02 初依頼
いきなり変な事になっちまった。
戦えない職でも何とかやってみようと思っていた矢先、まさかの冒険者協会の陰謀。
え? 陰謀とか被害妄想だって? そう思うのかよ、この依頼を見ても。
-猫の園-
うちの猫ちゃん達のノミ取りをして欲しいんざます。
猫ちゃん達は128匹居て、みんな痒いみたいで困っているざます。
専門のノミ取りの人が辞めて困っているざます。
早急に来て欲しいんざます。
報酬は1匹当たり中銅貨1枚ざます。
これ、酷いだろ。
中銅貨1枚って10Dだよ。
そりゃ確かに全部の猫のノミ取りをすれば、1280Dになりはするけどさ、普通の戦闘職なら外のモンスターを狩ればそれぐらい簡単に稼げるらしいじゃないか。
大体1匹のノミ取りでどんだけの時間が掛かるんだ。
10分で終わらせても1280分、21時間ちょっと掛かる計算だ。
確かに中の時間は4倍速だけどさ、こんな事に外の時間で5時間以上とかあり得ないよ。
あーあ、何でこんな事になっているんだろう。
「遅いざます」
「申し訳ありません」
「この部屋に居る猫ちゃん達のノミ取りをして欲しいざます」
「あの、区別はどうしましょう」
「どういう意味ざます」
「あのですね、ノミ取りを終えた猫と混ざると分からなくなるので」
「そんなの知らないざます」
「うぇぇぇ」
部屋にわんさかの猫。
とりあえず端のほうからノミ取りを開始する。
1匹終わるのに30分も掛かっちまった。
あ、こら、そっちに行くな。
あーあ、どれか分からなくなっちまった。
仕方が無い、次はこいつに『うぎゃぅ』
いたたたた、くそ、引っ掻きやがったな。
こんな事で回復薬を使わせるなよ。
うお、沁みる。
確かに治りは早いけど、これはまた沁みるな。
雑菌とかの心配は無いんだろうか?
一応、治ったみたいだけど、雑菌が入っていたら後々怖いんだけど、どうなんだろう。
ああ、また逃げられた。
これはダメだ、やり方を考えないと。
◇
道具屋に行って何か良い道具が無いか考える。
猫の区別をする為には、何かの目印を付ければ良いって事だ。
となると……
「ありがとうございました」
シーツを買いました。
手持ちの金ではこれしか買えなかったのです。
しかも500Dでした。
つまりこれで文無しです。
こいつを細い紐にして128本用意します。
もうお分かりですね、区別の為です。
通りの脇に座り込んでシーツを裂いていると話し掛けられる。
「ねぇ、君、それ、どうやっているの? 」
「どうって、シーツを裂いて紐を作っているんだけど」
「だからどうやってやっているのさ」
「見て分かんない? 手で裂いているんだよ」
「いや、だからそういう意味じゃなくてさ、どうして裂けるのかって聞いているんだよ」
「握力があるから」
「あーもう、分からない人ね。普通、そういうアイテムは形状の変化は出来ないの」
「出来ているじゃん」
「見てなさいよ」
ジャー、ぽわん。
「あ、消えた」
「ね、破こうとしたらこうして消えちゃうの」
「何が、ね、だよ。なけなしの金で買ったシーツが」
「あんなの500も出せば買えるじゃん。バッカみたい。ふん、もういいよ」
「待てよ、シーツ返せ、ドロボー」
「煩いわね。人聞きの悪い事を言わないでちょうだい」
「僕のアイテムを消しといてよくそんな事を言えるよな」
「返せばいいんでしょ、返せば。ほれ」
チャリン、チャリン、チャリン
「投げる事は無いだろ」
「ふん、ほれほれ、拾え拾え」
ちくしょう、覚えていろよ。
「名前は」
「ふーんだ」
「ふーんださんね、了解」
「バッカじゃないの。ユリエよ、ユリエ」
「リアルネームは使わないほうが良いぞ」
「煩いわね。やったものは仕方が無いじゃない」
合ってた。
てかこいつ、怒らせたらいくらでも情報吐くぞ。
ユリエね、覚えておこう。
そのうち情報源になるかも知れないし。
僕を乞食扱いした報いはそのうち取ってもらうとするよ。
それにしても、相当に怒ったのか、金貨投げたんだよな、あいつ。
しかもこれ大金貨だよ、それが3枚。
いやぁ、初心者に優しいねぇ、くっくっくっ。
アイテムボックスに入れるといきなり大金表示になった。
意外な事で稼げてしまったな。
「アンタ、待ちなさいよ」
おや、気が付いたのかな。
「右や左のだんな様。おっと、奥様ですか」
「くっ」
「やりたいのならやらせてあげるけど? 」
「いらないわよっ」
「じゃあ、そういう事で」
いやはや、プライドが邪魔して返してくれとは言えないんだね。
言えば全額は無理だけど、シーツ代を引いた額を返してあげるのに。
それなら最初から人を乞食扱いしなければ良いのに。
人にはさせるけど自分がやるのは嫌って事だろ。
嫌と思うなら人にさせるなと思うんだけど、それが分からないって事は中の人はお子様なのかな。
プライドの高いお子様……うわ、関わりたくない。
シーツを買い直し、130本の紐にした後で、猫の食事もついでに買う事にした。
あの引っ掻いた猫もそのうちノミ取りの必要がある訳だし、何とかご機嫌を取らないとな。
本来ならやれなかったんだけど、あの人のおかげで手持ちに余裕が出来てありがたかったな。
それにしてもシーツ2枚で1000D、猫のご飯で1000Dと、余計なお金が掛かってますね。
◇
さあ、始まりました、猫のノミ取りレースの開催です。
紐を首に掛け、いよいよノミ取りが開始されます。
スッキリした猫は逃げてしまうので、先に紐を付けておく必要があるようです。
慣れてしまえばこっちのもの。
次々と猫は元気になっていきます。
引っ掻いた猫にも餌をやると、食べている間はおとなしいようです。
餌を出しながらノミ取りが終わり、彼もすっ飛んでいきました。
ふうっ、実況風にでもしないとモチベーションが湧かないよ。
そりゃ確かにうちの田舎に行けばじっちゃんの猫が居るけどさ、ノミ取りなんてした事無いよ。
でも、これで慣れたから今度行く時にはノミ取りしてやろうかな。
気付くとログアウトアラームが鳴っていた。
ああ、連続9時間、1日12時間の制限か。
もうそんなに経ったんだな。
ふうっ、ああ、お腹空いた。
またぞろ奥さんに申し出て、明日来るからと伝える。
早くしろの一点張りなのには辟易するが、順調にやれているから心配するな。
食堂で定食を食べ、宿屋に行くと満員と言われ、仕方が無いから厩を借りてそこでログアウト。
初日からハードだったけど、何とかなりそうな予感。
ユリエさん、ありがとう。