ローゼリアン城の使用人
第五章
「では、さっそくこの城の説明をいたします!少々長くなりますがよろしいですね?」
コリンの目線にあわせてしゃがんだルルの鶯色のおさげが揺れ、ほんのりといい匂いがする。琥珀色の瞳がコリンを優しく見やる。
「は、はい!」
「では、このローゼリアン城は魔界のコルドスの森に囲まれた城。そして私達の主アカバネ・ローゼリアン様の領地。この城に仕えるものはアカバネ様との契約により雇われています。使用人は約十人ほどです。この城での主なお仕事は主の身支度に庭の手入れ、お食事の準備、部屋のお掃除、アルパカのお世話等々があります。」
「アカバネ様との契約…………?」
「まぁ、分かりやすく言えば身分証明ようなものですね。ほら、このように……」
ルルは髪をかきあげ、屈んで自分のうなじを見せる。見えたのは、黒い薔薇のような模様。
「…………!」
「この模様は魔界に自由に出入りするための模様でもありアカバネ様の使いでもある証なのです。……コリン様は今日の夜にでも儀式を行うと思います。」
「そ、そうですか……。」
なんだか嫌な予感がする……。
「では、話を戻しますね。これからコリン様にはどの仕事が向いているかをテストします。試験官は私、ルルが担当いたします。どうぞよろしく。」
ルルは気合いが入っているらしく、どこからか眼鏡を取りだしメガネをクイッとさせる。
「よ、よろしくお願いします……?」
「では、コリン様は先に大広間へ向かってください。私は後から行きますので……。」
ルルはくるりと踵を返して部屋を出ていく、急いで大広間へ行こう。
その時、どこからかピンポンパンポーンと放送が始まる。
「使用人の皆様へお知らせします。本日は新たな使用人の挨拶がありますので直ちに大広間へお集まりください。繰り返します……」
二回ほど放送が繰り返され終わった頃、コリンは大広間の前にたどり着いていた。不思議と威圧感を感じとりドアノブを引く手が震え出す。意を決して勢いよくドアを引く。
「し、失礼します!!」
「お待ちしておりました、コリン様。」
十人の使用人は同時にお辞儀する。好意的に接してくれているはずなのだが何故か威圧感がハンパない。コリンは意に反しあとずさってしまう。
「申し訳ありません、コリン様。まだ一人到着出来ておりません。ですが、すぐに来るという事なので続けさせていただきます。」
「まず、コリン様は他の使用人のことを把握することが必要です。では、早速自己紹介をしていただけますか?」
「えぇっ…………!?」
(いきなりの自己紹介の強要!?何てこった……)
コリンは混乱する脳を無理やり押し黙らせる。
「ぼ、僕はコリン・フェリアス……といいます……人間界からアカバネ様の人質……召し使いとして連れてこられました……。経験は全く無いですけど……精一杯頑張ります!よ、よろしくお願いします!」
「コリン様!良くできました!偉いです!ルルは感動しました!!では、私達も自己紹介をさせていただきますね!」
ルルは琥珀色の瞳を潤ませてとても嬉しそうに感動している。まるで授業参観で息子の頑張る姿に感動している母親のようだ。
「コホン……では、私はルル・ペリドットと申します。アカバネ様の第一メイドです。魔界のヘルヴィン出身です。主に事務を担当しております。以後お見知りおきを。……では、次の方」
「はい!はーーーーい!!次はレベッカちゃんだよ!レベッカちゃんはね、アカバネ様の第二メイドでアカバネ様の身支度をしていまーーす!それと魔界のトールル出身だよ!でね、裁縫がとーーっても得意だよ!あとね!……………あれ……?忘れちゃったー‼以上!次の人よろしく!」
自己紹介を終えたレベッカはコリンの周りを元気に飛び回る。よく見てみるとレベッカの顔は所々赤い糸でなみ縫いされているようだ。色々聞きたいところだが後にしよう。
「じ、じゃあ…………私が…………」
手を挙げたのは始めて見るメイドだった。薄桃色の少しウェーブがかったロングの髪の毛の上にはふさふさとした尖った耳を持っている。薄い藤色の瞳は緊張で少し震えている。
「わ、私はコノハ……です。アカバネ様の……第三メイド……です。魔界のナコク出身です。主に食事を作っております…………。い、以後お見知りおき………を。つ、次!!」
まさか昨日の美味しい料理は、この人が調理していたとは……!
「あ、あのコノハさん!」
「はひっ!?な、何です!?」
「あ…………き、昨日の夕食と今日の朝ごはんとっても美味しかったです……!ありがとうございました‼」
「い、いえ!ありがとうなんてそんな…………これは仕事ですので……!」
そう言うとみるみるうちにコノハの顔が真っ赤に染まり、首をブンブンをふる。コノハはそそくさとルルの後ろに隠れる。
「では、次は……」
「アタシよ」
ルルの声を遮るように野太い声が聞こえた。コリンはどきりとして声の方向をみやる。
しかし見えたのはひょろりとした長身。ゆうに180センチは越えているだろう。この中で三番目くらいにでかい。濃い紫の髪は長いストレートヘア、水色の目でコリンをゲス顔……?で見る。
「…………アタシはヴァイオレット・ヴィッセル……アカバネ様の第四メイド……主に仕事は研究ヨ。特に魔術のネ……。で、出身は魔界のカルティク。どうぞ、よろしくネ。」
「メ、メイドですか?」
「そうよぉ?男でもアタシはメイドよ!はい、お近づき~~~!」
手を出されたので握手し返す。するとヴァイオレットはズイッとコリンの耳元に囁く
「あんた、ホントにカワイイワネ!実に興味深いワ……後で私の部屋にこな~い?」
「えぇっ!?あ、その~……ヴァイオレットさん…………?」
こ、こわい。握手した手は固く握られ離れない。
ヴァイオレットは笑顔のまま離そうとしない。
「る、ルルさん………………!」
ルルに助けを求めようとしたその時、大広間のドアが勢いよく開く。
「遅くなったワネ……」
ヴァイオレットは声に気づいて手を離す。
入ってきたのはがたいのよすぎる体にメイド服を着た男。この人はたぶん昨日の………………?
するとコリンと男の目が合った。
「あら、あんた………………」
読んでくださりありがとうございました‼まだまだ続きます!