強者と弱者〜絶体絶命〜
目の前に広がる骨の山を拳と、回転するように跳躍した空中回し蹴りでまとめて何体か粉砕しながら、俺の横を二対の剣が疾走し、見える範囲の骨の軍勢を片っ端から切り払う。
「数が多すぎる…これで何体目だ…」
休む暇すら無く跳躍。目の前にある墓石を蹴りつけ、剣が地面に映る骨という骨を直進的な機動で貫通し、バラバラと砕け散った骨の破片が降り注ぐ地面へと落下ーー並び立つ墓石を縫うように駆け…そのすぐ後ろの墓石が、音もなく爆砕する。
「逃げ惑うだけか?我を相手にはしないと?」
夜空に浮かぶ巨大な満月を背にするように、漆黒の羽を優雅にはためかせ、腕を組むのはタキシード姿の男。
「剣ーー確実に貫け《エンドオブトレイター》!!」
ぐるりと視界と体を一瞬だけ背面に向け、剣が真っ向から男へと疾走。それを片腕を軽く払うようして、男は難なく弾き返す。
その間に墓石を背にし、地面から這い出てくる骸骨を振り向き様に脛で頭部を粉砕。
背にした墓石が爆砕し、重量のある石の塊が背中を叩くが、構わず直進。
「くそ!何か通用する方法があるのか…」
正直、手に終える相手ではない。がーー突破口を見出だせなければ、命が確実にーー
「いい加減飽きたぞ、人の子よ」
耳元で聞こえた声に戦慄するように、瞬間的に横に跳ぶがーー腹に痛烈な衝撃が走り、軌道がかわるように斜め向こうの墓石へと背中から当たり粉砕する。
「ーーが…ごーー」
腹が抉れたような痛み。背中は衝撃と材質の硬さからか、感覚自体が消え失せ、しかしーー
「こ……の!!」
立ち止まる訳にはいかない。無理矢理に体を起こし、瞬時に見える墓石へと駆ける。
地を踏み、走り、次いでーー視界に映るケラケラと笑う骸骨を剣が無慈悲に切断。
走る剣を急激に後方へと疾走ーー背中合わせのように、甲高い金属音が響き、それすら無視し…墓石を蹴りつけ全力で跳躍。
「み…こと!!」
叫ぶように名前を呼び、俺の横を大量の銀の群れが疾走。雪崩のように、背面にいるであろう敵へと襲い掛かりーー
「姫…いい加減解っていただきたいのですが?無駄だと…まだ解りませんか?」
墓石を蹴りつけぐるりと後転、落下の速度と共に、爪先で地面に佇む骸骨の頭部を粉砕し、男を囲むような剣の群れを視認しーー絶望すら覚える光景を見つめる。
何百とあるような銀の切っ先が、男が腕を薙ぐ度に弾け、背面、側面、斜め、足元、頭部、それらに波状のような攻撃を繰り出すが何一つーー当たった形跡すらない。
突き、払い、同時に四方から攻めーーそれすらも弾かれ、羽や体に触れた剣はーー火花を散らしながら、後退。
「化け物…かよ」
「無駄です。姫ではーー私を倒す事は不可能ですよ」
微笑むような表情と共に、優雅に羽をはためかせると、周囲にある全ての剣が綺麗に弾け飛び、銀の閃光が走るや…墓石や囲むようにしてある木々へと縦横無尽に落下しーー突き刺さる。
呆けた時間が長かったせいか、足首を何かに掴まれた感覚を覚え、地面を見やると、ケラケラ笑う骸骨と目が合い、凄まじい力で地面へと背中から叩きつけられる。
俺の周囲には白い骨の指先が何重にもまとわりつき、体を揺さぶるようにするがビクともせず、ケラケラ笑う骸骨が、俺の体へとのし掛かるように地面から這い出てき、白い指先の腕が唐突にーー鋭利な棘のように変化する。
「な…来い!!剣」
