第二話 アパートの姉の部屋
驚いたことにベランダのプランタの下から出てきた鍵と、姉が住んでいるアパートの部屋の鍵は、ぴったりと合った。実は、このアパートの大家さんは、私の親戚の伯母だ。
その親戚のアパートの大家さんが言うことには、
「檸檬ちゃんは五年間分の家賃をまとめて払ってくれているの。蜜柑ちゃんなら自由に使っていいって言ってたわよ~!」
とのことだ。
実際、姉のアパートに来ることはめったにない。何故なら、姉は旅行好きで出かけてばかりなのだ。ふと、姉のアパートを訪ねても留守の事が多い。だから、来ても姉に会えないので、いつの間にか全然行かなくなってしまったというワケだ。
深呼吸をしてから私はドアを開けた。閉められた遮光カーテンが、ほの明るい光を押しとどめている。そして、長年閉め切っていたせいかカビ臭い。そして、ずっと放置していたせいか、ほこりが蓄積している。
まず窓を開けて、空気を入れ替えた。そして、机やクローゼットのほこりを払っていく。すると、机の上に手紙が置かれてあることにも気づいた。
「おお、手紙……」
これが、あの自称彼氏が言っていた、姉の手紙か。
はたきを机の上に置いて、手紙の封を開けた。白い便せんには姉の傍若無人な字が躍っている。
「なになに……?」
【蜜柑へ 学生時代の頃から私は異空間の中に入って異世界を満喫していたのだよ。だから、私のハッピースイートライフを守るため、お前に隠し事をしていた】
「……は、はぁ……?」
ああ、そうか。姉の新しいギャグか、なるほど。
私は続きを読み始めた。
【蜜柑、お前も私と同じ血を引く者だ! だから、私と同じことができるはず! 『開けゴマ!』と念じてご覧! 異空間を使って転移し放題だ!】
お姉ちゃん、頭わいてんのかな……。
私は涙をぬぐって、続きを読んだ。
【そして、私は異世界で結婚することになった!】
「ちょっとまて! 結婚する!? はぁああ!?」
【だから、私の異空間をお前にやろう! もうお前は、私に足を向けて寝られない!】
「お姉ちゃんの住んどる異世界の方角なんて知らんがな!」
【そして、私が遊びまくった異世界もお前にやろう! 私の手あかがベットリ付いた異世界だが、蜜柑も遊びまくってハッピースイートライフを満喫してくれたまえ! P.S. 日記にヒントを沢山残しておいたからね~!】
ふ、ふざけてんのか? おちょくってるのか? それとも、本気……?
私は姉の妄言に混乱していた。
「異世界に通じろとでも言ったら、姉の異空間が通じるのか? 開けゴマ! と言ったら……」
驚いたことに、ぼわんと音がして異空間が開いた。
「ほ、ホラーなのか!?」
私は驚愕して立ちすくんでいた。
しかし、しばらく経っても何も起きないどころか、異空間は丸い窓のようになっていて、そこから異世界らしい風景がテレビの映像のように流れている。
私は、机の本棚から姉の日記を探した。
そして、姉の日記を胸に抱きしめたまま、半ば引き寄せられるように異空間の前に正座したのだった。