ローゼリアン城の怪異
最近忙しくて全く更新できませんでした…………!
少し冷えた風が光を受ける葉をゆるりと揺らし、あるいは地面へと下ろしていく。そして大広間には木漏れ日がポツポツと射していく。
ローゼリアン城の大広間にて、コリンと使用人達はというと…………
「えっと、残るは魔力属性テスト………ですかね?」
ローゼリアン城メイド、ルルは艶やかな鶯色のおさげをはねさせ首をこてん、とかしげる。
「おー!!まりょくてすとー!まってましたぁー!」
レベッカは金色の髪をふわりと揺らし楽しそうにぴょこんぴょこんと足踏みをしている。
ところで……"まりょくけんさ"ってなんだろ?なんだか楽しそうだけど…………。
「あぁ、魔力属性テストですか、それは楽しみだ。でも、少し骨が折れるんですよね…………骨だけに…………ふふ……………………」
「………………………………あ」
シリウスさんが少し笑ったようにみえるが皆は突然の親父ギャグに対応出来なかったらしい。大きくガシャリと音を立てて体育座りをしながら落ち込み始めた。それを見たコノハはわたわたとフォローをいれる。
「…あ………あ!わ、私もやりましたよ!"魔力属性テスト"ほんとに骨が折れるかと思いましたよね!ね!」
「そ、そうですよね…………………ぐすん」
骸骨のシリウスはぐすん、と涙を拭う仕草をする白い骨の指先が大きく空いた黒い穴の縁をコツンと擦る、先程までの威厳のあった渋い声が今では弱々しいので情けなく聞こえる。
「……あぁ……所で、ヴァイオレットさん、今からでも魔力属性テストの準備できますか?」
「オッケー、任せて!ちょっと準備に時間がかかるからここで待っててくれるかしら?準備が済んだら呼びに行くわ」
「はい、分かりました」
「…………それじゃ、パープル、ニシキ、ガルト、地下に行くわよ!…………っておらっ、あんたも行くの!」
ヴァイオレットは隣にいたアルデバランの髪を"ぐわしっ"と乱暴に掴みながらズルズルと引きずり大広間の扉へ向かう。
「うわぁー、髪の毛掴むなよぉ!ハゲるだろーが!」
手足をじたばたさせアルデバランは抵抗するが、全く無意味なようだ。
「お前みたいなじじいはハゲてなさい」
ヴァイオレットに続くように歩き始めたパープルはピリャリとアルデバランにいい放った。
「うわぁーーーひどいよぉっ、コリンくーん助けてぇえぇ!…………おぶぉっ」
「だまらっしゃいっ」
うるさく抵抗するがヴァイオレットのげんこつで一発ノックアウト。ごいん、と凄まじい音がした、へなりと昆布のようになり気絶したアルデバランをヴァイオレットが面倒くさそうに溜め息をする。
「…………はぁ、こいつのことは無視しなさい、さっさと行くわよ」
ヴァイオレットはアルデバランを樽のように無造作に担ぎ上げカツカツとヒールを鳴らしながら出ていった。
「はい!兄さんっ」
「……了解しました、…………ってガルト、なにボーッと突っ立っているんだ、さっさと動け、ポンコツ」
ニシキが冷ややかにガルトへ鋭い視線を向ける
「…ポン!?………な………なんだとぉ!」
「なんか文句あるか」
「………おう…………もう一回言えるもんなら言ってみろ!こらぁっ」
ガルトはファイティングポーズをとるがもはや蛇に睨まれたカエル状態である。
「ポンコツ、二度も言わせるな」
「はぁっ!?ほ、ほんとにいいやがった!」
「お前が言えっていったんじゃないか」
ガルトはうつむいたとおもえばワナワナと震え始めた。
「てんめぇ…ニシキ……ふざけやがっ………て……………………」
ガルトがニシキに向かって掴みかかろうとするが…………
「あんたら…………」
くるり、と振り向いたヴァイオレットとパープルにもじろりと見られ、とてつもない殺気を感じ静止する。
「………………わあったよ、行けばいいんだろぉ!…………ちっ」
ヴァイオレット達に連れられしぶしぶとガルトは大広間から出ていった。
「えっと、あの一体これから何をするんですか…………?」
「んー、簡単に言えばまりょくてすとっていうのは……血液型検査みたいなものかなぁ…………?」
「簡単に言えばそうですね、人間界ではあなたは見習い魔導師という肩書きになっています。ですが、おかしいとこにあなたの魔力の属性、タイプのデータが何処にも存在していないんです。あなたのお兄様にもそのような情報は受け取っていません。」
「ねぇねぇ、そういえばコリンくんは"まりょくてすと"人間界で受けたこと、ないの?"みならいまどうし"なら普通受けるはずなんだけど~」
「ええと…………………うーん……」
コリンは必死に頭をひねり、記憶を探る…………が頭から思い出されるのは味気ない本部での日々と曖昧な記憶ばかり。本部では外に出られず、空の色すら知らない日々を過ごした。本部のなかでもコリンは自由に動くことは出来ず、兄と一緒に行動する事がほとんど、まりょくてすとのそれらしき記憶はないようだ。そもそも見習い魔導師というのは後付けのようなもの、使える魔法は兄に教えられた簡易魔法の「ファイア ライト」だけ、それ以外は何も知らない。
ピコンと跳ねた明るい茶髪をプルプルと揺らし、余計な思考を止める。
「……多分……………受けたことない……かなぁ」
「うーん、そっか~」
レベッカは頬をぷくぅと膨らませ手のひらで頬をぷにぷにする仕草をする。
「まあ、やってみれば分かりますよ。気にしないで、ね!」
