表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/8

07 村の名物

 

 材料をかなり買い込んでおじさんの元に戻る。

 卸問屋と話を付け、おじさんに渡される砂糖やバターなどの品。

 おじさんはすっかり僕がお金を出したつもりになっているけど、材料費は後払いだからよろしくな。

 おじさんを信用しない訳じゃないけど、僕はもう何度も騙されているからさ、保険は大事だと思うんだ。


「おじさんの村に後で来てね」

「うちは金さえ出してくれりゃ、いくらだって卸すからよ」

「それは村で相談してください」

「ああ、追加の品が手に入れば村に行こう」


 とりあえずの品を荷車に載せ、追加の品は仕入れが終われば持参するらしい。

 その時にまとめて支払う事になるが、共同経営なら半分支払う事になるだろう。


「おう、来たの」

「荷物届いたのかな」

「ああ、さっき来てな。全部積み込んだぞ」

「じゃあ、行こうか」


 馬と言うかポニーと言うか、小型の馬っぽいのが荷車を曳いていく。


 《コニー》


 小型だが力が強い馬。

 性格は従順でおとなしく、賢くて人懐っこい。

 甘い物が好物。


 甘党の子馬かぁぁ。


 まあ、子供は甘い物が好きと決まっているか。

 もちろん僕も大好物だしね。

 ほれ、食うか。


 途中の休憩でコニーにクッキーを食わせてみた。

 そうしたらまたくれと擦り寄ってくる訳で……


「ありゃもう懐いたんだか」

「いや、手持ちのお菓子をあげたんだよ」

「さっきのだか? そりゃ懐くだろうな。こいつぁ甘いもんが大好きだからよ」


 おじさんにも分けてやる。


「ほんに美味いもんだなぁ。こんなのが村の名産になりゃ、そりゃ人気になるだろうて」

「ぶるるん」

「ロマもそう思うだか」

「ぶるるん」


 う、またパクリが頭に浮かぶ……ロマのパン屋はチンカラリン。

 いかんいかん、パクリはダメ、絶対。

 とは言うものの、製品自体は既に作ってあるからなぁ。


 どうやら村までは数時間掛かるらしく、

 昼寝と称して少しログアウトする。


 トイレと軽食の後、お菓子のレシピを読んでおく。

 うろ覚えで何とかなったけど、記憶の補填って大事だよね。

 つらつらと読んでまたしてもログイン。


「よう眠っていたのぅ」

「もう着くんですか」

「ほれ、あれがそうじゃ」


 長閑な村という印象で、周囲にも不審な存在は居ない。

 どうやらモンスターはこの界隈には居ないようで、最初の町といいここといい、平和な場所が多いようだ。

 となると、モンスターは何処に居るのかねぇ。


 聞けば森に入れば動物が居るようで、奥に行くとモンスターも出るらしく、村では奥に行かないようにしているとの事。

 出て来ないのなら狩りに行く事も無いって事のようで、お互いに不可侵になっているようでもある。

 となると、賢いヌシでも居て、人を襲うとどうなるかを知っている可能性もある。

 なんにせよモンスターが出ないのならそれはそれで、村としても問題は無いだろう。

 確かにモンスターの素材が手に入らないだろうが、人的被害が出ないほうが良いだろうしな。

 それにこれから村の名物が出来るから、そんなファクターは無いほうがいいはずだ。

 観光に来るのにモンスターの巣とか、誰が来たいと思うものか。


 共に村の中に入る。


 ひなびた村という感じで村人が素朴、かと思えば妙に雰囲気が違う。

 特にそれが顕著なのが村長で、どうにも嫌な予感が止まらない。

 早々に保険が役に立ちそうで嫌だけど、仕入れた品を活用しない事には始まらない。

 名産になり得る品を、共同で開発して売る契約を申し出るも、まずはその品を見せてくれと言う。

 ますます嫌な予感は強まるが、品を見せねば商談にもならぬと、荷車の荷物を物色し始める。

 仕方が無いので砂糖とバターをふんだんに使い、とっても甘くて歯ごたえのあるビスケットを作って見る。

 試食をさせるとその甘さに驚き、そして契約は明日行うと、早々に追い出されてしまう。


 宿で一夜を明かし、村長のところに行くと、すっかり初対面な素振り。


「ようこそ、ザカルトの村へ。今、ちょうど村の名物が出来上がるところでな」

「契約はどうなりました? 」

「うん? 何の事じゃ」

「それで良いのですね」

「訳の分からぬ事を言う子じゃの」


 まさかと思いはしたが、本当にこうなるとはね。

 おじさんは人の良い感じだったのに、村長が腐っていたとは。

 本当に保険が役に立っちゃったよ、情けない事に。

 まあその場合は僕の分の仕入れの金もついでに払ってくれると嬉しいよ。

 なんせ大量仕入れの分も合わせ、村で追加の品の分と合わせて支払う約束だから。

 だから荷車に積んだ量が少なかったのさ。

 あらかた僕のアイテムボックスに入れたから。

 その分はアイディア料って事でよろしくな。


「おじさん、これ、どういう事なの? 」

「済まんの。村長の方針での、わしは反対したんだが、どうにもの」

「名産品のルーツはアイディア横取りって宣伝しといてね」

「ほんに済まんの」


 それにしても困ったね。

 確かに世知辛いのは学習したし、中抜きもちゃんとやれているけど、共同経営とかやれそうにないよ。

 どいつもこいつも詐欺師の親戚みたいな奴ばかりで、とても信用出来そうにない奴ばかりだよ。

 運営は本当にこのゲームで何を学ばせたいんだろうね。

 そんな人間不信を助長させるような事をして、何がしたいのか分からないよ。

 村が当てにならないので、おじさんと共にまた王都に向かう羽目になる。


「ほんに済まんの」

「いいよ、別に。アイディアは盗られたけど、材料費はまだ払ってないからさ」

「どういう意味かの」

「そのうち追加で村に材料が届くけど、その時に昨日の分の支払いもする事になっているんだよ。僕は共同経営のつもりだったから、まとめ払いの時に村と支払いの割合の相談をして、それぞれに払うつもりでいたからさ、まだ払ってなかったんだ。だけど村長はアイディア横取りで他人の素振り。なら、全額支払う事になるのは当たり前だよね」

