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山下緋紗子の人生を笑うな  作者: 佐伯琥珀
第1章 山下緋紗子は知っている
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03 桜川小百合




[03 桜川小百合]




 朝起きて、自分におっぱい付いてたらどうする?

 朝起きて、自分がすっげー美少女だったらどうする?


 




 まず、率直に結論だけを言うと、朝起きたら美少女になってた。

 最後に見たものなのか、頭の中に記憶としてべっちゃりと張り付いているのはトラックを運転してたオッサンの顔。


 小学校の時に貰った「あぶない! くるまはすぐにはとまれない!」といった下敷きで、道路に転がっていくボールを追いかける無垢な少年を轢き殺しかけていたオッサンによく似た表情だった。


 ……自分はきっと事故にでもあったのだろう。



 ベッドから少し起き上がり、鏡の前に立つ。

 正真正銘どこから見てもただの美少女である。

 ぺた、ぺた。と顔に手を当ててみる。そして頬をつねる。いてぇ!これは夢じゃない!



「俺は美少女だ!!!」


 思わずそう言ってしまった。

 きっちりと線の入った誰もが羨む平行二重。茶色の瞳。

 そして小さい輪郭に、きれいな鼻。パーフェクトだ……。やばい……俺は美少女だ……。



 すると、ドアががちゃりと開く音がした。

 そこには不安げな表情で俺を見る母らしき存在が。



「小百合ちゃん大丈夫? 大きな声がしたけど……今日から新しい学校だけれど、あんまり気負いしなくて良いからね……」


 きっとこの母親らしき人物は、俺が新しい高校に転校する不安で「俺は美少女だ!!」なんてトチ狂った叫びをあげたと思ったのだろう。

 あ、今の発言でこの美少女の名前が「小百合」だという事が判明。名前可愛いな。



「ああ、えっと大丈夫です」

「……なんで敬語?」

「これからはお上品に行こうと思って」


 そういうと母親らしき人は「ああそう」といった。

 敬語なら、俺の男口調がばれないし何よりよく分からない女口調に苦戦する事もない。……一人称は「自分」にしておけば良いだろう。


 母親らしき人が、「ご飯できたから降りてきなさい」と言ってドアを閉める。

 俺はもう一度鏡で自分を確認。やばい、やっぱり美少女だ。



 部屋を見れば、制服がかかっている。

 制服に腕を通せば、女子のスカートのホックの付け方がよく分からなくて苦戦したが、それ以外はすんなりと着る事が出来た。

 小百合の色素の薄い肌に、紺色のブレザーはよく似合う。俺、可愛い(確信)



 俺可愛いという思いだけで今まで謎にハイだったが鏡の前の自分を見て冷静になってみる。



 ……なんで俺美少女になってんだ……?多分死んだ、という事は何となしに覚えている。じゃあ、死んで生まれ変わったら美少女として転生した、って感じか?


 ……いやもう男の俺がどうしてこの美少女になったのか、そんな事はどうだっていい!とりあえず、結論俺は可愛い。そんだけだ。

 小百合として生きていけばきっと色々分かるだろう。今は分かりもしない事に頭を悩ませても無駄でしかない。

 とりあえず、今の自分には小百合として生きていく以外の道は無さそうなんだから。


 そんな時ふと、とある事を思いついた。

 小百合はとんでもない美少女だ。だけども中身は俺だし、モテるだろうけれども男子と付き合う事は俺の精神的な面で無理。だから出来たら女の子と付き合いたい。女相手と言えどもこの小百合の美貌にイチコロにならない奴はいないはずだ。


 つまり、この美貌を活かして可愛い女の子との百合百合ガールズラブ展開なんていうワンチャン……ある!!









