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山下緋紗子の人生を笑うな  作者: 佐伯琥珀
第1章 山下緋紗子は知っている
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07 桜川小百合




[07 桜川小百合]




 世の中の女性の皆様は凄いと心の底から思う。


 おかしい、おかしいのだ。

 小百合になってからというもの朝の時間の経ち方がおかしい。


 制服を着るのにも時間がかかるし、そして何よりも髪の毛をセットするのに時間がかかる。


 まだ五分くらいかな、と思っていたら余裕で十五分程時間が経っている事もある。

 遅刻ぎりぎり!と思って急いで学校に向かえば髪の毛はぼさぼさに逆戻りである。



「さゆって、すごく可愛いのに女子力低いよね」

「確かに! いっつも髪の毛ぼさぼさだし! 話し方とか仕草もなんか男っぽいし!」

「あーもう美少女が台無しだよぅ」


 ぽんぽん、と頭を撫でられながらそう学友に言われた。


 ジョシリョク……?



「女子力って何?」

「女の子っぽい感じ……みたいな? いや説明しろって言われたら案外難しいねこれ……」


 女の子っぽい感じ=女子力か。

 百合百合ガールズラブ展開を目指す俺としては、上げねばならぬ力だな。流石にこの小百合のポテンシャルがあると言えども、中身が男のままだったり髪の毛がぼさぼさのままだと嫌われてしまうという可能性もあるからな。


 ……とにかく女子力ってどうやってあげるんだ?

 本当ならこのいつもつるんでるグループの皆に聞きたいもんだが、女子なら知ってて当たり前の事を何でこいつ知らないの?となり疑問を持たれても困るし。


 ……ヒー子に頼るか?いつでも俺のサポートをするって言ってたし。いや……でもヒー子なら「女子力の起源とは」とか、くそまじめに語ってきそうでイヤだな……。


 スッゲーバカで、どんな質問しても小百合の「中の人」が男でもスルーしてくれそうなバカな奴居ないかな……。



「あ、あのなんか。すっごいバカな人とか知り合いにいる?」


 そう聞くと、俺と普段仲良くしてくれている三人は顔を見合わせて「あー」と言った。

 どうにも心当たりがあるらしい。

 誰?誰?と問い詰めると三人はそろってばつの悪そうな顔をした。……そんなに名前を出すのをためらう人なんだろうか。光聖学園にも「例のあの人」なんて呼ばれる存在が居るとは。



「さゆ、朝比奈くん分かるよね」

「あ、うん……」

「朝比奈くんってさ、一個下に妹がいるの。血は繋がってないけど」

「その義妹の『朝比奈エミカ』っていうのがとんでもないバカなんだよね……そういやちょうど留学から帰ってきたらしいけど」


 留学行ってたならそこそこ頭良いんじゃないか。そう思ったけれども小等部からの「朝比奈エミカ武勇伝」を聞き、俺は「こいつしかいない」と確信した。

 脳みそお花畑な朝比奈エミカ相手なら「我は妖精なり!」と言ってナイフを持ちながら目の前に踊り出ても「まぁ!妖精さん?仲良くしましょう!」なんて笑顔で握手してくれると思うよ。という友人の言葉が俺に力を与える。















「あ、あの! 自分は桜川小百合と言います! 朝比奈エミカさんですか!?」

「……はい、そうですけど」


 廊下で待ち伏せしていて、友達に聞いたエミカ情報を元にエミカっぽい人の前に踊り出た。俺の予想はばっちりで、人の居ない廊下に俺の言葉がただただ響く。



「あの、自分を女の子にしてほしいんです!」


 その声に「は?」と反応したのはエミカの横に居る男性だった。

 小柄なエミカの横に立っているせいかやけに身長が高く見えるが170センチかそこらだろう。しかしぎゅっと寄せられた眉に、目つきの悪い目。いや、イケメンなんだけど。威圧感が半端じゃない。



「悪いけど、言ってる意味が分からない」


 その時俺はようやく思い出した……。

 俺の外見は普通に小百合で「自分を女の子にしてほしい」という要望は他人から見れば意味不明なお願いでしかないという事を……。


 やばい、流石に引かれたか。とエミカに目線をやると目をキラキラとさせて俺を見ていた。



「エミ、全く意味が分からないけどすっごく貴方のお話気になる!」

「……まぁ確かに、気になる事は気になりますけどー……」

「翔ちゃん、お話きこ! エミ困ってる人助けたいもん!」

「……お嬢様がそう思うならそれで良いんじゃないんですか」


 何故か隣の男は盛大にため息をついた後、俺をぎろと睨んだ。なぜ睨む。

 エミカが「トイレに行ってくる!」と言ったのでとりあえず俺とこの男は話しをするために近くの教室に入る事に。

 近くの机をくっつけて、エミカ・謎の男・俺が座れるようにする。ぎい、と机を引きづる音がやけに耳に付く。謎の男はまた俺をぎろ、と睨んだ後に口を開いた。



「……あのさぁ、こういうのやめてくんない?」


 机の角に少しケツを乗せて、もたれかかるように立ちながら謎の男がそう言った。

 腕を組んで、この上なく不機嫌そうにそう言われてましても。っつーかお前誰だよ。



「もうこういうの飽きたから」

「……どういう意味ですか」


 はぁ、と盛大にため息をつかれる。なんだこいつ。まじで誰だこいつ。



「お嬢様を利用して、俺に近づきたいっていう魂胆が丸見えっつーか。そういうのやられても、ぶっちゃけうざいだけだしお嬢様が帰ってくるまでにどっか行って」



 ……HA?

