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境界線に触れる時6〜夢と現と彼女の話の終わり〜

真っ暗な世界にいた。


体が怠い…動かすのが億劫に感じながらも、額に手を当て軽く目を擦ると、赤い空がぼんやりと見えーー


「ああ…私、生きたんだ」


そんな呟きを発しながら、体を無理矢理起こす。


骨が音を鳴らし、視界が揺れ動くが、構わず体を起こしーー傍にたたずむみことさんへと声を掛ける。


「命さん……契約はーー成立したのかな?」


「ええ、成立したわ。と言っても…起きた貴女が一番解っている筈だけどね。貴女が起きたのも見届けたし、私達はそろそろ行こうかと思うわ」


命さんは…一度頭上を見上げ、零司君を軽々とお姫様抱っこのように持ち上げると、背を向け、地面を蹴りつける。


「ちょーー待ってよ!どうして私を助けたの!?あの光景はーー零司君や命さんと関係あるの!?」


「ーーさあ?貴女こそ…私達よりも…遥かに質の悪い化け物かもしれない。ということを、理解出来たから私は助けた。それだけよ」


「化け物?…私が!?そんな事あるわけ…」


「後は、この一日の時間を大事に使う事ね。ああーーそうだわ、一つ…いい忘れた事があるの」


命さんは、私と十分な距離を取って振り向くと、悪戯した子供のような表情を向けーーこう告げた。


「貴女との契約は一日…零司との契約よりも、遥かに効力は限定される。故にーーおまけの能力が私と貴女にーー共有されるわ」


「……どんな能力なの?私はーー人を殺すのはーー出来ないと思うよ?」


そんな発言が、余程可笑しいのか、命さんは声を上げて笑い出す。


「可笑しい…くく…貴女…そんな能力おまけだと思うわけ?人を殺すの何てーーその人の意思しか、有り得ないわよ」


「殺す力がーー武器がーー憎しみやーー怒りやーー快楽やーーそんなものは何も要らないわ。その人がーー殺人の決定的な何かを得る、と言うのなら…それは間違いなく…自分の意思よ」


「何よそれ…私にーーその意思は既にあると。言っているの?そんなの…そんなの…あるわけ無い!」


笑いは止まらず、命さんは、私をーー鋭く睨むと続ける。


「私をーー殺す気で来たのは誰かしら?自分の体を失う事も覚悟で…貴女のした事は、間違いなく自分の意思よね?それを否定する?…悪には染まらず、自分の意思は正義だと?」


「零司を解放し、私を悪として裁きーー貴女は正義の味方だと?殺人するにあたり、それは正当化出来ると?…とんだ茶番ね」


拳を強く握りしめていた。私はーー怒りか、羞恥か、感情がわからず…体を震わせながら、口を開く。


「なら!命さんのしている事は何よ?殺しあいをしながら、殺さない!互いの必殺は使わない!なのに、私のような人を幾人も…葬りさって!挙げ句に私を助けた!命さんのほうが、茶番よ!!」


冷たい瞳、真っ赤な瞳が冷酷な視線へと変わり…私を見ながら、呆れたように目蓋を閉じーー


「いちゃもんね…まあいいわ。能力はーー貴女の見た事、聞いたこと、話をしたこと、感じたことを私へとそのままーー共有するのよ」


目蓋を開き、優しい表情へと変わった命さんはそう告げる。


「貴女はーー契約を結ぶこの一日、私の一部になるの。全てを共有するわ。正しーー身体能力及び能力と命ーーは例外なのよ。私と貴女には、記憶以外の共有は一切起こりえない」


「私から貴女へのーー記憶の流れも、当然のように無いわ。契約主は私…貴女はした側。そう言う事になっているから、一日過ぎたらーー貴女の命をもらい受ける」


…私の一日の記憶全てを共有した?それは…単なる覗きじゃない!


「ちょっと…覗きじゃないわ。契約よ。正しーーこの世界の記憶以外は共有出来ないの。私達はーーあっちの世界では、能力は一切発動出来ないの。だから、この世界のみの限定的なものよ。あっちで何かあっても、私には解らないから安心なさい」


…あっちの…要するに、私の世界ではーー


「身体能力はこのままよ。私を殺そうと考えるなら、それは止めたほうがいいわ」


「違うよ!そうじゃなくて……そのお風呂とか…着替えとか…トイレとか…女同士だから見られてもいいとか…とにかく!覗かれるのは流石に嫌なの!だからーーちょっと考えちゃって…」


呆れた…なんて命さんは言いながら、肩をすくめる。


「あ、一部に…って事は、零司君もーー命さんの一部になっているの?」


考えた事が伝わるのなら、声に出したほうが、いいと思った私はそう聞き…命さんは頷く。


「何回も言ってるわよね?零司は、私と誓約を交わしたって…当然だけど、零司の記憶も、極稀に私と共有するわ。一日と限定してないぶん、そういった事は稀にしか起きない」


「効力の違いってことだよね?良かった…私の記憶も零司君に流れるんじゃないかと思って…」


「そんなことあるわけ無いわ。貴女の裸…又は…トイレの光景を…流れで見せると思うわけ?自分の意思でなら未だしも…ね」


なるほど、乙女の事情は頑なに守ってくれるんだ。


「それに、私の記憶は流れないし、見えたとしても、私しか解らないわ」


前言撤回。守る気は、ないみたい。


「まあ、いいわ。それじゃーー私達は行くわよ」


「待って!この世界は…どうやって戻ればいいの?」


「ああーーそうね…貴女がーー」


あ、忘れていた。私の中で、そう命さんに言わなくちゃいけないこと。


高槻たかつき 未来みらい。私の名前だからーー貴女は止めにしない?」


「……高槻?未来?……そうーー未来。未来が見ているのは悪い夢よ」


悪い…夢?どういうこと?


「夢はーー起きたら大概は忘れるわ。そして、同時に…目覚めたら、普通の今が始まるわよね?」


「だから、未来が見ているのは悪い夢よ。夢はーー起きたら覚めるもの。だから、未来はーーお休みなさい」


ゆ…め?おやす…


「良い目覚めと、終わりの日を堪能しなさい」


私の視界は闇に染まり。後はーー


「後はーー零司が彼女に話かけられ、私の昨日の話はーーこれで終わりよ」


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