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決戦の地へ3〜覚悟と現実〜

「なあ、零司…お前さ〜将来って考えてんのか?」


懐かしい声が聞こえる。穏やかな温かい風が…紫煙と共に鼻孔を擽る。


「え?将来?…えーと、僕には解らないな」


ああ、解るわけがない。将来ーーいや、未来あしたという希望なんてものすら、有り得ないのを知っている。


「ああ?なんだそりゃ…んな事言ってるとよ、幸せとか全部無くなんぞ?」


紫煙の匂い、あいつがーーあいつである証の一つ。


「…僕には、よく解らないよ。ただ、そうだなーー君と、僕と、みことの三人でさ〜何にもない場所で、普通にしていたいな」


平穏、平凡、日常。何も無い世界。虚無、怠惰、愛情、友情。素晴らしい世界。


「は?…クク…おま…ぶ…笑わせる…ククク…なよな」


笑いを堪える仕草、煙草を放り投げる仕草、こっちを見る目はーー常に優しい。


「可笑しいかな?僕には、叶えたい願い事何だけどね」


そう言って、俺はーー煙草をくわえる。


「おいおい…零司さんよ…ちっちぇー将来なんか願ってねえで、もっとでかくいこうぜ?」


煙草に火をつけようとするが、つかない。何だか…感触が妙に…コリコリしているようで、ざらつくような…


「でかく?…ああ、命の胸みたいにーーとか言うのはダメだよ」


何だ?甘ったるい匂いと、熱があるみたいに熱い…口の中で尖ったみたいに大きくなるんだが?


「先手必勝かよ!?零司、お前さんやるねー惚れ直すわ、マジで」


吸い付けば、火がつくだろう。考えるのが面倒だしな。いい、吸ってしまえ。


「君はーーかなえは、本当に面白いよ。僕にはーー」


吐息?何で?俺はーー何を?


