朝の影
やっと10部目に到達しました!
「ごきげんよう、司令官様」
モニターに映る魔女アカバネ・ローゼリアンは微笑をこちらに向け軽く首をかしげ軽く目を見開いて長いまつ毛がキラリと輝き揺れる。モニター越しであっても美しいと思わざるおえないのは少し癪ではある………
「やっとお気づきになってくださいましたね」
「…………………………は…………?」
「あら、どうかなさったの?まるで蛇に噛みつかれたような顔をして………顔色があまりよろしくないですわよ?」
驚くのは当たり前である、現在3時半……カルロスはパジャマ姿、こんな時間に叩き起こすなんて一体何の用なんだ…………
とは言えず、出かけた言葉をすべて飲み込み暗い部屋に光るモニターを睨み付ける。
「…………私の顔に何か付いていますの?」
紅の魔女はおろした漆黒の長い髪をゆるりとなびかせている。あの月の下では大人の色気さえ感じさせたが、朝の光にうっすらと照らされる陶器の如く艶やかな白い顔はあどけない幼さを感じさせる。
「あ、いえ………こんな時間に起こされるとは思っていませんでしたので、状況が理解出来なかっただけです………うぅ…………寒い…」
体がしん、とする寒さにぶるりと震え始めたのでパジャマの上から毛布をかぶる、始めは驚きすぎて布団から飛び起きたのでそこまで寒さを感じていなかったが、少々落ち着きを取り戻した所で意識がはっきりとし、寒さを体が感じ始めたのだろう。足先は氷のように冷たい。
「あら、そちらの世界はまだ"夜"なんですわね、こちらはとっくに朝ですわよ」
「…………だとしても、いきなり"もしもしーーー!"と叫ばれて驚かない人はいませんよ!……………それに先程のように大声を出さないでください…………周りに気づかれると厄介なので…………」
「あら、どうせ"ぼうはんかめら""とうちょうき"などというものが仕掛けられているんでしょう?………………なら無意味ではなくて?」
「!…………何故、それを」
この断罪特殊部隊の本部の全ての部屋には見えない防犯カメラ、盗聴機が取り付けてある。まずほとんどの人は気付くことはできないだろう…………
それに本部はIDカード無しで入れば即座に射殺となるはず、それに熱探知機も取り付けてあるから侵入者を見逃すわけがない…………のに、なぜ?
魔女は微笑みながら白く長い指でティーカップを絡めとり口をつける。こくん、と宝石の砕けるような小さな音がする。
この魔女を本部へ立ち入らせたことはないはず、いつの間にこの本部を調べたのか?
「極秘に私の遣いをそちらに送らせていただきましたの、どうにもあなた方人間は信用性にかけますわ…………」
「……この本部のセキュリティをどうやって…………?」
「…………あら、私を誰だと思っているのかしら?…………あなた方人間の小細工など子供だましにもなりませんわ」
つつ、とティーカップを指先で撫でる、まるで獲物をじわじわと追い詰め舌なめずりする蛇のように…………
こくり
「アールグレイの紅茶は朝にピッタリですわ…………心地よい温かさね」
ほう、と息をつくと艶やかな白い肌はほんのりと赤く染まっている。
「………流石、紅の魔女…………ですか」
「あら、誉めてくださるの?嬉しいわ」
クスクスと笑うその姿は、少女そのものである。と同時に身動きを取れない獲物を前に笑う蛇の様でもあった。
カルロスはわざと目をそらす
「……弟…………コリンは元気ですか?」
「もちろんですわ、私の使用人達がたくさん可愛がってあげています…………成長が楽しみですわね」
アカバネは窓から差し込む朝の光を眩しそうに見つめる
「……………………そうですか、それは良かったです」
「しかし…………」
アカバネはこちらにくるりと向き直り、不自然な笑みを見せた
「…………あなた方、あの子供に一体何をしたのかしら?」
「……………!…………それはっ」
「本当に人間は愚かしくて罪深い生き物ですわね……」