「あれはおぬしが払ったのでは無かったんかの」

「総額100万Dディグだよ」

「なんと、あれだけでそんなにするのかの」

「そりゃ、王侯貴族が使うような材料だよ。本当はもっと経済的に楽になるアイディアもあったのに、見本で作った贅沢な試作品で裏切るんだ。精々ふんだんに使って満足すればいいさ。大赤字の現実を知らずにね」

「村長のせいだの」

「しかもまだ材料は届くからさ、総額500万Dディグぐらいになるだろうけど、僕はもう切られたから知らないよ」

「致し方あるまいが、本当は儲けになったのかの」

「そうだね、僅かな量でそれなりの味にする工夫もあったけど、裏切り者に教えるはずないよね」

「抜け目がないの」

「何度も騙されたからさ」


(あやつもこれで終わりかの。ほんに強引じゃったが、まさか村の恩人まで裏切るとは、自業自得じゃろうの。しかしあれで補填になったかの)


 NPCが当てにならないので、商業ギルドに加入しての商談に切り替える。

 手持ちの材料を共同作業場に持ち込み、色々に作っていく事になる。

 材料費の支払いよろしくな、ザカルト村の村長さん。

 それにしても大量にアイテムボックスに入れすぎたかな。

 材料が物凄くあるんだけど。


 詐欺師の上前をはねる気分だよ、全く。


 ◇


 商業ギルドで商品を登録し、契約のままに納品する。

 この登録というのは特許のようなもので、世知辛い世の中の救済のようなもの。

 登録料はそれなりに必要になるけど、他人がうっかり作って売れないし、売りたいならアイディア使用料を支払う必要がある。


「お味はどうでした? 」

「これは売れますぞ」

「とりあえず手持ちはあれで全部なので、売れるだけ売った後は登録の買取も募集します」

「きっと大店が欲しがると思いますよ」

「そうなるとありがたいよ。個人じゃ大した儲けにならないしさ」

「そうでしょうな」


 それにしても、普通のクッキーの登録はやれなかったけど、あの村大丈夫かな。

 さすがに先行のプレイヤーも間抜けじゃなようで、登録出来そうな品は大抵登録してあった。

 今回、登録出来た菓子は『テペ焼きメイト』と『テペサンドクッキー』になる。

 村はまだ試行錯誤の段階だろうから、先に登録をしておくよ。

 使いたいなら登録料をちゃんと払ってくれな。


 それにしても、布団叩きの登録がされてなかったけど、あの宿屋の亭主は何処に売りに行ったものやら。


 うん? 登録? もちろんしたよ。


 そして手持ちの中から40本を預け、売れるようなら売ってくれと頼んでおいた。

 でもさ、査定がいくらになるか知らないんだ。

 需要次第で値段が変わるらしく、クッキーと合わせてその見極めをして売れたらギルドカードの預金に投入するとの事。


 さて、貯金がどうなるんだろうな。


 ◇


 用意する物は木の板とカシメと吸盤。

 組み合わせるとマジックハンドという名の玩具が出来る。

 材料自体の購入は、それぞれの工房に依頼すると簡単に揃い、共同作業場で製作するだけの簡単なお仕事。

 手持ちの木の枝も布団叩き化させ、まとめて商業ギルドに納品しに行ったところ、布団叩きが全部売れたらしい。


「あれは画期的だと人気での、小売りに皆売れたのじゃ」

「ならこれ追加です」

「儲けは預金に入れておいたでの」


 見るとやけに多い。


「これってお菓子のお金も入ってる? 」

「あれはまだじゃ。どうやらお貴族様が気に入ったようでの、かなりの価格で売れようの」


 よくよく聞いてみると、ノーマルなクッキーの登録をした人は女の人で、権利を大手の商会に売って大金をせしめたらしい。

 大金貨数枚になったらしく、僕の商品もそれと同等かそれ以上になりそうとの事。

 材料のひとつであるテペだけど、素知らぬ顔で仕入れるらしく、本当に抜け目が無いと言うか。

 まあ、今年の分はあんまり手に入らないと思うよ。

 なんせ僕のアイテムボックスの中に大量にあるからさ。

 おじさんがあんまり恐縮していたからさ、アイディア料代わりにせしめておいたんだ。

 それを売っても良いけど、村じゃ試行錯誤をしているからもう、以前のようにジュース単品で売る事も無くなるだろうし、あんまり手に入らない品になるかもね。


 ◇


 結局、マジックハンドと布団叩きと各種の菓子を登録し、そのうちの布団叩きについては大手の商会が買取を希望しているらしい。

 大陸中に需要がありそうだと、かなりの価格を提示しているようだけど、商業ギルド自体もその見通しを持っているようで、ギルドのほうに売る事になるのかも知れない。

 どのみち、そう簡単に作れそうにない品だし、作るなら専門職に頼むしかあるまい。


 そう、僕のようなアイテム師にね。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