第二十一話 甘露と黒幕
厨房に異空間の画面を合わせると、料理長が鼻歌を歌っていた。
『なんか、料理長がごきげんだよ? あっ、何処かに行くみたいだよ!』
「後をつけよう!」
私は大慌てで、姉の部屋で座っていた体勢を整えた。そして、念じて異空間を操作する。料理長の後を私の異空間が付いていく。
料理長はロング・ギャラリーを出た。足早に宝玉城の階段を上がって行く。ある部屋のドアの前で足を止めた。待ち構えていたメイドと挨拶している。
『キャメリア様はおいでですか?』
「はい、もうお待ちかねです!」
料理長は、キャメリアという人物の部屋に入って行った。私は、異空間に命令してそのドアをすり抜けて料理長の後に続く。室内の雰囲気は、アレクシス王子やローズ第三王妃のお部屋の類だ。この部屋の主は高貴な方に違いない。
『でも、キャメリア様って誰だろう?』
私は眉を寄せて、姉の日記をパラ見した。すると、姉のメモがあった。
「えーとね。王妃がライラック様で、第二王妃がメープル様。そして、第三王妃がローズ様、第四王妃がオルタンシア様で……」
『アレクシス様が仰るには、第五王妃までいるんだよね』
「うん。第五王妃はこのキャメリア様だよ!」
「キャメリア様におかれましては、お変わりなくお過ごしの事、お喜び申し上げます」
料理長はキャメリア第五王妃に、挨拶の常套句を述べてから一礼した。
料理長の前にいるのが、キャメリア第五王妃らしい。キャメリアは紫のドレスに身を包んでいる。顎を上げて一礼した料理長を満足そうに見下ろしている。
第五王妃のキャメリアは若くて美しい王妃だった。キャメリアはご機嫌で話し出した。
『ローズ様が毒を入れたことになっているじゃない。全部、貴方の仕業なのにね!』
『はい、キャメリア様!』
もはや、お代官様と越後屋だ。甘露を舐めているような表情で笑い合っている。
『やったね、蜜柑ちゃん!』
「うん、やっと犯人を見つけたね!」
やはり、料理人フェリックスに罪を被せようとしていた料理長が黒だったってわけだ。
『本当は、妃殿下に復讐したかったのだけど、まあいいわ!』
「ひ、妃殿下……?」
『ライラック王妃のことだよ。つまり、アレクシス様のお母様だよ』
「な、なんだって~!?」
とんでもない理由だった。アレクシス王子はとばっちりだったのか。
「やっぱり、お城では色々とあるみたいだね……」
『檸檬さんが逃げ出したのも納得だね』
料理長とキャメリアは、のちに捕まって処刑されたことを、後で耳にした。
私はというと、姉のリタイアした事件を解決して至極ご満悦だったのである……!




