断罪の刃〜終わりの一閃〜
薄緑色の髪をした少年は、頭上に恐ろしく巨大な剣を漂わせていた。
紺のブレザーにズボンを身に纏い、目の前にいるタキシードを着た金髪の男目掛け走り込む。
直進的な軌道で首を刈り取ろうとするように、真横に剣を薙ぐが、巨大な十字架に当たるだけで、タキシードの男は更に跳躍する。
「ーーきゃ!?ちょっと!!零司君!?何で私ーーこんなところにいるの!?」
巨大な十字架は、緩やかに倒壊していく。切りつけた箇所は綺麗に真っ直ぐな断面を描き、そのまま押し倒されるように地面へと倒れ込む。
「な……ちょっと!!嘘ーーこのままじゃ潰されーー何で!?手足が動かないよ!!」
ガチャガチャと鳴り響くのは、鎖の音。十字架に張り付けにされた少女は、紺のスカートとブレザーを揺れ動かし、必死になって手足を動かすが、外れる様子は無い。
「ククク……良いのですか?彼女はーーこのままだと死にますよ?」
タキシードの男は、零司と呼ばれた少年から距離を取りつつそう言いーー零司は、そこ目掛け駆け込む。
「執行対象確認ーー」
「な……貴様ーーあの女がどうなってもーー」
十字架に張り付けにされた少女は、ちょうどタキシードの男の真上に位置する辺りにいる。
「排除」
無慈悲に刃を振り抜く。タキシードの男は更に跳躍し、十字架に張り付けにされた少女の足元が綺麗に切断された。
「零……司君?ねえ……どうして?」
驚きの声と、困惑した表情を零司は見つめーー無表情な瞳を向けると、タキシードの男へと再度駆ける。
「未来……アレは零司であって、そうじゃないものよ」
唐突に十字架に張り付けにされた少女の横に、漆黒のセーラー服を身に纏う黒髪の少女が現れ、十字架の鎖目掛け腕を振るう。
甲高い金属音と共に両手が自由になり、足にまとわりつく鎖も、ほぼ同時に切断されたようにバラバラと両脇に垂れ下がる。
「え!?命さん!?これ……落ちーーキャアアア!!」
少女ーー未来を、命と呼ばれた彼女は、落下していく未来の真下で音もなくキャッチすると、瞬時に跳躍。
巨大な十字架は、地面へと倒れ込み。その間に、命と未来は周囲に並ぶ墓石を蹴りつけ跳躍していく。
「命さん!!何がどうなってるの!?」
「貴女こそーー何であんなところにいたのよ?」
「知らないよ!!気付いたらあそこにいたの!!それより、零司君はどうしちゃったの!?」
風を切るように二人は進みながら、先に見える光景を目にし、命の跳躍は急に終わる。
「ぐ!?何だとーー言うのだ!!骸兵団!!」
その声に合わせ、地面から瞬く間に人の形を為す、骸骨の群れがところ狭しと涌き出て零司の周囲を埋め尽くす。
零司は落ち着き払った様子で周囲を軽く見ながらーー頭上に浮かぶ、漆黒の大剣が夜空を薙ぐ。
瞬間…周囲を埋め尽くす骸骨の群れは…風に吹かれた葉っぱのように次々と宙に浮かびあがり、骨が風化した破片のようにバラバラと砕け散る。
「目標への障害排除ーー死刑執行を執り行う」
「バカな…貴様…たった一人にーーどれほどの数がーー」
空中に浮かぶ漆黒の大剣が、嘆いた様子のタキシードの男へと切っ先を向ける。
「ぐ……そうだ、契約者……あの女は十字架から離れた……生きてるならば我の所にーー」
タキシードの男は、頭上に手を伸ばすと、口の中で何かを喋るように呟き始める。
「来たれーー我が手にーー清きーー乙女よ」
タキシードの男が言い終えた瞬間に、未来の体が眩い光を放つ。
「不味い!!未来ーー」
「何!?何がーー」
二人は同時に慌てたような素振りを見せるが、眩い光が未来を包むと、命の腕の中から未来は消えーー
「斬首」
「きゃ!!何がどうな……」
漆黒の刃は、忠実にーー首をはね飛ばす。
驚いた表情を張りつけたその顔はーー
「ばか……よ。私はーー何を……してるのよ」
金髪の男の首が……ドサッと地面に落下。
「みこ……とさん?なん……で?零……司君?」
未来の首を守るようにーー命の腕から生えた剣はーー漆黒の刃を受け止め、それでも尚…威力を殺し切れなかったように、命の腕を剣ごと刈り飛ばす。
「アァアアアァアア!!!」
絶叫を響かせ、命は血が噴出する腕を未来へと寄せ、押し倒すように地面に倒れる。
「命……さん?これは、血が……で、でも直ぐに治る……あれ?ナオラナイ?」
「死刑執行完了ーー次に最重要死刑執行任務開始ーー目標」
痛みに呻くようにしながらも、命は未来を抱き寄せーー跳躍する。
「神楽 命、処刑……開始」
漆黒の刃は、手負いの命へと走り出す。
命はーー未来を抱き寄せたまま、跳躍を繰り返すが、力尽きたように……十字架が倒れこんだ辺りで、地面へと落下し、そのまま動かなくなる。
「ぐ……未来……行きなさい。貴女の時間ーーまだあるわよね?」
地面を片手で押さえ、血をボタボタと流しながら、墓石を背にし、命は未来を立たせ、話かける。
「命さん?どうして?どうしてよ?」
困惑し狼狽える未来を、睨むような目で命は見やり、フラフラと立ち上がると、追従してくる漆黒の大剣が、もう、すぐそこまで来ているのを見ながら、未来へとこう言った。
「殺し合いしているって、言ったわよね?零司はーー今まさに、私を殺す力を使っているのよ」
未来は後ずさる。命を見ながらゆっくりと左右に首を振り、飛来する漆黒の大剣を見ながら、未来は零司がいる方向へこう告げる。
「間違ってる!!こんなの間違ってるよ!!零司君!!!!聞いて!!零司君!!!!」
未来の声は、現れた零司には届いていないようだ。無言のまま、漆黒の大剣はーー
「処刑ーー断罪する」
「零司……いいわ。私をーー殺してーー頂戴」
真っ直ぐに命へと飛来。それを受け入れるかのように、ただ立ち尽くす。
「嘘ーーこんなのーー嘘だよ!?零司君は……殺せないよ!!」
未来の叫びは、命を貫通するように飛来し続ける、漆黒の大剣が物語るようにーー
「サヨウナラ……零司。殺されるならーー零司にしか、私は嫌よ」
「駄目だよ!!こんなの、駄目だよ!!」
未来はーー走り出す。
漆黒の大剣はーー無慈悲に……正確に……
「バカ……野郎が」
笑った顔はーー命を弾き飛ばす。
「れいーー!?!?」
貫く大剣は、正確に…命の位置に現れた零司を……貫いた