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真実を知った時〜歪な関係〜

「嘘……零……司君?大丈夫…なの?」


駆け寄ろうとした彼女ーー未来は、俺の今の姿を見ながら、口元に手を当て、恐る恐る近付く。


見事に胸と腹を貫いた大剣の刃を、撫でるようにしながら俺は、安心させるように未来に微笑み、弾き飛ばしたみことへと向き直る。


「零…司?どうして?私を庇う理由なんて……」


ポタポタと、血が落ちる腕を俺へと向けながら、命は泣きそうな顔をし、俺へと近付く。


「命…処刑剣エクスキューショナーを使ったんだから、俺がどうなるか…そして、お前がどうなるかーー解るよな?」


「……解っているわ。零司に殺されるならーー」


そう言っている命の頭を、俺は片手で軽く叩く。子供を諭すように、優しく二度ほど叩くと、未来へと顔を向け、見られた未来は困惑するように後退。


「未来ーー君には助けられた。駄目だ…と言い続けた未来の声に、間違ってると言ってくれた事にーー俺の意志は、行動でそれを示せた。ありがとう」


「え?私……あの、そのーー必死だったから。だって間違ってる……よね?零司君が…命さんを殺す何て、おかしいよね?」


未来はそう言って、ほんの少し前に足を進める。命の斜め後ろに位置する辺りで、俺と命を交互に見るようにし、沈黙が降り立った為に地面へと顔を伏せる。


「未来ーー貴女が思ってる事は、正しいかもしれないわ。でも…零司には、どうする事も出来ないのよ。私を庇う事が出来たーーこれは、奇跡に等しい行為に他ならないわ。二度は、起こり得ないでしょうね」


「……おかしいよ。こんなのおかしいよ!!どうして?何で、零司君はーー命さんを殺さなきゃいけないの?零司君は、そんな事望んでなんか……ないよね?」


未来は叫ぶようにおかしいと言い、真剣な眼差しで俺を真っ直ぐに見つめる。


「……未来は、人を殺すという行為について、どう思う?」


「間違ってる行為だと思う。その人の…全てを奪う行為だよ。私にはーーううん、私も……しようとしたから、否定は間違ってる…かもだけど、私は許されない行為だと思う」


俺の問いに、未来は悩みながらもこう答える。俺は、未来へと笑みを向けーー


「そうだな。許されないさ。どのような理由があれど、殺人は許されない。例えーー俺が正義を執行するに辺り、処刑剣エクスキューショナーを用いたとしても、これは許される行為ではない」


俺の言葉を聞いていた未来は、髪を振り乱すように首を振ると、俺へとこう言った。


「だから、おかしいよね?零司君はーー人を殺す事をというより、殺人自体を否定している。どうしてなの?……化け物を殺す事すら、零司君は否定しているのは何故なの?」


「未来、俺は君が言うように、否定している。それは事実だ。殺人は、しょせん殺人なんだからな……ただ、それをしなくてはならないと言ったらーー未来は、するかい?」


俺の再度の問いに、未来は空を見上げるようにし……深呼吸をすると、俺へと真剣な顔のまま、こう告げた。


「零司君、それはーーすると思うよ。多分ね、誰でもすると思う。危機的状況だったり、怨みや、妬みや、そんな事で起きてる事件は……凄く多いよ。私は、そういった事を、絶対に無いとは言い切れないよ。だってーー生きてるから」


未来は微笑む。俺は…その微笑みを見ながら、何故か、空を見上げる。


「そうか……未来は、強いんだな。俺には、その意思の強さは無いんだ。無いからーー」


「零司は、殺人衝動及び、殺戮者デストロイヤーとしてのーー否定すべき自分を代価として、支払ったのよ。そう、零司は……殺人をしなくてはならない。これが、未来が欲する……零司の答えよ」


俺の言葉を切るように、命はそう言って、未来と俺を交互に見やり、未来へと視線を向ける。


「……命さん。これは、この契約の代価は……」


「私と同じになる。未来には言ったわねーー零司は私の一部であり、剣であり、盾であり、人形だと……未来が思うようにーー零司には、私のかわりを、やってもらっているのよ」


その言葉を聞いた未来は額に手を当て、目をキツく閉じながら、こう言った。


「待って、待って……あの、私、理解出来ないんだけどーー命さんのやっている事を零司君がしているって、命さんが説明してくれた事を、やっているとしたらーーつまりは……殺人を零司君にさせているって事なの?」


未来は目を開け、俺へと一度視線を向け、命はそんな未来を呆れたように見ながら、未来は命へと視線を移動させる。


「未来、貴女ね…零司は、殺人をしなくてはならないと言ったわよね?私の話をきちんと聞いていたら、その質問の答えは、既に言ってあるわよ。ちょっと!また頭を叩こうとしないの……はぁ…再度言うけれど、零司は殺人をしたくないのよ。したくないけれど、しなくてはーーならないのよ」


未来は命に止められたせいか、頭の上に拳を浮かせたまま動きを止め、そんな未来を眺め、命はため息を吐きながらも、未来へとそう言いーー未来は、停止した動きを再開するかのように、拳を下ろして質問する。


