第三十話 魔霧ノ森……?
早速、アレクシス王子の部屋に半トリップすることにした。異空間の外に借りてきた本を押し込める。アレクシス王子の部屋に手だけを出した状態で、本を開いた。
異世界の活字がページに整列しているので、やはり私には読むことができない。
だから、偽王子君に翻訳してもらった。異空間の画面を通して見ると、文字は翻訳されて読むことができるのだ。
『はい、どうぞ!』
「流石、偽王子君だね。えーと……」
おおっ、なんだ~。
ちゃんと、妖力草が自生している場所が書かれてあるじゃないか~。
『うわっ!?』
「ん……?」
突然、アレクシス王子の部屋から仰天したような声が聞こえてきた。私は本を姉の部屋に引っ込めて、異空間から顔を出した。
「パトリックさん?」
すると、目をまん丸くしているパトリック執事が居た。パトリック執事は私だと分かった途端、胸を撫で下ろしている。
「蜜柑様でしたか……! 私めは肝を冷やしました!」
『俺もいるよ~』
騒動に気づいたアレクシス王子が、奥から姿を現した。
「どうした、パトリック」
「本が浮いていたので、何事かと思いました。蜜柑様と偽王子様でございました」
「そうか、蜜柑と偽王子だったか」
アレクシス王子は、楽しそうに一笑した。この頃、アレクシス王子は明るくなったように思う。私も、頬を緩めた。
『なんだか、楽しそうですね』
「それでですね、アレクシス様……」
すると、アレクシス王子の表情が真剣な顔つきになった。
「その様子だと、すべてお見通しのようだな?」
『はい。俺たち、妖力草の事を王立図書館で調べていました』
「それで、何か分かったのか?」
「妖力草は、魔霧ノ森の中に自生しているそうです」
ちゃんとありかを調べた私は偉い。しかし、アレクシス王子は嘆息した。
「すまないが、魔霧ノ森の中に自生していることはすでに調べてある」
「あ、あれ……? 調べてある……? なら、どうして、配下の者たちに取りに行かせようとしないの?」
『どういうことですか? アレクシス様』
偽王子君の問いに、アレクシス王子は頷いた。
「魔霧ノ森とは、百人その森の中に入れば百人迷って出てこれなくなるという霧がかかっている磁場の狂った森だ。その中に入ると彷徨った挙句、迷って挙句には死んでしまうと言われている」
「な、何だって~!?」
『一人も帰ってきた人はいないんですか?』
「はい、偽王子様。帰ってきた者は今までにおりません」
あれっ? ちょっと待てよ……?
「で、でも。私は妖精だから、行って帰って来れるんじゃない?」
『そうだよ! 蜜柑ちゃん! 俺たちに不可能はないよ!』
おおお、勇者っぽいぞ!
いつも通り、異空間から見たまま移動すればなんなく行けると見た!
「じゃあ、私と偽王子君で行ってきます!」
アレクシス王子は頼もしそうに私たちに微笑んだ。
「頼んだぞ、蜜柑、偽王子」




