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山下緋紗子の人生を笑うな  作者: 佐伯琥珀
第1章 山下緋紗子は知っている
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04 山下緋紗子




[04 山下緋紗子]




「礼司様、礼司様! 礼司様はどんな女の子が好きですか!?」


 朝、礼司様を起こしいつものように布団に引きこもる礼司様にそう言うと、眉を寄せた礼司様がにゅ、と顔だけをお出しに。かたつむりならぬ、おふとんつむりはいい加減やめて頂きたい。

 いつもは「早く布団から出て下さい」と急かしてばかりの私が突然こんな質問をしてきたから礼司様は驚いたのだろう。しばらく私の顔をみて黙った。



「……あたまいいこ……」

「なるほど!!」


 流石に礼司様の遺伝子的な部分が本能的に賢い子を求めるのか。

 ただでさえポンコツの礼司様がポンコツ令嬢と結婚すればとんでもないウルトラバカな子供が生まれてしまうかもしれないし。

 ババァヒー子は、誰かの専属使用人とはならずに、お掃除やお洗濯など、日常的なお世話に回る使用人になりたいのだがその時にポンコツ礼司様チルドレンが居れば、お掃除の邪魔などをされてしまいそうだし。



「何で朝から急にそんな事聞いてくるわけ?」

「な、なんとなくですよなんとなく!」

「ふーん……」


 礼司様がそう言い、また布団に顔を戻そうとしたのでスキを見てお布団を引きはがす。「やめろひいこおおおおお」といういつもの声は気にせず、ささ、と布団を畳んで少し離れた位置にある机の上に。



「礼司様、今日は中間テストですがご準備は十分でしょうか?」

「金の準備は」

「初めから先生の買収に走ろうとするそのスタンス、私は好きですよ」


 にこ、と笑いそう思いっきり嫌味を言うが礼司様には通じておらず「うん、ありがと」とだけ欠伸混じりに返ってきた。おい。










「小百合さん! おはようございます。今日はテストですね」


 礼司様が自分の席にどん、と座るのを横目で見ながら小百合氏の席の近くに立ちそう言うと小百合さんは引きつった笑顔を私に見せた。



「あ、緋紗子さんおはようございます……テストは、そうですね微妙です」

「まぁ! では私めなどでよろしければテストにどこが出るか教えて差し上げましょうか?」

「……そんなの分かるんですか?」

「私の野生の勘は良く当たるんです!」


 小百合さんは、しばらく私を見て固まっていましたが「じゃあお願いします」と私に頭を下げた。

 私は近くの子の椅子を引きずり小百合さんの机の隣に置き、そこに腰かけカバンからばっと教科書を出した。

 そしてここが出そうです、と教えていく。ここが出そう、というのは本気の勘である。流石に乙女ゲームプレイ済みと言えども、テストの中身がどんなものだったかなんて事までは覚えていない。


 しかし、今まで私の勘が外れたことは無い。

 転生した時に貰った一種のチート能力なのか何なのかは分からないけれども。


 ……礼司様は頭のいい子が好き。

 それならば小百合さんがこのクラスでトップの成績を取れば礼司様は小百合さんの事を気になるに違いない!


 礼司様はかなりポンコツですし、ゲーム以外に興味がない。特に恋愛なんて全く興味なさそう。ならば!このヒー子めが、二人がラブラブになるようにイベント(手動)を起こしてあげようではないですか!









「昨日のテストの一位は桜川だ」


 次の日、早速テスト返却が。

 ざわめく教室。小百合さんは先生の言葉にびくっと肩を揺らしていました。

 そんな様子をにんまりしながら見ていると、私の隣の席の友人の「成瀬(なるせ) 知世(ともよ)」が真っ青な顔で「ヒー子どうしたの!?」と小声で言ってきた。彼女は数少ない私の事を「ヒー子様」と呼ばずに「ヒー子」と呼ぶ親友的な子。



「……今回も全力で挑んだんだけど……小百合さんには及ばなかったわ」


 山下緋紗子は完璧である。

 勉強もスポーツも芸術も。常にトップで一位から陥落した事はない。

 そんな私を差し置いて、小百合さんはトップに躍り出たのだ。「かしこい子萌え」な礼司様からすれば今頃小百合さんの賢さに胸がドキドキ爆発寸前なはず。



「……山下ー」

「あ、はい!」

「お前後で職員室こい」


 ……ファ!?