 要約すると、「俺イケメンだからお前、お嬢様と仲良くするフリして俺に近づくつもりだろ?いや無理無理俺そういうの興味ないし~」という所か。失せろイケメン。

 少しあごを上げて俺を見下すように見つめるお前はだから誰なんだよ。知らねーわお前の事なんか。



「……なんか勘違いしてません? 自分『女の子になりたいガチ勢』なんですけど。っつーか誰ですかアンタ」

「……もしかして俺の事知らない?」

「微塵も。最近転校してきたばっかなんで」

「……マジで言ってる?」

「マジで言ってます。自分はマジで女の子になりたいんです」


 そう言うと俺は「クク……面白いやつ!」なんて笑われるのかと思っていたのに、その謎の男は羞恥心からか急に顔を赤くさせて左手を顔にやって、俺から目線を外し、恥ずかし気に斜め下を見た。



「……あーごめん、マジでごめん。いや、その小等部の頃からこういうのよくあって……あの人騙されやすいし……自分の名誉のために言っとくけど俺ナルシストとかそういうのじゃないからね、本気で勘違いしただけだし……」

「自分はガチです! エミカ師匠(せんせい)に女子にしてほしくて!!」

「……うんだよね、あんたの目ガチ過ぎて怖いわ」


 ごめん、ともう一度言い謎の男は頭を下げた。そして赤くなった顔を恥ずかしく思っているのだろう。隠すように俺から顔を逸らした。

 そんなときエミカ師匠ががらりと教室に入ってきた。そして、机を合わせてある俺の前の席に腰かけた。謎の男もエミカ師匠が座ってから自分も席につく。



「小百合さんですっけ?」

「あ、はいそうです! というより自分に敬語はいりません!」


 何で師匠は俺が一つ上だと分かったんだろう。

 そう思っていると、師匠の隣の謎の男が「あ、ほんとだ」とぼそっと呟いた。どういう意味?と俺が首を傾げているのに気がついたのだろう。謎の男は俺の制服をぴっと指さした。



「あんた転校生だから初めて知るかもしれないけど、学年ごとにネクタイに刺繍されてる校章の色が違うんだよね。あんたは金色だから二年。俺たちは黒だから一年」


 そう言われて自分のネクタイを見ると、確かに自分のは金色だった。エミカ師匠はそれを見たから俺に敬語で話しているのだろう。謎の男はタメ語だけどな!!



「えータメ語でいいのかな?」

「良いでしょ別に」


 なんか申し訳ないなぁと漏らす師匠。ん、待てよ?何で謎の男は年上の俺にもタメ語だったのにエミカ師匠には敬語?



「……あの、お二人の関係って?」


 俺がそう言うと、謎の男はイヤそうな顔をした。

 エミカさんはそれに気づいたのか肘で少し謎の男をつついた後ににこ、と俺に笑いかけた。



「ごめんなさい、自己紹介がまだだったね。私は朝比奈エミカ。小百合さんの同じ学年の『朝比奈礼司』の妹だよ」

「……山下翔。この人の専属使用人、一応」


 謎の男の名前がようやく分かった。妹にも専属使用人が居るのか。凄い家系だな。……待てよ、確か礼司様の専属使用人はヒー子で、ヒー子の名前は「山下緋紗子」だった。



「小百合さん、ヒー子知ってるかなぁ? 翔ちゃんはヒー子の弟だよ」


 ……やっぱりな!確かにきりっとした目の感じや全体的な雰囲気がヒー子に似ている。ヒー子と違って髪の毛は茶色いが。猫っぽい雰囲気の顔のつくりは兄弟揃ってのもののようだ。



「緋紗子さん、同じクラスですよ!」

「あんな真面目おばけと同じクラスなんて可哀想に」


 は、と笑いながら山下翔がそう言った。

 兄弟と言えどもヒー子との仲は良くないんだろうか。エミカ師匠が「もー」と山下翔の言葉に口を尖らせた。



「……とにかく、俺はあんたの『女子になりたい』って発言の意味が分かってないんだけれど」



 山下翔が、少し時計を確認した後にそう言った。

 ……ここで「俺の中の人が男なんで、女子っぽい仕草を取れなくて困っている」と言えば怪しまれるかもしれない。事実なんだけど。

 だからきっと、もうここまで来たらエミカ師匠の好みそうなコテコテファンタジーロードを爆走した方が良いに違いないだろう。



「本当は男なのに、呪いで女性にされてしまったんです!! でも自分は女子として生きていく事が夢だったんでどうせならこの人生を謳歌してやろうと!」


 エミカ師匠は両手を頬にやり、ぱぁっと顔を明るくさせて目をキラキラとさせた。チョロイン。……まぁ嘘は言ってないしな!誇張はしたけど。



「エミカ師匠(せんせい)ほど、女子力の高い方はいらっしゃらないかと……なので自分を弟子にしてほしいんです!」

「する! 小百合さんの師匠になる!」

「即決」


 山下翔が呆れたようにエミカ師匠に突っ込んだ。俺とエミカ師匠は手を取り合いぎゅっと固く握りあった。



「私はお兄様の事が好きなの! 小百合さんも弟子だから私の恋を応援してくれるよね? 今は翔ちゃんしか応援してくれてないの」

「俺も弟子だから応援してるみたいな言い方やめて下さい」

「しますとも! いくらでも!!」


 夕日をバックに放課後の教室で二人の美少女が固く手を取り合う。なんて激アツな展開なんだろうか。山下翔がぼそっと「面倒なのが増えた」とこの感動的な場面に水を差すような事を言ったのは聞こえなかった事にしておこう。



「私と小百合さんのプリンセス☆プリンセス同盟、ここに誕生よ!!」


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