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山下緋紗子の人生を笑うな  作者: 佐伯琥珀
第1章 山下緋紗子は知っている
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02 山下緋紗子




[02 山下緋紗子]




「礼司様、小百合さんって凄く綺麗な方だと思いませんか」

「待って、小百合って誰」


 食堂で日替わりランチを食べながら礼司様が真顔でそう言う。

 小百合さんが私達のクラスに転校してきて数日。可愛く、いつもニコニコとしている彼女は早速クラスの人気ものに。

 クラスでは「さゆ」と皆に呼ばれて早速愛されヒロインとしての地位を築き上げているというのに。誰?なんて。



「転校生の方ですよ、あの初日に礼司様の頬をぶっ叩いた人です」

「あー、居たっけそんな奴」


 そう言って礼司様は魚のフライに箸を進める。礼司様はこのお金持ちばかりが集まる学園でも生粋のお金持ち。

 そして緋紗子プロデュースにより、なかなか周りの人にドSな発言をするため皆に恐れられていて、この食堂にも礼司様の周りは少しだけ席が空いている。


 その周りはファンクラブの皆さんには「聖域サンクチュアリ」と呼ばれ、誰も踏み入れてはならぬ領域だそう。まぁ私は踏み入れているが。



「私は、小百合さまの美しさに惚れ惚れとしてしまいました」

「ふーん」

「クラスでも人気者ですし、とても明るくて良い方ですよね!」


 こうやって小百合さんヨイショを行う事で、礼司様に小百合様に興味を持ってもらう作戦。礼司様はしばらく何か考えているようで黙っていました。

 そして、重い口を開くとこう一言。



「……ヒー子って、レズ?」

「違いますよ!!」


 なんでそうなるかな!









 ところ変わって夕方の教室。

 今日は用事がある、と言い礼司様には先に帰って頂いた。

 

 誰も居ない教室には、グラウンドで練習をしている野球部の声が響く。

 そして、少し遠くからは吹奏楽部のラッパの音が。


 がら、と扉が開く音。そこに目をやると小百合さんの姿。



「……あの、緋紗子さんですよね?」

「はい、そうです。小百合さん、急なお呼び出し申し訳ございません」


 そう言って頭を下げると「え、いやいや頭上げてください!」という小百合氏の声が。

 私は今日の休憩時間に小百合氏に「放課後少しお時間を頂けませんか」と言い、今日の放課後教室でお話したい。という旨をお伝えしたのだ。


 不安げに下がる眉。自分は何か文句でも言われるのだろうか。とでも不安に思っているのだろう。



「あの、何か自分に用事でも……」

「いえ、特にこれといった用事ではないのですが。小百合さんは転校してきたばかりですが、学校生活を楽しんでいらっしゃるのかなぁ、と」

「ああ、はい、まぁそれなりに」


 少し首を傾けながら小百合氏がそう答えました。

 まぁ急に私なんかに呼び出された上に、学校楽しい?なんて質問されたら誰だって困惑するだろう。



「困った事があればいつでも私に相談してくださいね、いつでも小百合様のサポートをさせて頂きますので」

「あ、はいどうも……ありがとうございます」


 そう言ってお辞儀をする彼女。

 そんな時、とある疑問が頭の中をよぎった。


 ……えす☆ぷりのメインヒロインの桜川小百合は、他のキャラに対して敬語で話すキャラだったっけ?



――調子乗ってんじゃないわよこのクソボケが!――


 そんな声優さんの素敵ボイスで発せられる暴言に、昔の私は「マジでこのヒロイン口悪いな」なんて笑いながらプレイしていたような、そんな気がするのだが。

 

 ……いや、ほぼ初対面の私ですし。しかも小百合さんは転校してきたばかりだし。

 きっとまだ本性を隠しているだけだ。そうに決まっている。


 これから徐々に仲良くなっていけば、私も礼司様もきっとクソボケと罵って頂けるそんな日が来るに違いない!



「あの、緋紗子さんは礼司様とかいう奴の下僕なんですか?」

「下僕? ……まぁ否定はできませんが。下僕というより専属使用人と言って頂ける方が嬉しいですけれどね。……それより小百合さん! 礼司様の事はどう思われますか!?」


 少し詰め寄ってそう言うと、小百合氏は「あー……」と目線を少し泳がせた後に、あまりに詰め寄る私を恐れたのか一歩後ろに後ずさった。

 ま、まぁ出会ってまだすぐだし、礼司様の事をどうも思ってなくてもしょうがない!これからドンドコ距離を縮めていけばいいのだから!



「スッゲー口が悪いと思います……」

「そ、そうですか! 小百合さんは、礼司様のああいうもの言いは嫌いですか?」


 嫌いな訳ない!だって小百合さんは礼司様のドSな部分に惹かれていくのだから!



「あー……特に嫌いと言ったわけでは……」


 また少し目を泳がせながら小百合さんがそう言った。


 やはり私は間違っていなかった!


 礼司様、申し訳ありませんが私は礼司様と小百合様がハッピーエンドを迎えて頂くために、心を鬼にしてこれからもドSな言葉を吐いて頂くよう全力でお手伝いさせて頂きます!なんて思いながら私はまた口を開く。



「小百合様! 礼司様はとても素敵な方なんです! きっと、きっと小百合さんと礼司様は相性ピッタリですわ!」

「あー……ありがとうございます……」

「私は、小百合さんと礼司様はきっとうまくいく運命だと思います!」


 私のその言葉に、小百合氏は大きく目を開いて固まっていた。

 あれ、「そんなのあり得るかボケ!」もしくは「う、運命だなんて……キャッ」となると思っていたのだが。


 小百合さんは、かちりと固まったまま。

 なんか、反応薄くないか……?大丈夫か小百合さん……?


 それともほぼ初対面の奴に「運命」だのなんだの語られて、ドン引きされてる?ないない!……ないよな……?



「あの、自分はそういうのよく分からないんですけど……まぁそれなりに皆と仲良くやっていけたらなぁ、と思いますのでよろしくお願いします」


 そう言って少し困ったように笑った小百合さん。

 ……流石メインヒロイン、可愛い。しまった!写真でも撮っておけば、毎日礼司様に「小百合氏は可愛い小百合氏は可愛い」と洗脳する道具に使えたかもしれないのに!



「はい、こちらこそ。私の事は『緋紗子』で良いですよ。あ、ヒー子はやめてくださいね」

「あ、いえ、呼び捨ては申し訳ないので……緋紗子さんで大丈夫です」

「……そうですか? それに私に敬語は結構ですよ」

「あー、自分敬語好きなんで……」


 頬をぽりぽりとかきながら小百合氏がそう言う。

 私は、一応朝比奈家の使用人だから、常に誰に対しても敬語で話すように気をつけているが……。




 ……この乙女ゲームで小百合氏はこんな敬語大好きキャラだったっけ?

 ……それに一人称は「自分」ではなく「私」だったような気がするけど……。



 まぁ細かい事は気にしない!

 そう思い、私が小百合氏の手を取りぎゅっと握手をすると、小百合氏は左頬を少しひくつかせながら私に微笑みかけた。


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