「おいこら、零司に惚れたのはーーあたしだよ。世界が全部敵になろうが…あたしは、零司を救うよ」


印象的な笑顔。俺にとってーーこの光景は、ある意味完結した世界のページ。


切り取る切り取らないは、俺次第。そうだ、何かを得るとは…何かを失うのだと実感する。


「……ありがとう。僕はーー」


背中に強烈な衝撃を受ける。見ている光景は、拡散するように消え失せーー俺は、目蓋を開く。


「ーー!?な……んだ?くそ…頭が…」


チカチカとスパークするような痛みが頭部を襲い、ヨロヨロと、片手で支えになるものを押さえ立ち上がる。


懐かしい光景を見たせいか、視界に映る漆黒のセーラー服を当たり前のように見て、俺は声を上げる。


「ん?みこーーがぁ!?」


胸に強烈な一撃が入り、再度視界は闇に染まる。完全に力が抜け、もはや自分の体がどうなっているかすら解らない。


だというのに、脳内が完全に燃焼しているかのように、熱く燃える。完全限界燃焼オーバーヒートを起こしているかのような、そんな頭部の熱がーー何かに濡れる。


雨の降り始めのような、そんな小さな生温い雫の感触。それが、二、三度ほど当たり、フワリと体が浮き…沈む。


「ーーカよ…」


微かに聞こえた声は、泣いてる子供のような声音に聞こえ、体を無理矢理震わせながら、立ち上がろうと試みるが体は動かない。


石段を上る音が聞こえ、俺は目蓋を開くとーー骨や関節が嫌な音を立てる中、それでも構わず全力を込めて立ち上がる。


ぐらつく視界と、立ち上がった筈の体は今にも倒れそうだが、それすら押し殺し、背を向け歩き出しているーー可愛いげの無いアホに向かってこう言った。


「こら……何処に……いくつもりだ?」


声がかすれてるように聞こえ、石段にのめり込むような視界のブレを必死に押さえーー無理矢理一歩を踏み出す。

「零司…そのままで良いわ。後は、私が殺るわ」


ふざけた解答が聞こえる。俺に強烈な一撃を浴びせた張本人は、何の迷いも無くーー俺を闘わせないと告げたのだからーー


張本人…みことは地面を蹴りつける。視界のブレを、空中に無理矢理固定しながら、俺は手を伸ばし…崩れ落ちそうになる体を前に移動しながらーー叫ぶ。


「闘うな!!解るだろ!?命!!待て!!!くそ……動けってんだよ!?このボロ頭が!!!」


石段に体がぶつかる。伸ばした手は、指先は、地面を爪で耕すようにめり込み…それでもなおーー俺は立ち上がるように、体を起こす。


視界は完全に赤くなる。眼球の血管が切れたのか何なのか…赤くなった視界は、瞬間的に景色を取り戻すと、緩やかに下へと向かいーーそれを意思の力で上へと向き直す。


汗が身体中を濡らし、呼吸がいつの間にか速くなっていたのに今更気付く。それすら無視するように、足を前に踏み出し、更に一歩を踏み出し、俺はーー


「ふざけるな…何を…守るって決めたんだよ?俺がーー壊れようが、俺には…あいつが必要だろうが!?泣かせんじゃねえよ!!答えろ!!動けってんだよ!!」


体が震える。雄叫びを上げるようにしながら、前進。


足が地面を踏みつけ、全力の駆け出しはーー鳥居を潜り抜ける。


神社のような簡素な作りの周囲を見渡し、命がいない事を瞬時に判断…視線を上に向ければ、明かりが灯っているのが確認でき、あそこに向かったのだと確信し、加速。


「ーー嫌な空気が流れてるな」


山道を駆け上がる程に、ピリピリと肌が嫌な感触を訴え、木々が生え揃う山道の先に人工的な明かりを目視。


そこへ全力で駆け込むと、ここが目的地であるとよく理解出来た。


「ーー成る程、この場所はーー最悪だな」


開けた空間。頭上からは月光と人工的な提灯の電灯の明かり。


次いでーー周りを埋め尽くさんばかりのーー墓石がひしめくように並び立つ。


そう、ここは墓地。神之門じんのとの霊場のような聖域。


数々の人が、ここで自分の家族を供養したのだろうーー見渡す限りの墓石が、ひっそりと明かりに照らされている。


そんな空間を囲うようにざわめく木々の葉音が、ゆっくりと止む。


「ーー!!オォォオ!!」


唐突に呻くような絶叫が聞こえる。悶絶した人の声に近いそれが、足元から発せられーー急激に白い何かが地面を貫通。


「ーー!?ブレード!!」


反射に近い形で地面を蹴りつけ、後方へと退避。出てきた白い物体を確認すらせず、剣がソレを袈裟斬りに切り飛ばす。


間髪入れずに再度地面を蹴りつけ、今度は近場にある墓石の上へと踊るように跳躍し、それを追うように地面が無数に盛り上がる。


絶叫が幾重にも折り重なり…気付けば…白い物体が、無尽蔵に地面から這い出てくるような光景を眺めている自分に気付く。


骸兵団ボーンレギオン…ようこそ、我が根城へ」


そんな飄々とした声が聞こえ、俺はーーその声の方角へと跳躍。


ケラケラと笑うような無数の骸骨の骨の響きの只中、その中心部に、タキシードを着た金髪の男は…巨大な十字架を背にするように、俺を見やると笑う。


「さあーー姫をもらい受けに参りました」


優雅に腰を折り、ゆっくりと頭を下げる男目掛け、二対の剣が疾走。


周りを囲むような骸骨の群れを薙ぎ払い、切り飛ばし、貫通し、バラバラと砕け散った骨の破片の雨を降らせながら、男へと切りつけーー剣が左右に弾けとぶ。


「脆いぞ。この時間で…我を相手にするにはーー脆すぎるな」


男の目がーー紅に染まる。背中が異様に盛り上がり、骨と肉が弾けとぶようにして、漆黒の二対の羽が産まれる。


「……吸血鬼バンパイアしかもーー混血」


俺の真横を風が吹き抜ける。圧倒的な速度で触れる物を片っ端から粉砕する物体は、男の腕の一薙ぎにより、甲高い金属音を響かせながら弾き飛ばされる。


「…命…確かーー剣は白銀しろがね製だったよな?」


背中合わせの鼓動が聞こえ、いつの間に俺に接近したのか…命はぞろりと蠢く骨の軍勢を剣の群れで叩き伏せながら、俺の問いに答える。


「ええーー極限幻想アンリミテッドには特効レベルの筈…何だけれど、アレは混血だから無意味ね」


純銀牙シルバーファングが混じってるって事は…吸血鬼と狼…の混血か?」


左右に弾け飛んだ剣を、骸骨の群れに再度突撃させながら、事実の確認をしていく。


「非合法よ。アレは…多分最悪のレベル。銀に弱い筈の二種が銀に耐性あるなんてね…それより…零司」


何故か服の端を指で掴まれ、更に命へと密着する俺は、横目で命を見やる。


「……何で、私を救おうと足掻くのかしら。このバカ」


可愛いげの欠片も無い文句を聞きながら、俺と命は同時に跳躍する。


左右に綺麗に別れると、タキシードの男は、高笑いをしながらーー翼を動かす。


「さあ、今宵…我らの時間となる」


宙に浮かぶその姿はーー悪魔のようにしか見えなかった


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