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始まりの世界







闇のなかに月明かりが差す。真っ直ぐ伸びた細い光は寝息をたてていた僕の薄いまぶたを照らした。僕は眩しさにぼんやりと目を細く開いた。起き上がると軽く目蓋をこすり小さくあくびをする。キョロキョロと辺りを見渡してみれば薄暗い路地。


「…………ここは」


静かな空間に声がむなしく響く、この問いに答えてくれそうな人の気配もない。もたれかかっていたレンガの壁がじんわりと僕の背中を冷やす。


「………………寒い」


様々な疑問が浮かんだのも束の間、冬の寒さが僕の手足を無意識に震わせ僕は自らの肩を両手に抱き込んだが寒さが防げたのは微々たる程。なぜだか覚えていないが身を包んでいた服は泥にまみれ所々擦りきれている。


「…………いてっ」













コツン…………コツン…………と紅に染まる空間に響く靴音、鳴り止まぬ銃声の中優雅に歩くその者は…………不敵に笑う一人の少女。


「っな、なんなんだ、あいつは!?」


「仲間が一気に殺られただと!?そんな馬鹿な…………」


恐怖に顔をひきつらせている男達は震える足を引きずり少女から逃れようとする。


「…………ああぁあぁあああぁあっ!?あ、足が…………」


「た、たすけっーーーーー」


首が一瞬にして赤い弧を描く。防御の魔方陣は薄いクッキーのように軽々と割られていく…………そしてついに銃声も断末魔も鳴りやんでしまった。


闇に響く断末魔を恍惚とした表情で耳を傾ける。


残ってしまった哀れな男は血の海のなかズリズリと汚く這いずりごぼごぼと血を吐きながらゆっくりと近づく靴音から逃れようとする。


四肢は既に切断され、千切れた傷口から大量の血を流し、大量の血液を失い、自らの血だまりの中にんまりと微笑む少女の姿を憎しみとともに目に焼き付ける。


「…………あら、これで「オワリ」ですの?まだまだわたくしは退屈で仕方ありませんわ…………もっと楽しませてくれると思っていましたのに、期待して損でしたわ…………これではダンスパーティの余興にもなりませんわよ?」