「殺人をしなくちゃいけないって事が、条件なのは理解したけど…そもそも、どうして命さんや零司君はーー殺人をしているの?」


未来は真剣な眼差しで俺や命を見て、命は困ったような顔で俺を見やり、俺は…未来へと説明をする為に口を開く。


「未来、その質問には、命は答えられないんだ。だから、俺から説明をするが……その前にだ。そもそも、未来から見て、俺達はどういう存在なんだろうか?」


「……え?零司君、何言ってるの?どういう存在も何も、零司君と命さん……だよね?」


「そうだ。未来が認識するように、俺や命は、それぞれが独立した存在だよな?でも、本質的に未来とは違うーー存在でもあるよな?」


未来は顎に手を当て、首を軽く捻りながら、しばし考え込みーー


「………化け物……って事を言ってるの?」


「ああ、俺達は化け物なのさ。未来、間違っても俺達はーー人という存在では無いんだ。人の形を成してはいるが……未来とは、違うんだ」


俺は、未来を見つめながら、軽く頭をかき、未来は納得出来ないかのように、首を振る。


「私には、解らない。零司君や命さんが化け物だとしてもーー私を助ける意味とか、こうやって話をしている意味が解らないよ!」


「…未来ーー化け物の俺達を、否定しているお前に問うが……俺や命は、不老不死だと…思うか?」


「それはーー腕とか足とか、傷なんて直ぐに治るし、私には、あんな事出来ないけど……不老不死…と言われたら、そうなのかな?しか思わないよ」


未来は、困ったように顔をしかめ、俺はそんな未来を眺め、命を見ると、血の流れが緩やかになった、無くなった腕を未来へと向けーー


「未来、私の腕は蘇生していないわよね?零司が言ったことはーー矛盾していると、思わないかしら?」


「……零司君は、何を言いたいの?命さんもそうだけど、そんな断片的な情報じゃ……私には理解不能なんだけど……」


未来は頭を抱え、俺と命はーー視線を交わすと、互いに仕方がないと頷き、俺は…未来にこう告げる。


「未来、俺は他者を殺害する。でも、したくは無いんだ。ただーー殺害しなくてはならないと言ったように、例えばだ」


未来は俺を見やる。困惑した表情は変わらないが、俺は構わず、話を続ける。


「他人のいのちを、俺やみことは、糧にして生きているーーとしたら、未来ーー君は……これを不老不死だと、言えるかい?」


「……零司君が殺人をして、その人のーーいのちを自分達が使っている?って事を言いたいの?」


「そうだ。俺達は…さっきのような怪物のいのちすら、自分達が生きる為にーー利用しているのさ」


未来は、後ずさる。俺やみことが、微かに微笑みを向けた事が原因かも知れないが、未来はーー


「私の腕が直らないのは、言わばーー生命力が足りないのよ。と言うよりも…私にはーー蘇生する力は、ほとんど無いわ」


「……命さんの、蘇生能力がない?零司君や、私を蘇生してるの……に?」


未来は、背中にぶつかる墓石によって、後退を止められる。


「そうだ。俺や未来はーーみことが得たいのちを、ただーー譲り受けたに過ぎないんだ。だから……未来は、あの瞬間にーー」


未来は、崩れ落ちる。耳を両手で塞ぎ、聞きたく無いと、首を振り続け……俺は、それでも事実を告げる。


「死んだ。そして、一日と言うーー誰かのいのちを、未来はーーただ、使っているだけなんだよ」


「嘘!!そんなのーー聞きたく無い!!嘘、嘘よ!!だって!!私は……今もこうしてーー」


未来は、駄々をこねる子供のように、嘘だと言い続ける。


俺は…困ったように未来を眺めながら、処刑剣エクスキューショナーの刃を撫で、未来へと、出来るだけ優しくこう言った。


「未来は、生きている。俺達のように、化け物ではなく、普通の人として生きている。ただーー未来という個体の生命はーーあの瞬間に終わっただけだ」


「何よ……それ?私がーー化け物じゃないけど、私という個人はーー既にいないって事を言ってるの!?何で!?何で…私を助けたのよ!?何でよ!!!」


未来の激昂は、俺と命を撃ち抜くように、鼓膜を震わす。


その問いにーー俺は、空を見上げながら答える。未来という、個人を見ながら答える事はーー俺には出来ないからだ。


「未来のいのちは、みことと共有されているのさ。一日という制限、そしてーーその一日が終わったら、未来が共有している……いのちを、みことへと戻さなくてはならないんだ」


空には、盛大な星空が、埋め尽くさんばかりに輝いている。


「……まさか、私ーー」


震える声が、俺の視界を未来へと向かせる。


「ああ、未来はーー要するにーー」


未来は、俺を見る。虚ろな瞳はーー俺を、ただ見つめている。


「俺達の、生け贄なんだ。未来が死ぬばーー生命力の返還は出来ない。俺がーー殺さなくては、いけないからな」


未来は、口を開く。呆然とした表情と虚ろな瞳と、口を開いた状態で、ただ、俺を見つめる。


「俺が、殺人をする理由は、みことへと、生命力を返還する装置の役割を果たす為だ。ごめんな、未来」


「……何が?私は…人の命を…うばーーウッ!!ェーー」


吐き気を模様したように、未来は口に手を当て、むせるように背中を震わせ、俺はそれを見やりながら、未来へとこう言った。


「最後に、人としてのーー大事な何かをーー失わせてしまった事をな」


未来は、吐き出さないように必死に耐えながら、俺を見やりーー


「おかしいよ……こんなの……間違ってる」


そんな声を、俺はただ黙って聞いていた


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