 私はここまで超優等生でしたから職員室に呼び出された事などない。

 人生初の出来事に少し焦ってしまった。

 見れば、少し遠くの席の礼司様も頬杖えを付ながら私を見ている。……あとで「ヒー子なにやらかしたの」ってケタケタ指をさして笑われる事間違いなし。







 放課後、重い足取りで職員室に向かいドアの前で先生を呼ぶ。

 まだテストの丸つけが終わっていない先生などもいらっしゃるそうなので中には入れない様子。

 先生は「おー山下」と言いながら私のテスト用紙らしきものを持って私が待っている職員室の外に。



「お前なんか脅されでもしたか?」


 体育会系のゴリマッチョのくせに英語担当なんていう謎のギャップをお持ちの担任の先生が、耳の後ろを書きながらめんどくさそうにそう言う。

 脅された?特に覚えは無い。



「……いえ?」

「お前ずっと一位だったろ。急に二点でブービー賞ってどういう事だ」


 先生がぺら、と見せたテストには点数の欄に「2」と書かれたテスト用紙が。

 まぁ二点で最下位じゃなくてブービー賞な所に驚だが。下には下が居る、という事を身をもって体感。



「たまたま調子が悪かったんです」

「マジで脅されたりしてないな? 朝比奈になんか言われたりしてないな?」


 先生も流石にビビッているのだろう、「朝比奈」という部分だけは小声でそう言いました。私が笑顔でふるふる、と首を振ると先生は少し不満げな表情のまま「なら良いけど」と言って職員室にお戻りに。


 ……流石に二点はやりすぎか。と反省。

 とりあえずお家に帰ろう。そう思った時、「ヒー子!」と呼ぶ声が。勿論顔を上げれば廊下の少し先に仁王立ちの礼司様の姿が。

 ぱたぱたとそこまで駆けていくと、えらくぶすっとしている礼司様。いや、私がぶすっとして置いて下さいね。と毎日毎日言っているんだけど。



「ヒー子なんで職員室に呼び出されてたわけ」

「あ、ああ。テストの点数が悪くて……それよりも、小百合さんはテスト一位でしたね! 私は驚いてしまいました! 小百合さんはあのクラスで一番頭の良い方なんじゃないでしょうか!」


 私がそう言うと、礼司様は「あー……」と何故か私の顔を見てそんな声をお漏らしに。

 そして持っていたカバンを少し持ち直す。



「ヒー子、テスト何点?」

「二点でした!」

「あたまわる」


 けけ、と笑った礼司様。確かに、確かにそうなんだけど!!何なんだこの胸に溢れだすムカつきは!!

 本当なら一位取るのなんて余裕なんですよ!!と主張しそうになったがそこは我慢。



「礼司様は何点でしたか」

「47」

「わぁ、リアルに頭悪い人が取る点数」


 反撃の意味も込めてそう言うと、礼司様が「うるせー」とむっとしながらそう言った。

 時計をぱっと見る。きっともう校門にお迎えの車が来ているだろう。礼司様も流石に私が言わずとも分かるようで、ぽてぽてと校門に向かって私の斜め前をお歩きに。



「あーゲームしてー」

「家に帰ったらすぐできますから! 学校に居るうちはそんな発言しないでくださいよ」

「……はいはい、相変わらずヒー子はスパルタ……」


 ブレザーのポケットに手を突っ込んだまま、礼司様がやる気なさげにそう言う。

 スパルタ、という言葉に少し胸がドキとしてしまった。

 小百合氏とくっつける為と言えども、「ドSな言葉を吐け」だとか「いつも不機嫌そうにしてろ」など私はご主人様の礼司様に向かって命令ばかりしているので。



「あ、あの礼司様!」

「……なに、ヒー子」


 ヒー子、をやけに強調しながら礼司様は足を止め、振り返る。



「私は、その礼司様にドSな言葉を吐き捨てろとか、いろいろ命令していますがその、なんていうか『いやだな』とか思わないのですか」

「……いや、今さら?」


 おそ、と付け足す礼司様。……礼司様の将来の事を考えればしょうがないのですが。

 今までは「ヒー子、心を鬼にして頑張りますわ!」なんて思っていたのに。実際に礼司様から不満の声が漏れると急に不安になってしまった。

 何も言えずに黙っていると、礼司様はまた口をお開きに。



「ま、別にイヤな気分にはならないけど。なんか吐き捨てたらスッキリするし」

「……だって、礼司様は元々そういうキャラですもん……」

「なんか言った?」


 小声で言ったつもりだったのに!

 礼司様の言葉に少し胸を撫で下ろしていると、礼司様はまたつかつかと校門に向かって歩き始めた。



「あと、ごめん昨日嘘ついた」


 嘘?何が?と思い少しだけ距離が合った私たちの間を埋めるために、たっと礼司様の横に駆け寄ると、礼司様は何故か少し笑って私を見た。



「俺、あたまわるいこの方がすき」


 む、むっかー!!!!

 そう言ってまたつかつか歩いていく礼司様。

 なんで昨日嘘ついたんですか!それを聞いて私は小百合さんをトップに君臨させるべく頑張ったのに!


 礼司様は私を振り回して楽しんでるんだ!

 むすっとしながら私は校門まで歩いていく背中を見つめながら「蹴りたい背中」とはこういう事ね、と一人で思っていた。


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