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境界線に触れる時5〜境界線と彼女達と目覚める力〜

「零司と私は、どちらもーー殺さなければならない。いえ…殺さないといけない…と言ったほうが正しいわ」


「何故?と聞きたそうな顔ね。そうねーーさっき見たでしょ?零司は…規格外の化け物で、私はーーそれを超える化け物」


「反射、速度、怪力、異常な生命力、剣を宙に浮かせ…命じたように動かせる」


彼女はそこまで言い、一度うつむくように顔を地面へと向け、私は彼女を見つめる事しか出来ず…彼女はうつむいたままで、話を続ける。


「私はねーー貴女を殺す。零司は出来ないけど、私なら、確実に出来る。私はね…今までどのくらいの人を殺したかーー解らないくらい、人を殺してきたのよ」


「見ず知らずから、知り合いまでーー多分…そうね…私の記憶が正しいなら、私個人を理解し、話が出来るのはーー零司を除いて誰もいない」


新藤君を除いて…誰もいない?そんな…じゃあ彼女はーー


「逢うものは全て殺した。慈悲なんて欠片も無いくらいーー圧倒的に、貪るように、確実に…ね」


彼女は、多分笑った。自分の事を話ながら、そうするしかないようにーー笑ったのかな?何て思う。


「……どうして、新藤君は…貴女と一緒にいるの?意味が解らないよ…新藤君が死なない体だから?殺さないといけないってーー殺せないのに?貴女も…新藤君も」


その問いに、彼女は首を振り、ゆっくりと顔を上げ私に微笑みながら、口を開く。


「一緒にいる理由は、本人に聞くのがいいわ。そしてーー貴女の質問と考えは、誤解が多いわ」


「私はーー新藤 零司を殺しているもの。再生する云々を除外すれば、私は零司を何の躊躇いもなくーー殺したわ」


まただ、頭の中で理解出来ない。私は彼女が言っている事を理解出来ない。


「新藤君は…生きてる…よね?普通に喋ったし、体は温かくて、クラスに常にいるし、今もーー体は元通りだよね?意味が解らない」


「貴女は意味を求め過ぎよ。もう少し考えて、柔軟な思考で言ってる事を理解しようとすればいいのよ」


何よそれ…私を馬鹿だと言ってるような口振りに、自然と口が尖る。


彼女はそんな私の表情を見ながら、軽く肩をすくめ、しょうがないか…何て感じでため息をつきながら、説明を続ける。


「確実に殺すと言ったわよね?…その顔、まだ解らないの?零司は元からこんな化け物だと、決めつけていることがそもそもの間違いなのよ」


「零司は…元は貴女と同じ普通の人よ。普通に生活し、普通に友人がいて、貴女のように、ごく当たり前の人なのよ。ここまで言えば、誓約と言う言葉にも直結するわよね?」


……そんなこと覚えてないよ。情報の多さに、頭はまるで回らないのに…


「新藤君が、貴女と誓約を交わしてーー化け物になった…そういう事なの?」


「そう、零司は私と誓約を交わしたのよ。正確に言えば、契約に近いけれどね。…その際に、零司はーー私を殺す方法を得るのよ」


私の視界がグワングワンと波打つように歪んでいく、自分との誓約を交わして、自分を殺す方法を与えた?彼女の言ってる事の意味ーーというより、わけがわからない。


「ごめん、待って…貴女…どういうつもりなの?そんなわけ解らない誓約を交わして…貴女と新藤君に何の得があるの?」


「あら?私の話を聞いていたわよね?得も何も…私は、零司と殺しあう。故に、互いが殺す方法が無いと成立するわけないじゃない。違うかしら?」


私は自分の頭をポカポカと殴りつける。キチガイみたいな光景を、彼女は唖然とした感じで見ながら、私はこう言った


「違うって!そういう事じゃないよ!互いを殺す方法を得ているの話はいいの!…新藤君は、その方法と、再生と、化け物を得る。貴女は化け物の新藤君を得て、新藤君を殺す方法を得るーーじゃあ、何で誓約をしたのよ?根本的な話をずらしているから、意味が解らないって話をーー」


いい終える前に、私はーー巨大な本を連想する。


その本を今のページから、前のページに開き…さっきの私の思考をゆっくりと…照らし合わせる。


「ーー新藤君を貴女の傍に…違う。新藤君が貴女と共に進む為に誓約を交わした。新藤君は、望んで化け物になり…互いに殺す為の手段を得ながら…互いに殺す事は出来ない…出来ないからこそ…貴女と新藤君は、永遠に一緒にいられ…殺す気なら殺せる貴女が望まないのは…新藤君と共にいたいから…そっかーー」


