紅の魔女の城
第二章 紅の魔女の城
「……あなた、わたくしが怖い?」
少女は冷たい微笑をこちらに向ける。
「……ピゃッ?!え、あ、いえ…………。」
「クスクス、あなたが怖がるのも無理ないわ、わたくしは紅の魔女だもの…………でも、わたくしは協力料としてあなたを頂いたの、煮たり焼いたりなんてことはしないわよ?」
「………………。」
完全に心を読まれていたらしい。少し恥ずかしくなって耳まで赤く染まる。
「あ、あの………………そろそろ下ろしていただけませんか?」
完全に僕は今、紅の魔女の脇に抱えられているのだ。小柄な体に似つかわしい程の大きさの胸が僕の顔の二センチ程の近さにある…………もう耐えられない。
「……お迎えはまだかしら……?……やれやれですわね。」
僕の問いには答えず、紅の魔女は呑気にお迎えとやらを待っているらしい。ゴスロリの少女の横顔は月の光に照され妖しげな美しさを放っている。
七歳の僕でも見とれてしまうほど美しい。
…………ところで、何故僕がこんな状況に立たされているのかと言うと、見習い魔導師 僕 コリン・フェリアスは断罪特殊部隊の総司令官、兄カルロス・フェリアスに紅の魔女アカバネ・ローゼリアンが罪人狩りに協力するという取引によって人質として渡されたのだ。
なぜ僕が人質に選ばれたのか理由は全くわからないのだが…………。
「アカバネ様ーー!」
遠くから猛スピードで馬車がやって来た………?いや、違う、あれはアルパカが車を引いているらしい。
「あ、やっとお迎えが来ましたわ。遅かったわねルル、何か不具合がありまして?」
ルルと呼ばれた鶯色のおさげの和風メイド服の少女は深々とお辞儀をして。
「アカバネ様、申し訳ありません。今日はアルパカ達の機嫌が悪くアカバネ様をお待たせしてしまいました……………あの、アカバネ様、そちらの子供は?」
「この者の名前はコリン・フェリアス。噂の断罪特殊部隊の総司令の弟さんですわ。協力料金とし連れて帰るのですよ。」
「こ、こんばんわ…………コリン・フェリアスです……」
ペコリとお辞儀をしたコリンの前に
「こんばんはコリン様、私はアカバネ様のメイド
ルルです。以後お見知りおきを。」
鶯色のメイドはスカートの裾を少し摘まんでお辞儀した。そしてにこりと微笑んだ。
あ、この人はいい人そう。コリンは直感した。
「さ、挨拶はそこまでにして帰りましょう?わたくし久しぶりに面倒なことをして疲れましたわ……。」
「承知いたしました、アカバネ様、コリン様。では、お乗りください。」
コリンはアカバネに抱えられたままアルパカ車に近づく、アルパカはコリンを珍しげに見つめコリンの頬にモフモフしてきた。
「わふっ!?」
「これはアルパカ流のこんばんはの挨拶なのでお許しください。」
「は、はあ……」
二匹のモフモフに挟まれ(押し潰され)半ば窒息気味だが、モフモフは最高だったのでよし。
アルパカ車にアカバネとコリンは乗り込んだ。
向かい合って座るアカバネは退屈そうに頬杖をついて月を見ている。
「あなた見習い魔導師……といったかしら?」
「は、はい…………。」
「そう、これから楽しくなりそうね…………フフッ」
「え、それはどういう…………」
いいかけたその時アルパカ車がガタンと揺れて止まった。
「わふぅっ!?」
しまった、弾みでアカバネに抱きついてしまった
「す、すみませんでしたあぁ!」
コリンの顔はみるみるうちに真っ赤になり今にも湯気が出てきそうだ。
「あらあら…………クスッ……」
対してアカバネは慌てもせず笑うだけだった。
「着きましたよアカバネ様!コリン様!」
「……わぁっ……す、すごい」
車から出るとそこには………見たことのない蔦がはりまくった不気味な城
「これがわたくしの城、ローゼリアン城ですわ。」
その時、正面玄関が乱暴にバーンッと開き
「おかえりなさいませ!アカバネ様ー!」
大きな声がする、こちらに駆け寄ってくるのは小さなメイドだった。金髪のふわふわショートの少女はコリンに気がつき深い藍色の瞳を輝かせ。
「わーーーーーーい!!かわいいお客さんだーーーーーーーー!やったぁ!あっねぇねぇ!かわいいお客さん、名前何て言うの?」
「こらレベッカ、お客さんが困るでしょう?この人はコリン・フェリアス様、アカバネ様が連れてきたのですよ。言葉遣いに気を付けなさい。」
「あうぅ…………ごめんなさい、ルルさん、コリン様……。以後気を付けます!……ええっと、私はアカバネ様に使えるメイド レベッカ・コーネリアスです。以後お見知りおきを。」
スカートの裾を少し摘まんで可愛くお辞儀する。
「アカバネ様、コリン様、長旅ご苦労様でした。」
今度は燕尾服を着た長身の骸骨が片膝をついて丁寧にお辞儀した…………って骸骨!?
「…………ど、どうも。」
心の声を押し殺しコリンは挨拶した。
なんと奇妙な所に連れてこられてしまったのだろう…………このままでは殺されてしまうに違いない。
しかし、最弱の魔導師コリンには逃げることなんて絶対に不可能であった。
骸骨に連れられ城の中に入る。外の見た目によらず中は豪華絢爛であった。床はピカピカに磨かれ大きなシャンデリアはキラキラと輝いていた。ま、眩しい。
「では、改めてご紹介するわ、この者は見習い魔導師コリン・フェリアス、今日からこのわたくしアカバネ・ローゼリアンの召し使いですわ。」
……へ?召し使い……?
「え、ええええええええええ!?」
静かな夜に僕の叫び声は小さく響いた…………
読んでくださりありがとうございました!まだまだ続きます!