境界線に触れる時3〜彼女と彼女と剣〜
甲高い金属音が反響していた。
私の目から見てもあの剣は、教科書に載っていた西洋風の剣である事が理解出来た。
確かーーロングソード…子供の体躯の長さ…全長が大体70〜100センチほどの凶悪な武器。
そんなどうでもいい知識を思い出しながら、ようやく体が動くようになり、立ち上がる。
新藤君は、明らかに劣勢…彼を守護するように宙に浮かぶ三本の剣が、鳥の群れのように襲いくる剣を無理矢理弾きながら、しかしーー
「ーーッ!多すぎる!」
止められた数は10〜20ほど、残りの80本は新藤君目掛け襲いかかる。
跳躍し、剣の腹を蹴りつけ、地面に落下する際に宙に浮かぶ新藤君の剣がその群れに突貫ーー
甲高い金属音が響き、夜の空に小さな花火が何度も浮かび、新道君は地面を転がり、また跳躍ーー今度は横に大きく飛び、背面を守護するのは、一際大振りの剣。
「…あんな長さの剣なんて…凄く大きい」
騎乗しながら、敵を叩き伏せる為に思案された巨大な大剣ーートゥハンドソード…よりも大きく、まるで壁見たいな刀身で他の剣が小さく見える。
持ちながら戦う事は、多分無理。2メートル超えているような、そんな極大の大剣。
私から見て、馬鹿でかい大剣はーーその場で高速で回転、独楽のように襲いくる剣を弾き飛ばし、狙いをそらさせる。
その間に新道君は彼女へと肉薄する。
「命!!」
新道君の叫びと共に、彼女がほんの少し横に動く。
ダンスのステップのように、新道君も無理矢理追従しーー
ーー繰り出した右腕が根本から無くなるーー
構わず、新道君は体を回転させながら蹴りを繰り出す。
繰り出した回し蹴りは、彼女の顔の目の前で、ちょうど付け根から宙に切り飛ばされる。
バランスを崩した新藤君に向かい、彼女は何の躊躇いもなく腹を蹴りつけ、ピンボールの玉のように私の足元へと落下ーー
そのままバウンドすると、私の頬に生温い感触を浴びせ、空中で肉を突き刺す音が無数に響き渡る。
「全然ダメね…零司はまるで成長が無いんだから…」
腕組みをし、まるでダメだと首を振りながら、彼女は宙に浮かぶ剣に向かい手招きをする。
剣は従順に付き従い、彼女の頭上で切っ先をこちらに向けながら、静かに漂い…それと同時に、空中からズタボロの新藤君が地面に落下ーー
「新藤君!!」
私が駆けるよりも早く、あの大剣が走り、新藤君の落下を受け止めると、そのまま砕け散った。
主を守護するような。そんな役目を果たしたような…あの大剣にはーー感情があるの?
「まだ…だ…まだ…」
「新藤君!!もう駄目だよ!!貴女も…もう…止めてよ!!」
そう叫びながら、私は駆け出していた。
何も考えてなかった。自分に戦う力は無くて、あんな剣なんて振れる訳もなくて…だからってーー
「……いけ」
そう命じた声と共に、私はーー
ーー本当に一瞬で、何が起きたか解らないまま、地面に顔をぶつけるーー
「あ…れ?…なんで?」
「……ごめんなさい」
彼女の贖罪の言葉を聞きながら…私の視界に広がる赤い液体が、ゆっくりと私を包んでいくのが映り。
「み…こと!!お前はーーお前はーー!!」
新藤君の声が聞こえ、私は何故かーー手を伸ばす。
「お前はーー『僕との誓約を忘れたのか』!!答えろ!!命!!!」
「黙りなさいよ!!五月蝿いのよ!!五月蝿いのよ!!死んじゃえばいい!私をーー生涯孤独にしてよ!!希望なんて!!持たせないでよ!!!」
視界が暗くなる。ゆっくりと、激昂している彼女へと視線を向ければーー
空が真っ暗になっていた。月の光に反射し、綺麗な銀の色が彼女を埋め尽くす。
「千本乱舞!!殲滅の型!!」
彼女の周囲に舞い降りた剣の軍隊が、規則正しく切っ先を上げる。
「ーー僕はーー俺はーー」
部隊の洗礼の儀式みたいに、綺麗な銀色が群れをなし、合図を待つように静かに漂っている。
「私は!!変わらない!!零司が何を望んでも…私はーー殺戮者のままなのよ!!」
彼女は腕を降りおろす。泣いているように見える彼女を見ながら、私はーー
「可哀想だよ…何だか解らないけど…可哀想」
そんな事を言いながらーー剣の群れは私と新藤君を、無慈悲に飲み込む。
「全てを守って…君を…君達をーー断罪する」
何故か耳元で囁くように聞こえた新藤君の声とーー
ーー学園で鳴り響く、協会の鐘の音を聞きながらーー
私は、闇の中に落ちていった






