表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
山下緋紗子の人生を笑うな  作者: 佐伯琥珀
第2章 山下緋紗子は正しい
21/44

20 桜川小百合




[20 桜川小百合]




「ええー!! 小百合さん好きな人できたのー!!」


 放課後プリプリミーティングで師匠がそう前のめりになりながらそう言った。

 いつもは「興味ねー」と言った風に外を見ている山下翔も流石にこの話題には感心があるようで、黙って俺の話を聞いていた。



「だれだれ??」

「……トモちゃん」


 あれ以来、トモちゃんとはかなり話すようになった。

 トモちゃんはクラスの誰からも好かれていて、さばさばとした雰囲気がとても好印象だった。


 女である小百合だからこそ、なんとなくおかしい感じはするものの、トモちゃんは俺の子のみドストライクだった。しかもヒー子の愚痴を言い合えるというオプション付き。


 どうせ学年の違うこの二人に言ったって分からないだろうし。そう思って言ったのに、師匠も山下翔も「あー」と声を出した。



「え、二人とも知ってるんですか」

「うん。知ってるよ」

「成瀬さん、いい人だよね」


 二人が「だよねぇ」とお互い顔を見合わせて言った。

 どうして一つ年が違うのに、トモちゃんの事をこの二人はよく知っているのだろう。ヒー子の友達だからであろうか。



「あの人、初等部の時に食堂で緋紗子の事ブン殴ったよね」

「あー、あったあったぁ」


 師匠は山下翔の言葉にくすくすと笑った。

 山下翔の語った概要によると、礼司様はこの学園の王子様よ!なんていう態度を取る緋紗子にムカついて、食堂で緋紗子の事をブン殴ったとの事。とんでもない武勇伝だな。



「俺、あん時超スカッとした。あの時思ったもん。『奴の異常さを分かってくれる人が居た!』って」

「また翔ちゃんはヒー子の悪口言ってる……」


 若干興奮気味の山下翔とは違い、師匠は随分その様子に呆れているようだった。

 ……こんなファンクラブもあって、学園の王子様の礼司とその使用人の緋紗子に喧嘩売るなんてよくトモちゃんこの学園で生きていけたよな。



「そんな事して、トモちゃん大丈夫だったんですか?」

「「大丈夫じゃなかった」」


 師匠も山下翔も声を合わせてそう言った。



「礼司は『はははーまぁ俺もファンクラブとかだるいし、これを機になくなってくんないかなー』なんて笑ってたけどさ、もうカルト野郎はブチ切れ」


 心底いやそうな顔をした後、山下翔がそう言った。

 師匠はそれを見て、あわあわと焦った後に「でも今は超仲良しだよ?」と困ったように笑いながらそんなフォローを入れる。



「……っていうか、あんた女なのに女の事好きになるの」

「だって自分、男ですから……」

「それマジで言ってたんだ……」


 山下翔は引き気味にそう言う。

 どうにも、俺の話を師匠と違って信じきっていなかったらしい。

 俺の恋バナを聞いて背筋をしゃんと伸ばしてキラキラとした目で話しを聞いてくる師匠とは違い、山下翔は俺から目線を外して何かを考えているようだった。



「クリスマスでお願いしたら良いんだよー! 成瀬のお姉さまと結ばれますようにって!」

「……クリスマス?」

「……お嬢様、この人転校生だから知りませんって」

「あのね、聖光学園のクリスマスパーティーでクリスマスツリーの前でお願い事したらなんでも叶うんだよー!」


 なにそのトンデモイベント。

 何でも叶う、って破格対応過ぎるだろ。



「……去年、師匠は何をお願いしたんですか?」

「クリスマスパーティーは高等部からだから、エミも翔ちゃんも今年が初めてなのー」

「あ、そうなんですか」


 なるほど。じゃあヒー子と礼司はもうこのイベントを一回体験しているってことか。

 トモちゃんはどんなお願いをしたんだろう、なんてどうでも良い事を考えていると「翔ちゃん一緒に行こうねー」と師匠がニコニコしながら山下翔にそう言った。



「行きませんよ、ダルいですもん」

「えー! エミ翔ちゃんと行く気マンマンだもん! 困る! 引きずってでも行く!」


 行く、行かないなんていう口論を続けている師匠と山下翔。

 俺はそんな様子を見ながら、ぼんやりと考えていた。


 どんな願いでも叶う。

 ……なら、師匠の言う通り「トモちゃんと結ばれますように」とお願いすればばっちりじゃないか。

 いや、まてよ。でも、何かこのお願い事で結ばれるっていうのも実力じゃないみたいでなんかいやな気分でもあるよな。



「嘘ですよ、ちゃんと行きますって。俺、初等部の時からずっとこのクリスマスパーティーでお願いする事もう決めてるんで」


 山下翔がそう言った。

 初等部の頃から?それはとんでもない。俺はてっきりエミカ師匠が「何なのー何なのー」なんて言及するだろう、と思っていたけれども師匠は突然黙って俯いてしまった。


 するとがら、と扉が開いた。そこには可愛いツインテールをキメた女の子が。

 もじもじとしながら「山下くんちょっといいかな」と言った。

 山下翔はわざとらしくため息をついた後、「すみません」と言って席をはずしその女の子に付いていく。

 告白だろうか、羨ましいなコンチクショウ。


 俺がそんな事を考えている間、師匠は何も話さなかった。


 普段なら俺と二人になれば「ガールズトークよー!」なんてはしゃぐ師匠なのに。

 そしてまるで自分を嘲笑うような、そんな表情で俺を見た。



「エミ、翔ちゃんのお願いなにか分かるよ」

「……え?」

「翔ちゃんはね、ヒー子と違って嫌々私の使用人をしてるの。山下家に生まれたからしょうがないって。いっつも言ってるもん。『高校が終われば、もうこの家を出ます』って。……翔ちゃんのお願いは『サッサとこの専属使用人の仕事が終わりますように』だよ」


 そう漏らした師匠に何も返せなかった。

 確かに俺も聞いた事がある。「俺は緋紗子と違って、もう高校が終われば専属使用人の仕事をやめる」と言う事を。

 俺ですら聞いた事があるのだから、師匠はきっと初等部の頃から山下翔がそう言ってきたのを山ほど聞いていたのだろう。



「実はね、エミもお願いもう決めてあるの」

「……師匠」

「翔ちゃんがいなくても、一人でも大丈夫なくらい強くなれますようにって。三年間ずっとそう願おうと思うの。流石にそれだけ願えばきっと叶うよね」


 師匠の目から、涙がぽろと零れた。

 グラウンドから聞こえる、野球部がボールをバットで打つ音だろうか。きん、という音がやけに耳に付いた。


 山下翔がいなければ、自分は一人ぼっちなんだと遠回しにそう言った師匠に尚更胸が痛む。



「そんな、そんなのじゃなくても、『山下翔が、ずっと自分の専属使用人で居てくれますように』ってお願いすればいいじゃないですか!」


 俺がそう言うと、師匠はぐし、と涙をブレザーの袖で拭う。

 そして取り繕うような笑みを見せる。



「エミに、これ以上翔ちゃんの『人生』を奪う権利なんかないよ」


 ただでさえ、エミは今翔ちゃんの邪魔をしてるんだから。

 師匠はまたそう言って悲し気な笑みを見せた。


 師匠のその言葉に何も言えなくなってしまう。





 クリスマスパーティーで、山下翔の「初等部の頃からのお願い」に師匠がボロ泣きする。そんな未来が待っているのを、この時の俺はまだ知らずにいた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