第七話 王子様のお願い2
「あ、貴方が、王子様なんですか……?」
「ああ。昨日から何者かに葬られようとしているみたいだけど、その通りだな」
明らかに不審者の私を敵とみなしてない。いや、亡き者にされようとしているのに、敵も味方もないのか。絶望の境地にいるので、肝も据わってしまったのか。
「お前にも名はあるのか?」
やさぐれた笑みを浮かべ、アレクシス王子は私に尋ねた。
「私は、吉永蜜柑。異世界の住人です」
こっちの世界から見たら私の世界は異世界だ。
アレクシス王子の驚く顔が見たかったが、彼は仏頂面のままだった。
「異世界? もしかしてお前は妖精なのか?」
「妖精……?」
余弦国の連中も、妖精の名を口にしていた。この異世界で妖精が何の意味を示すのかは知らない。でも、幽霊が妖精と言い変わったら悪い気はしない。アレクシス王子の目には私が妖精のように可愛らしく映っているのかもしれない。
「そうかもしれませんね、妖精かも!」
私のギャグのつもりだった。
思いもよらないところで、アレクシス王子の目が穏やかになったので、私はその変化に驚いた。
しかし、その表情も次の瞬間には曇ってしまった。
「誰かが、私を葬ろうとしているとしか考えられない。唯一信頼を置いている執事のパトリックも最近では疑ってしまうありさまなんだよ……。疑心暗鬼になってしまっているのかもしれない」
気の強そうなアレクシス王子の目が潤んだ。私は、すっかり彼に同情していた。
なんて、気の毒な王子様だろうか。
「蜜柑。お願いがある」
「お願いですか……?」
「私を死に至らしめようとしている者を突き止めてくれないか」
「面白いですね、それ」
私はニヤリと微笑む。すると、アレクシス王子は続けた。
「私は幼い時に余弦国の使者から予言を受けたことがあるんだ。私が危機に陥った時に、異世界から妖精が助けに来てくれると。だから、私は密やかにこうして異世界からの妖精――つまり、蜜柑を待っていた。馬鹿馬鹿しい最後の賭けだったが、どうやら私は勝負に勝ったらしいな」
私は、妖精と称された救世主というわけか。王子様から大役を頂いた気分だった。
「私は、毒を入れた犯人を探せば良いんですよね?」
「そういうことになるかな? やってくれるな?」
姉が投げ出したっていうのが気になるけど……。
「う、うん、いいよ!」
「ありがとう、蜜柑」
そうして、私は異空間を使って、王子様の食事に毒を入れた犯人捜しをすることになったのだ。