俺の呼び掛けに応えるように、巨大な剣が真っ先に飛来し、のし掛かる骸骨の変化した腕から背骨を切り飛ばす。
次いで、幾重も重なる骨の群れを二対の剣が回転しながら墓石ごと切り飛ばし、自由になった体を直ぐに起こすや、瞬時に駆ける。
「まだ逃げますか?」
反射的に、大剣が声の聞こえた方へと回転ーー幹竹割りのように頭上から両断するような素振りを見せーー
両腕を交差した男の体が地面に足から多少埋まるが、致命傷どころか力比べをするように男の筋肉が盛り上がり…男の体躯と比べると明らかに巨大な銀の壁は、宙を舞う。
駆ける俺の真横に切っ先から大剣は落ち、その衝撃の余波に俺の体はほんの少しだけ揺らぐ。
跳躍のタイミングがズレ、目の前に現れた骸骨に咄嗟に拳を叩き込むがーー骸骨の顔にはヒビすら入らずーー逆に、長い鞭のような腕の骨が俺の顔面を叩きつけ、地べたを回転しながらごろごろと回る。
「ーーッ!?何だ…と」
「いい忘れてましたが…この骸兵団骸と名付けただけあって……倒されれば倒されるほど……強力になるんですよ。それにーー」
薄ら笑いすら浮かべるように、恍惚とした男の声が更に続きーー俺は口に入った砂を唾と共に吐き出しながら、再度駆ける。
「ここは墓地ですからね…代替え品は…何体いるだろうな?諦めろ」
剣を走らせ、骸骨を切り飛ばす。まだ剣は有効。確認…跳躍。
周囲を取り囲むように新たに産まれた骸骨の群れの中で、墓石を背にし、立ち止まる命を見つけ、俺はそこに降り立つ。
「命!!正直打つ手…がーーおい?命?」
墓石に背を預け、命は無言のままで、ゆっくりと背中を擦りつけるように地面に座り込む。
「な!?おい!……不味いな」
命の呼吸は荒い。豊満な胸が荒々しく上下し、玉のような汗が漆黒のセーラー服を濡らし…何も喋らないかわりに腕を弱々しく俺へと上げると、荒い息のまま、こう告げる。
「零司…ごめんなさい…ちょっとーー疲れたみたい」
命の腕を掴むや、俺は何も考えず抱き抱え、ゆっくりと迫る骸骨の群れを見ながらーー剣を疾走させる。
全面に展開している数はざっとみて10。墓石を支えるようにして俺達へと迫る数も合わせれば…いい面倒だ。何匹こようがーー
地を踏み出し、剣が手前にいた骸骨を粉砕。骨の破片をかいくぐり、正面に立つ骸骨を蹴り飛ばす。
よろめくように後退した骸骨に剣が走り、切断。返しで横にいる骸骨の背骨を切断。その剣の下を潜るようにして、正面にまた立つ骸骨の足を蹴りつける。
左から来た骸骨は頭部を剣が粉砕。足を蹴りつけよろめく骸骨の顎を目掛け、脛で空中に打ち上げ、頭部を粉砕した剣が空中に打ち上がった骸骨を貫きーー視界が開けた空間を捉え、そこへ向け、墓石を蹴りつけ跳躍。
開けた場所はーー巨大な十字架があった場所。
「命…しっかりしろ」
「……弱ってるからって…変な事しないでよ?」
無駄口叩く余裕があるのなら、先ずは安心。しかしーー
「……零司、私はーー」
不安そうな顔をしながら、命は俺を見やり、俺は特に何も言わずに、十字架の真下に降り立つ。
降り立ち、命を十字架に下ろしながら、俺は命を真っ直ぐに見やるとこう告げる。
「命…このままじゃ、俺達は確実にーー死ぬ」
命は、呼吸を整えるように深く息を吸いながら、吐き出し、俺を真剣な瞳で見る。
「だからーー」
続く言葉は、俺を貫く鋭利な棘によりーー寸断された。
地面から唐突に生えた漆黒の棘は、俺の胸を貫きーー
命の絶叫のような声が響き渡った