第九話 毒炭を持ってきたのは……?
なんで、こんなに白く煙っているんだ!?
まるで、火事のような有様だ。けれど、事態はもっと深刻だ。
姉の部屋から異空間を操作して、白く煙った部屋の中で窓を探り当てた。
そして、異空間からお城の中に顔を出して、一つ一つ窓を開けていく。
「けほけほっ! 酷い煙!」
耐えられずに、異空間から顔を抜いて姉の部屋に避難した。
「偽王子君、どうしたらいいかな?」
『アレクシス王子の足元に火鉢がある! きっとそれだよ! 水で毒炭の火を消したらどうかな!』
「う、うん!」
私は姉の台所からグラスに水を汲んできた。そして、異空間の中に顔を突っ込んで、火鉢の中に水を流し込んだ。つまり、水を流し入れることによって、毒炭の火を消したのだ。
「はぁはぁ……!」
私は、姉の部屋でホッと息を吐く。
王子様の自室は、窓を開けたおかげで換気ができたようだ。白い煙はすっかりなくなった。
『やったね、蜜柑ちゃん』
「偽王子君のお蔭だよ。あ、そうだ。アレクシス様は……?」
私は異空間から異世界に上体を出し、天蓋付きのベッドのカーテンを開けた。
「アレクシス様!」
私が声をかけると、王子様は薄らと目を開けた。
「蜜柑か……」
「よ、よかった!」
「ははは……。本当に私は葬られるとこだったのか……」
こんな時に、無理して笑わなくたっていいのに。
「一応、いろいろと買って参りましたが……。食べられそうじゃないみたいですね……」
すると、アレクシス王子は上体を起こした。
「いや、せっかく買ってきてくれたし食べるよ」
でも、アレクシス王子は衰弱しきっている。
美味しそうな物じゃなくて、もっと消化の良いものを買ってくれば良かったかもしれない。
ん……? ハンバーガーとお焼き……? そうか、お焼きか!
「ちょっと待っててくださいね!」
自分の部屋に戻った私は、お焼きの包みを開けた。やはりこのお焼きは小麦粉ではなくご飯を使っていた。
『美味しそうだね? 一体それをどうするの?』
偽王子君の弾んだ声がする。
「うん、ちょっとね!」
そして、姉の台所にお焼きを持って出て行く。
このお焼きは小麦粉ではなくご飯を使っている。私はそこに目を付けたのだ。
まず、台所で、鍋に水を入れる。そして、沸騰させた。その中にお焼きを入れて潰した。すると、それはお米が解けてクタクタになる。味はすでに付いているから構わないだろう。
「できた!」
私はどんぶりにそれを入れて、スプーンを付けた。
自室に戻った私は、異世界側に半トリップした。
「これをどうぞ。私の国で食べられている病人食の『お粥』です」
「ありがとう」
アレクシス王子は、ゆっくりとそれを口に運んだ。
「うまい……!」
王子様はあっという間にそれを平らげた。
「こんなにうまいものがあったのか……!」
アレクシス王子の目が涙で滲んでいる。
これの元は、城下町で心を込められて作られているお料理だから心配はないはずだ。
「まだ、お焼きはもう一つあるから、もうちょっと作れますよ!」
「ああ、もう一杯頼むよ」
「あ、それと、この牛乳もお飲みください。毒消しの代わりになるかもしれないので」
私は姉の部屋に来る前にコンビニに立ち寄っていた。
その時に買い込んだ中には牛乳があった。
私は、グラスに牛乳を注いで王子様に差し出した。
病院の薬は牛乳を飲むと効果が弱まると耳にしたことがある。ならば、牛乳を飲むことによって毒の効果が弱まらないかと考えたのだ。
この牛乳は、私からの王子様へのサービスだ。
「ありがとう、蜜柑」
アレクシス王子のお礼を聞いて私の頬が緩んだ。
奮闘した甲斐があったのか、どことなく王子様の顔の血色が良くなった。
気を良くした私は、アレクシス王子の為に料理をふるまうと、一応は元気を取り戻したようだ。
これから、私が正常な食事を運べば、王子様は健康な体に戻るはずだ。
「でも、アレクシス様、一体誰がこんなことを……?」
「私は、ベッドで横になっていたからな……。私の知らない間に誰かが来たらしい」
でも、毒炭を持ってきた者は、証拠隠滅を企むかもしれない。ということは、毒炭を回収しに来るかもしれないってことか。
ということは、私の出番。異空間の外で見張るしかないってことだ。
そうして、私は、毒炭を持ってきた犯人が来るまで見張ることになったのだ。