「………あぁ……………まったくです…………」
膝の上においた拳をぐっと握り締める、爪が肉に食い込み血が滲み出るほどに…………
「……あら、反論なさらないのね…………?」
「同意見ですから」
「…………そう」
アカバネはしばらくクスクスとわらっていたが、ふと差し込む朝の光に目を細め、嗚呼、と声を漏らし光に向かって手を伸ばす。
「…お話は変わりますが………………お恥ずかしながら長年楽しくお茶会をのんびりとたしなんでいたら随分と時代に遅れてしまったようですわ…………とくに…………この四角い鏡……ぱ…………ぱ?」
「"パソコン"のことですか」
「…………!そう、それ!それですわ!あなた方の世界は始めて見るものばかり!せっかくですから試してみたくなりましたの。………異界であってもこうしてお話しすることができるなんて素晴らしいですわ!これこそ"ぐろーばるか"!」
漆黒の魔女は何も知らない少女のように目を輝かせるが、その目の底には何とも言えない闇が沈んでいる、カルロスはそう感じた…………
「あぁ、少量の魔力を込めたパソコンですから魔力のある所では使用できるんですよ…………」
「人間界にも魔力が存在するなんて………いろいろ変わり果ててしまいましたね、私達も、人間も…………」
「…………そのようですね」
体が一瞬ふわりと浮いた感覚を覚えた、目を開けると目前にはコンクリートの硬い床…………ヤバイ!と思ったのももう後の祭りである。
ごいーんっ
「…あでっ!」
「司令官様!…………大丈夫?」
「いや、すみません…………突然の睡魔に勝てなかったようです…………いてて…………」
多分赤くなっているであろうおでこをさする。まだズキズキと痛む…………
「…………あらら」
アカバネは不思議だと言うように目をぱちくりさせる。揺れるまつ毛に光が反射して七色に輝いている
「………もう、そのくらいでよろしいでしょうか?素晴らしい発明の説明は後日致しますので………まだ人間の体は寝足りないようなので………ふあぁ……」
「………そうですわね、急に叩き起こしてしまって、ごめんなさいね?お大事になさって…………」
「あぁ、はい、大罪人の情報などは随時こちらから送りますので……何かあればすぐに私を呼んでください………………では失礼します」
「…………ええ、ごきげんよう」
プツリ…………
「あぁ、疲れた…………」
モニターの光は消え、再び暗くなった部屋の中カルロスはベッドの上で膝を抱えて丸くなる…………
寒い、足先の感覚はとっくに無くなっていた。
あの魔女の言葉がリフレインする
"あの子供に一体何をしたのかしら?"
正直に言えばカルロスでさえも詳細を知らされていない、いや知ろうとすることができないのだ。だが、父ムルジムはなにも知らせずに何かを成し遂げようとしている。コリンを使って…………
「………ムルジム・フェリアス…………あなたは一体何をしようとしてるんだ……………………」
届かない言葉が闇に溶けて消えた
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時は同じくして朝の光に照らされた部屋の中、暗くなったモニターの前でアカバネは優雅に紅茶をたしなんでいる。
「クロガネ」
「…………はい」
アカバネから伸びる影が水面のように波打ち波紋を広げわきだすそれはゆらりと揺れ、どろどろと人のような形が形成されていく
「人間界の偵察ご苦労様…………今後も頼むわね」
「…………承知」
「クロガネ、あなたが人間界を偵察している間に新しい使用人が来たの………出来れば挨拶してあげてくださる?」
「………………………………はい」
ザアア、と部屋のなかで風か吹き再びアカバネの影が波打ちクロガネの気配が消えた…………
「人間なんか大嫌いだ…………」
言葉は朝の影にこだまし、消えた。
読んでくださりありがとうございました!まだまだ続きます!次こそはバトルシーン!