 光聖(こうせい)学園。

 それが俺こと「桜川小百合」が転校した学校。

 超お金持ち学校だが、俺みたいに特待生として庶民ながらこの学校に通う学生もいる。


 多くの学生が校門まで車を乗り付け登校してくるそんな学校であり、特に俺が勝手にリッチ層と呼んでいる金にものを言わせている奴らがかなり多い。


 特に初日から俺の胸にタッチしてくるといった胸糞悪い展開を持ち込んでくれた「朝比奈礼司」とかいう奴はこの学園のリッチ層のリーダー的存在だ。


 朝からファンクラブが校門に待ちしていて、それにいつも暴言を吐いていくようなそんな奴。何故か暴言を吐かれて皆目をハートにしているのは謎過ぎるが。


 いつもムスっとしていて、お付きの「ヒー子」だとかなんとかいう女の子をいつも一緒にいる。女子のお付きとか羨ましいわ。


 まぁとにかくあんな奴らに関わらないのが吉。

 俺は静かに女子と恋するんです。なんて思っていたのに……。



「小百合さん、今日の放課後お時間ありますか?」


 そう言ってきたのは「山下緋紗子」通称「ヒー子」であった。


 山下緋紗子は真っ黒な髪を綺麗なボブスタイルに揃えている。

 顔に特にこれといった特徴は無いが、猫のような綺麗な顔立ちと俺は思った。……そう言えば隣の席の女子が「ヒー子様はクールビューティーだわ……」なんて惚れ惚れとしていたな。


 確かに、あの切れ長の目のせいか。それとも朝比奈礼司以外にあまり干渉しないからか、山下緋紗子はとても冷たそうな女に見えた。

 あー俺はこういう女好きじゃないわ。なんか人の事見下してそうだし。

 常に自分と朝比奈礼司で頭が一杯で、あいつの頭の中ではそれ以外は全員モブ。きっとそんな思考の持ち主だ。


 だから俺は驚いたのだ。なんで俺こと桜川小百合を放課後呼び出すのか、と。







「困った事があればいつでも私に相談してくださいね、いつでも小百合様のサポートをさせて頂きますので」

「あ、はいどうも……ありがとうございます」


 放課後、山下緋紗子はそう言った。ニコニコと笑いながら。ビジネススマイルかと思ったがそうでもなさそう。

 俺は困惑した。一体この山下緋紗子は一体何がしたいのだろう。こんな放課後にわざわざ「いつでもサポートしますね」なんてセコム発言をするためだけに俺を呼んだとは思えない。絶対何か裏がある。


 ……とにかく当たり障りのない会話をしよう。



「あの、緋紗子さんは礼司様とかいう奴の下僕なんですか?」

「下僕? ……まぁ否定はできませんが。下僕というより専属使用人と言って頂ける方が嬉しいですけれどね。……それより小百合さん! 礼司様の事はどう思われますか!?」


 ……あれ、山下緋紗子……めんどい、ヒー子でいいか。

 ヒー子、もっとクールで「貴方はバカですか? 質問に答える必要性を感じません」なんて切り捨てるようなそんな奴だと思っていたのに。

 意外とコロコロ表情は変わるし、なにより俺に礼司様の事を聞く時の謎に嬉しそうな表情ときたら。



「スッゲー口が悪いと思います……」

「そ、そうですか! 小百合さんは、礼司様のああいうもの言いは嫌いですか?」

「あー……特に嫌いと言ったわけでは……」


 一瞬ヒー子は焦ったような表情を見せたが「礼司様の悪口を言えばこの学園を追放されるかも」という思いが俺の頭をよぎり、俺は曖昧な言葉を口にした。

 俺の言葉にヒー子は何故か表情を明るくさせた。



「小百合様! 礼司様はとても素敵な方なんです! きっと、きっと小百合さんと礼司様は相性ピッタリですわ!」

「あー……ありがとうございます……」


 え、何のゴリ押し。

 残念だけどヒー子よ。俺は百合展開を目指しているからどれだけトチ狂っても礼司様と恋に落ちる事は無いのだよ。悪いな。




「私は、小百合さんと礼司様はきっとうまくいく運命だと思っています!」


 ちょっと。この人ほぼ初対面の俺に運命とか語りだしてるけどホント頭大丈夫か?

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