私は彼女を見つめ、ゆっくりと口を開く。


「これは、この誓約はーー貴女がもっとも望み…そして意味嫌う。最大の汚点ウィークポイントだから、貴女は何も言いたくない…違うの?」


「……だとしても、貴女には関係無い。零司にも…ね」


彼女は新藤君に触れ、愛しそうに髪を撫でる。


「新藤君は…知っているの?貴女がどう思うか…貴女のしている事はーー最低だよ」


「さあ?どうかしら?望んだのは零司だし…私は何もしてないもの。零司が私を殺したいと思えば、そうすればいいわ。そうよ…そうすれば……」


「止めてよ!新藤君がーーううん、零司君が可哀想。こんな…こんなことが…ずっと続いていたの?貴女は!!何も感じないの!?」


「………貴女には関係無い。零司も、貴女もーー私の感情?そんなもの…何の役に立つのよ?」


ゆっくりと、彼女は新藤君を膝から下ろし、立ち上がる。


「…この場で私に殺されてみる?その口をーー閉じてあげてもいいけど?」


私は立ち上がる。こんな女…怖くもなんとも無い。


一歩踏み出し。私は、彼女へと告げる。


「貴女なんか怖くない。零司君をーー解放してあげてよ」


互いの視線が交錯し、彼女は、私へと一歩踏み出す。


「そう…解放…ね」


続く言葉は、彼女のーー


「零司はーー私との誓約を交わし、私の…一部になった。剣であり、盾であり、人形でもありーーそれを望むのは…零司よ」


揺らぎ、彼女の瞳は真っ赤な炎を灯す。決意ーー違う、私には違うと断言出来る。


「なら、私はーー貴女を許さないよ。零司君が自分の意思で守っていても、私はーー貴女を許さないよ」


揺らぐ瞳。彼女の心はーー脆い。私には、壊れた心が…違う。


彼女が壊れているんじゃない。本当に壊れているのはーー零司君。


「逃げないのね。潔い精神は好きよ」


そうだよ。壊れているのは零司君。彼女はーーみことさんは、ただーー


「零司君に依存している弱虫なんか…怖くないよ」


私の心がーー高ぶる。視界には、幾重にも積み重なる巨大な本。


「ならーー貴女はーー」


見える。剣がーー右からーー


「ーーいったぁ!!?いぃぃぃ!!」


「避けた?どうやって…腕しか持っていけ無いなんて…貴女ーー何よ?」


答えられない。地面に倒れないように、必死に耐えーー


切り落とされた私の腕が、地面に落ちるのを見ながら、それでもーー彼女へと視線を向ける。


「ーーっ!!ーーっ!!ば…かに…しないでよ…みことさんなんか…怖くない!!」


本が、音を立ててページを捲る。一枚一枚にプリントしたように、写真が見えーーそれが動画のように再生して、私はそれを見ながらーー


「左!ーーっつう!?あああぁあああ!!!!!」


腕を盾に前進。さっきのでーー避けるのは無理だと解ったから、私なりに最良の判断。


「な…によ?どうなってーー」


「下!右!次はーー正面蹴り!!」


剣は避けられない。でも、当たる箇所は解るのならーー


地面を全力で蹴りつける。痛い!痛い!痛い!!でもーー


「届…くん…だから!!」


彼女の瞳が見開く。まさにちょうどーー蹴りつける彼女の足を、口でーー全力の噛みつき。


「ーーっ!?このーー」


彼女は地面を蹴る。歯が鳴り、私の攻撃は失敗ーー見えていた本は…全てが燃える。


「あ…う…そ、これで、終わり?」


私の呟きは、彼女の拳が顔面を叩きつけると同時に、消える。


「手こずらせて…くれるわね。貴女…何者なの?


「がーーいーー」


地面に落ち、転がり、跳ね、何度かするうちにーー私はーー止まる。


「まさか、この世界に長くいた影響?何らかの力が働いたのかしらね…」


痛い…視界が霞み、私の呼吸が止まるような…今度こそ…死ぬ…のかな?


「もしくはーーまさか…ね」


彼女がーー命さんが、私を見下ろしながら、そんな事を言い…しゃがみこむように、私の瞳をのぞきこむ。


「貴女ーーもう少し、足掻いてみる気はないかしら?」


足掻く?命さんは、私に何を知ろっていうの?


「…一日ーー貴女に一日だけ時間をあげるわ。一日過ぎたらーー貴女を殺すけれど…それでもいいならーー私の手を取りなさい」


命さんの手が、私の瞳に映る。一日…一日だけの契約…しないと私はーーここで死ぬ。


「生きたいなら、少しだけ私の手を取りなさい。何かをーーこのままで終わりたくないなら…ね」


卑怯だ。何かをーー終わりたくないならーー私はーー取るしかないじゃない。


動いた…か、私には解らない。ただ、多分ーー体が軽くなるこの感じと共にーー私は、こう言った。


「一日終わる前に…命さんを殴ってやるんだから…」

何故か、笑った声が聞こえた。


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