ルルが言い終わったとき、不穏な風が吹き、窓をガタガタと震わせ窓を射していた光が閉ざされ、大広間は薄暗くなりシュウウゥ…………という音と共に薄く霧が立ち込める。
「!これは…………」
「…………………な………?」
霧に視界が奪われ動けないコリンを囲むようにルル、レベッカ、シリウスがたつ。
「コリンくんは下がっててね!」
「そこから動かないでいてください…………ヴァイオレットさん達に報告に行きたいところですが…………この霧の量…………尋常ではないようですね………今、ここから動くのは危険………」
「…………へぇー、最近ぱったりと現れなくなったと思ったら…………他の影と融合してたのね………………ちょっと楽しみぃ~………」
真剣な顔のルルとは違い、レベッカは口許に笑み
をこぼしている。
「コノハさんは私の後ろへ…………出来ればコリン君はコノハさんにくっついていてください…………」
シリウスはガシャリと背骨を曲げ、構える姿勢をとる。
「…………はい!……コ、コリンくん!!」
「……………………わっ!」
「……手を…………離さないでください!」
おずおずとコノハはシリウスの後ろへ隠れ、コリンくんの手をしっかりと掴む。コリンも負けじとしっかりとコノハの手を掴む。
どんどん霧が濃くなっていく、すでに自分が何処にいるのかさえわからない。隣にいるコノハの姿も全く捉えることができない。
「…………来る!!」
レベッカが短く叫んだときだった、大広間の扉をいとも簡単に突き破り、より濃い霧が大きく空いた穴から大波のようにあふれでて大広間は闇に包まれ、視界は黒一色に塗りつぶされた。
「!!」
皆予想外の出来事のようだった、なんとか霧を払おうとするが闇は濃く深く一向に消える気配はない。
突然「ガキイィインッ」と大きな金属が擦れる音が耳元に響く。
「…………!コノハさん!コリン君!伏せて!」
シリウスの渋い声が響いたと同じ瞬間だった。パァンと何かが弾かれる音がすぐ近くで聞こえた。
ガシャンッ………ガラガラッ!
「シリウスさん!?」
何かが崩れて散らばっていくような音が鼓膜を揺らす。コノハがシリウスの名を呼ぶが、シリウスの返答はない。
「……………………っ!!?」
コリンは突然何か固くゴツゴツとしたものに足をギリリと絡めとられるのをはっきりと感じた、そして背筋が一瞬で凍りつき、体中の血液が止まったかのように体が強張る。
「あ……………………っ」
そして目の前には昨夜見た赤い光が六つ、怪しく強張るコリンの顔を照らす。
「…………コリンくん!?」
絡めとられた足は思い切り引っ張られ、その強い力はしっかりと掴んでいたコノハの手を無理矢理引き剥がしてしまう。コノハは必死にコリンの手を掴もうとするが、弾き返されてしまう。
「コリンく…………っ!」
「うりゃあぁあっ!!!」
レベッカが両手を真っ直ぐ横に広げると、足元に魔方陣が広がり、まばゆく光を放ちながら強い風を巻き起こし濃い霧を晴れさせた。
どうやら僕は今、宙ぶらりんに逆さまになっているようだ。頭に強い重力を感じ血が頭へと運ばれていくのを感じる。
「グオオォオォォオッ…………」
六つの赤い光の持ち主は低く曇った唸りを放つ黒い影のような化け物、大きさは昨夜僕が襲われた時の化け物の五、六倍はあるだろうか…………
「あ………あ………………………」
今すぐに化け物から逃げなければ、という思考はあるが体は強張り目をつぶることすら許そうとしない。
黒い影のような化け物は長く鋭利な鎌のような足をこちらに向けている。ドクンッ!……と心臓が飛び出さんばかりに鼓動する。恐怖で上手く息が出来ない…………。
死、と言うものが今、目の前にある
「コリン君!…………あぁっ!」
ルルが刀で黒い足の一つを叩き割ろうとしたが、足は固く刀はすぐに跳ね返しルルの体は軽々と後方に大きく弾き飛ばされ大広間の壁に全身を強く打ち付けた。
「……………………ぐっ!」
ガツン………という鈍い音とパラパラと壁がひび割れ剥がれる音が聞こえる。
「………!………ル………ルさ……っ」
必死にルルの名前を呼ぶコリンの体に化け物の鋭い足がグワリと持ち上げられ今にも突き立てられようとした…………そのときだった。
「グギャアァアアァアッ…………!」
鼓膜を強く叩くような悲鳴と共に黒い化け物の足が根本から千切れていた。
化け物から離れたコリンの体は浮遊感を感じながら床へと落ちていく…………と思いきや突然ガクンッと首根っこを引っ張られ後方へとぶん投げられた。
「う…………わっ!」
放り投げられながらも視界に映ったのはさらさらと舞ながら黒光する長い髪の毛。
床へ落ちるすんででルルがコリンを受け止めてくれた。
千切れた所から黒くどろどろとした体液をゴボゴボと垂れ流しながら苦悶の呻き声を上げる化け物の足の付け根辺りに光線が素早く走り、さらに足が二本、三本と切り裂かれていく…………。
ついに黒い化け物の目から赤い光が消え、力なく床へドシャリと崩れ落ち、そして塵のようにさらさらと溶けていった。
ルルたち目の前にいる人物は長く黒い刃物のような髪をなびかせ沈黙している。
「…………クロガネ……………さん…………………?」
ルルが小さく呟いたのをコリンはしっかりと聞いていた。
読んでくださり、ありがとうございました!まだまだ続きます!




