさに冷えきった心をじんわりと温めてくれた。メイはカルロスの秘書であり幼なじみ、そしてカルロスの数少ない理解者である。


「……………………ありがとう……」


小さな吐息と共に礼を言う。当然メイには聞こえていない……はずだった。


しばらくするとカルロスを乗せた車は断罪特殊部隊の本部へ到着した。メイは地下駐車場へ車を止めに行った。


車から降り立ったカルロスは分厚い無機質な雰囲気を漂わせ、不気味な銀色に輝く建物を睨み付ける。


ウイィンと機械音を鳴らし自動ドアが開く


無機質な建物から一人の燕尾服の老人が出てきた。老人はカルロスに丁寧にお辞儀する。白髪混じりの銀色の長い髪は後ろに一本結びにしてある。優しい笑顔でカルロスを出迎えてくれた。


「…………お帰りなさいませ、カルロス様」


「ディーン…………」


よくぞご無事で、とカルロスに微笑む老人はカルロスの執事のディーン・クリファスだ。ディーンはカルロスにとって数少ない信頼のできる存在だろう。


「……コリン様は無事に……?」


「あぁ、コリンは魔女の手へ移り、アカバネを戦力として迎えることになった………お父様直々の命令……嫌な予感がする…………こほっ」


カルロスは軽く咳をする、少し外の風はいつもより体を刺すように冷たかった。


「……カルロス様、夜風はお体に障ります……早く中へお入りになってください。」


「ん、分かった……今お父様は何処にいる?」


「暫しお待ちを……」


外見だけでなく内装までもが無機質な建物は吹き抜けになっている。ふと上を見上げると闇のなかから微かに光輝く星を見つけることができた。この景色だけが無機質な建物を嫌いになれない理由だ。


「……今は指令室でございます。」


この建物はセキュリティが固くすべての部屋の出入りがIDカードで管理・記録されている。そして小型タブレットで位置を調べる事ができるのだ。


「そうか……少し話をしてくる。ついてこなくて大丈夫だ。メイにも伝えてくれ」


「承知しました。では、温かいお飲み物でもご用意致します。」


「……では、温かいミルクティーにしてくれ。部屋で待っていてくれ。」


エレベーターに乗り振り向き様に言う。


「……かしこまりました。」


閉まるドアの向こうで燕尾服の老人が優しい笑顔を見せた。ドアが閉まりどんどんとエレベーターが上がって行く。父には問うことがたくさんある、もしもコリンや民にこれ以上害があるようなものであれば一刻も止めなければならない。


ガラス張りのエレベーターから街を見渡す。


「……いつからだろうな、世界がこんなに悲惨になったのは…………」


ふと口から思ったことが滑り出てきた。


指令室のある階にエレベーターが止まる。指令室は相当高い階にある。ぐるりと首都を見渡す事ができる。


指令室の冷たいドアの前でIDカードをかざす。緑の光にスキャンされ、入室の許可が降りた。

緊張を落ち着かせるために深呼吸を幾度かしてからコンコンとノックをする。


「……入れ」


低く渇いた声が聞こえる。この声を聞くと何故か自然と背筋がゾクリとする。そしてドアノブにてをかけることを一瞬躊躇してしまった。


「…………どうした、さっさとしろ……」


深く深呼吸をしてドアノブをつかむ。


「……失礼します。」


後ろ向きに座る白髪混じりの髪をオールバックにした男、その男こそが断罪特殊部隊の創設者ムルジム・フェリアスである。


「…………成功か」


カルロスの方へ振り向かずに渇いた声で短く問う。


「……はい、ご命令通り魔女アカバネ・ローゼリアンを戦力として雇うことに成功しました……」


「………………そうか」


気持ちの悪いほどの静けさに一瞬めまいを感じる。


「……お父様」


「………………」


当然、返事はない


「なぜ、あの魔女がコリンを人質に選ぶことをわかっておられたのですか…………?」


そう、コリン・フェリアスがアカバネ・ローゼリアンに選ばれるのは偶然ではなく必然であったのだ。それをムルジムはわかっていた。


「アレは神の希望であり人類の絶望…だ………」


「!……それはどういう……………………」


「……出ていけ」


重くて冷たく渇いた声はカルロスの声を掻き消す。深い闇に覆われた感覚を覚えカルロスは力なく「失礼しました」と言い残し部屋から出ていった。


「……この世に希望はない」


扉の閉まる音に声は消えた。










読んでくださりありがとうございました‼まだまだ続きます!コリンはなぜアカバネ様に選ばれたのか?これからコリンはどうなってしまうのか?次回も読んでいただけたら嬉しいです!

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