月の光に照らされたのは漆黒の少女。白い肌に浴びた返り血の赤がとても良く映えている。


「…た、たす……け………く、来るなアァアアァアァッ!!!」


ズリッ……ズリッ…………という音が空しく虚空に消える。


「たすけて?あなたは大罪人の使い、たくさんの人々を殺し、苦しめたのでしょう?これは罰ですわ。当然の報いではなくて?」


少女の声は痛みと苦しみに身を焦がす男には届かない。少女は退屈そうに呼吸が弱っていく男を見下ろす。


「…………もっと貴方の泣き叫び、喚き、もがき苦しむ姿が見たいのですが…………もう残り時間はなさそうですわね…………残念、ですわ」


紅に染まった漆黒(ゴスロリ)の少女は恍惚とした表情で語る。


「ば、……け……物…………!」


「あら、ご名答……誉めて差し上げましょう」


パチパチと少女は手を叩く。そして少女は黒い日傘の先端を男の眼球すれすれのところに差すと………


「…………こんなに美しい少女を目の前にして言葉に品がありませんわ。もう少し敬意を払ってくださった方がよろしかったですわね……」


「あ……………………………あ…………………………」


「罪人には罰を……さようなら、また会う日までごきげんよう」


「や、やめろっ!やめてくれ!やめ……あああああっ……」


グシャリ……と何かがつぶれる音がした


「………………………………」


男はしばらくビクンビクンと痙攣していたが、数分もたたないうちに静寂が訪れた。


「あぁ…………美しい……!これこそがわたくしの求めるもの……!」


そして少女はバレリーナのようにくるくる、くるくると回る。潰した男から流れる血しぶきはヒラヒラと舞う赤い薔薇の花びらのようだった。


そして少女はピタリと舞うのをやめ月光に伸びる自らの影に向かって呟いた


「…………クロガネ」


少女の影が波打ち黒い人のようなものが現れる。


「……………………」


黒い人影はゆらゆらと揺れるだけで音はない。しかし、少女は人影と会話するように微笑んだりする。


「わからないわね…………もう…………自分が何者かさえも、何故生きているのかさえも…………楽しい時間は限られているもの、永遠には続かないわ………」


苦しみは永遠に続くのにね…………


少女はクスクスと笑うが、その表情はわからない。そして黒い人影は黙ったままゆらりと少し揺れたように見える。





「……………………あれが、紅の魔女アカバネ…………ローゼリアン…………………なのか?」


「あの数の手下をこんな短時間で殲滅するとは…………信じられない」


周りのものはざわめきを起こすが、カルロスは慎重な面持ちでモニターを見つめていた。



「お見事でした、紅の魔女アカバネ・ローゼリアン様…………」


カルロスは平然と少女に頭を下げる。靴が血だまりを踏みつける音がビチャリとなる。


「……………どなた?」


少女は微笑んだ表情を崩さずにカルロスの方へと顔を向ける。白い肌は月明かりを反射し淡く光っているようにも見える。


「遅れてしまい誠に申し訳ありません。私は断罪特殊軍の副司令官、カルロス・フェリアスと申します。こちらは弟のコリン・フェリアス…………コリン、挨拶をしなさい」


「こ、こんばんは…………うわあぁあっ」


カルロスが丁寧に頭を下げたあと、コリンもしどろもどろだが頭を下げた。がアカバネの足元に赤く照らされた肉の塊におののき兄の背に再びしがみつく。


「まぁ!あなたがカルロス・フェリアスなのね?」


少女は漆黒のドレスの裾をつまんで丁寧にお辞儀をする。その時ふうわりと風が少女の長い髪、ドレスのフリルを揺らしている。


「…………そう、私が紅の魔女アカバネ・ローゼリアン、以後お見知りおきを……手紙を読ませていただきましたわ。大変面白そうな内容でしたわ!」



「そうですか、それは良かった。…………私は貴女方魔界族と断罪特殊軍とが協力し大罪人を一人の残らず殲滅しようと思っております。今現在、悪魔と契約した大罪人は日に日に凶暴化している。そして時空の裂け目も広がりつつあり…………もう我々人間では太刀打ちできないのです………ですから魔界だけではとどまらず人間界でも恐れられている貴女方の力をお借りしたい。噂では貴女は大罪人一人をもう消した…………と」


「あら…………………噂とは怖いですわね、ただの暇つぶしのつもりでしたのに…………」


クスクスと少女は笑う


「勿論、敵は悪魔と契約した許されざる罪人、罪人であれば罰を……………………貴女は求めているものを求める事ができる。そうでしょう?」


「………………私は楽しければそれで良いわ…………………ふふ、いいでしょう。私は貴方に雇われて差し上げますわ!あぁ、よろしければ一つ私のお願いを聞いてくださるかしら?」


「ええ、何なりと」


「………貴方の、後ろにいる小さくて可愛い子を下さらないかしら?ここ百年近く新しい使用人を雇っていなかったの…………ちょうど良い機会ね」


「…………あぁ、いいでしょう。もう一度紹介します、この者は魔術師見習いの コリン・フェリアス…………」


年齢七歳ほどの少年、コリンはカルロスの前に押し出される。


「えっ………ちょっ、にいさん!?」


僕は兄さんが何を言っているのかさっぱりわからない。兄さんはあの人の言葉に驚きを見せずあらかじめわかっていたかのように…………


「問題ありません。大罪人の情報、詳細は鳩で送りましょう」


「ええ」


「…………………………え?」


勝手に話が進む、僕はは唖然とするばかりである。あんぐりと開いた口がふさがらない。


「……え…………えええええええ!?そんなっ、にいさん!」


「さ、行きますわよ!コリン・フェリアス!」




「ご忠告ありがとうございます…………」


「にいさぁあぁあーん!?」


カルロスはアカバネ達が見えなくなっていくまで頭を下げ続けていた。


コリン…………すまない、これしかもう方法が無いんだ…………


激しい銃声が夜空に響くが、アカバネは軽やかに舞ながら次々と首を跳ねていく。


「……………………あっ」


コリンは恐怖で声も出ない。


半ば強引につれていかれたコリンは自分が大変な目に遭うなんて想像もつかなかった。


「えっ…………ここ飛べなっいっ!?わぁぁあっ」


「くれぐれも舌を噛まないでくださいまし?結構痛いんですのよ?」


ひょいと軽々と飛んだアカバネは急降下する…………がアカバネの足元に魔方陣が広がり浮き上がる。


「うあぅっ…………!」


幸い舌は噛まなかったが、驚きと恐怖で気を失ってしまいそうになる。くらくらしているとアカバネにしっかりと抱きかかえられる。

魔方陣に乗ったアカバネは湖のほとりに着いたところで降り立った。

































読んでくださってありがとうございました!つづきます。

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