第一話 蜜柑(みかん)と偽王子の出会い
残酷描写は、大したことはないかもしれませんが、最後の方に一ヵ所だけあります。
この物語は、虚構ですので、現実ではまずあり得ません。くれぐれも、さぎにはご注意ください。
私、吉永蜜柑には、美人だが残念系の姉が一人と、共働きの両親がいる。私は、この間誕生日を迎えたので十六歳になった。姉とは五歳離れているから、姉は二十一歳だ。
姉は、現在一人暮らしをしている。一年前まではたまに帰ってきた姉も、最近は全然姿を見せない。今度、姉が帰ってくるのはいつ頃だろう。ため息をついて、カレンダーを見つめる日々だ。
そんな、冬の寒い部屋が夕日に染まったある日の事。私のスマホがけたたましい音を立てた。電話はあまり使わないので、一昔流行った曲が調子はずれに楽しく鳴っている。見ると、知らない番号からかかってきていた。私は、テーブルの上に投げ出していたスマホを手に取った。
「はい」
『貴方が蜜柑ちゃん?』
男の低い声が私の鼓膜を震わせた。
怪しい電話ならキッパリスッパリ断ろう。スマホを持つ手に力が入る。
『俺、貴方のお姉さんの彼氏です』
どうして、姉の彼氏が私のスマホにかけてくるんだろう。電話番号を知っているというのもおかしい。
『檸檬さんから伝言があるんだけど』
檸檬とは、私の姉の名前だ。私はスマホを持ち替えて、耳に押し当てた。
「伝言ですか?」
『檸檬さんのアパートの部屋に、蜜柑ちゃんあての手紙があるんだって、だからそれを読んでほしいそうだよ』
えっ? 私あての手紙……? 真実めいた言葉に私は戸惑った。
「……貴方が本当に姉の彼氏だと証明できますか?」
『そうだねぇ……』
疑り深い私に、自称姉の彼氏は電話口で考え込んだ。
『ああ、檸檬さんが『アパートの部屋の鍵は実家のベランダにあるプランタの下に置いている』って言ってたよ。それが証明にならないかな?』
なんだ。本当に姉からの伝言だった。
「じゃあ、あとで姉のアパートに行ってみます」
『あ、俺の名前、『にせおうじ』っていうんだ』
にせおうじ……? 偽王子か……? うん、ニセモノでも本物でもどうでもいい。
『よろしくね』
姉から姉の彼氏を奪い取るつもりはないので、早々と通話を切った。
するとしつこくスマホが震えた。今度はメールらしい。
『よろしくね、蜜柑ちゃん。じゃあ、またね~!』
脳天に衝撃が走った。
「何故、私のメールアドレスを知っている!?」
何故、私が姉のいないところで、姉の彼氏となかよしこよしにならなくちゃならんのだ!
私はスマホを切って、ポケットに入れた。
この分だと、ベランダのことも嘘だろう。
しかし、ベランダのプランタの下から、鍵が出てきたときは仰天した。
狐につままれたような気分だった。