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決戦の地へ2〜彼女と彼と〜

月光に照らされる静寂した木々の中を、視認すら出来ない速度で何かが動く。


動くたびに、木々に生えた枝に、存在を示すかのように彩る緑色の葉が揺れ動く。


葉が揺れ動いたと思った瞬間には、その動いた枝と葉よりも…もっと前にある枝と葉が揺れ動きーー風と共に踊る葉のように軽快なダンスが、前に前にと移動していく。


軽快なその移動を繰り返していた何かはーー急にある一点で動かなくなる。


月光に照らされるように、何かはーー巨木の幹を片手で押さえ、地面から遥かに高い位置の枝に足を乗せ、その姿を露にする。


月光に反射するかのように…漆黒のセーラー服が映り、緩やかな風に吹かれ、漆黒のスカートが微かに踊る。


長い黒の髪が風にそよぎ、背丈に不釣り合いな豊満な胸が、一度だけ大きく揺れーー白い絹のような指先で自身の額に触れると、闇を照らすかのような真っ赤な瞳が、一度きつく閉じられ、ゆっくりと目蓋を開くと、彼女は前方へと視線を向ける。


月光に照らされる彼女の顔は、出来の良い人形のような精巧な顔立ちをしており、この場面を写真に撮れば一枚の絵になるような…そんな幻想的な光景に、そぐわない仕草を彼女はしていた。


落胆するかのように肩を落とし、首を左右にゆっくりと振りながら、額に当てた指を眉間へと移動させーー


「あのバカ……考え無しに使ったのかしら?本当にーー世話が焼けるわ」


呆れたように目蓋を閉じ、盛大なため息を吐き出しながら、彼女はゆっくりと枝を蹴る。


視線をある一点に集中させ、葉を揺らしながら、彼女は突き進む。


彼女の視線の先には…薄緑色エメラルドグリーンの光の柱が、空へと真っ直ぐに伸びている光景があり、そこへと距離が近づく程に、彼女は速度を増していく。


光の柱がゆっくりと消える光景を目にする頃には、既に彼女は、柱が出来ていた位置へと飛び込むような跳躍を見せる。


石段の長い階段が見え、その中腹に位置するような…少しだけ広い空間の中心に、佇むようにして立っている人物がいた。


「零ーー…!!あの…バカ!!」


慌てたように彼女は叫びーーそれよりも先に中心にいた人物は、赤い液体を階段に向かい吐き出すと、体がふらつきながら後退し、膝から力が抜けたように石段へと倒れこむ。


その行為が災いしたのか、倒れこんだ人物はーー石段の端から膝と半身が落ちーーゆっくりと横に倒れこむように回転する。


「世話が…焼けるわ!!」


彼女の咆哮のように上げた一言と共に、彼女の落下点にある石段が急激に爆砕する。小さな爆発が起きたように、石段と地面が抉れ、宙に大小細かな破片が舞い上がりーー抉れた位置には、いつの間に出てきたのか…一振りの剣が切っ先を地面に突き立てていた。


その剣の柄を彼女は蹴りつけ、空中で素早く身を後転させるや、転がり始めた人物の頭部へと手を伸ばし、頭を抱え込むようにして

、自身の背中から石段に落下。


「ーーくッ!!は……零…司…」


落下した衝撃をうけ、息を止めたような口調で彼女は、転がる人物ーー零司と呼ぶ人物を石段の上で受け止め…しかし、落下の衝撃からか再度バウンドするように体が宙に浮きーー唐突に、彼女の背中から無数の剣が地面に向けて切っ先を伸ばす。


石段の地面をぶつかる度に抉り、爆発の衝撃を何度か繰り返すと、ようやく…彼女と零司と呼ばれた人物は、落下を終える。


「は…ぁ…このバカ……無闇にーーん!!れい…そこは…いきーーかか…ん!!」


彼女の体がビクリと動く。可愛らしい声を上げながら頬が赤みかかるのが見え、よくよく見れば、彼女の胸の谷間に顔を埋めるような形で、零司と呼ばれる人物は、穏やかな顔をしながらーー横に顔を動かし、彼女の胸の先で呼吸を繰り返している。


「零…司…ダメ……ん!?あ…つ…〜〜〜!」


顔が真っ赤に染まる彼女は、イヤイヤをする子供のように体を左右に動かし、胸に埋もれた零司はーー渋い顔をしながら、呼吸をする為か横に顔を動かし、何を思ったか唐突に唇を開くと…胸の先目掛け口を閉じる。


ビクリと二度ほど彼女の体が震え、白い肌を赤く染まながら、困ったように目元が垂れ…潤んだ瞳を零司へと向けると、一度だけ優しく髪を撫でる。


「ーーん…ん?……」


零司は、髪を撫でられた事に反応するように呻き、目蓋をピクリと震わせ、唇を何かを食べるように動かすと…吸い込むように息をし始める。


「あ!それ……は!?〜〜!ば……か……だ…め!!!」


彼女は体を震わせながら、甲高い声を上げる。顔を背けるようにして、キツく目蓋を閉じると、零司の腹を瞬間的に蹴りあげーー零司は、そのまま背中から巨木へと吹き飛ぶ。


彼女は肩で息をしながら自身の胸元を掴み、呼吸を整えるように深く息をつき…フラフラとした足取りのままで立ち上がると、巨木にぶつかる音が響き、そっちを睨むような目付きで見つめる。


「ーー!?な……んだ?くそ…頭が…」


零司は反応を示すかのように、独り言を言いながら巨木を支えに立ち上がるとーー彼女が、既に零司の懐に入り込むように上体を落としーー胸板目掛け、無言のままアッパーを叩き込む。


「ん?みこーーがぁ!?」


零司は何かを言いかけ、それを阻むように強烈な一撃が綺麗に決まり、零司の体が少しだけ宙に浮くと、ぐったりと糸が切れた動かない人形のように…彼女の拳と腕に垂れ下がる。


「バカ!バカ!!貴方ね!本当にバカ!信じられないわ!!」


激怒するように彼女は、腕に垂れ下がる零司へと罵声をひたすら浴びせかけ、しかしーー彼女の瞳からは、何故か涙が雫となり頬を伝う。


「バカよ…零司は……本当に、救いようの無い…バカ…よ」


嗚咽が混じるように、徐々に彼女の声は小さくなる。腕から力が抜けるように、緩やかに零司の体は地面に落ちていく。


彼女は目蓋を軽くセーラー服の裾で拭うと、頭上に視線をやり、その位置から見える赤い鳥居を見つめ…ゆっくりと石段を上っていく。


「こ……ら、何処に…いくつもりだ?」


その彼女の背に向けて、呻くような声が投げられ、彼女はその声へと振り向く。


「零司…そのままで良いわ。後は、私が殺るわ」


そう言った彼女は、無表情のままで零司を見やり、鳥居へと跳躍する。


「ーー!?ーー!!ーーーー!!」


零司は何かを叫んだようだが、彼女には届かない。彼女はーーたった一度の跳躍で、巨大な赤い鳥居の頂へと音も無く着地し、鋭い眼光で内部を見渡す。


砂利道と舗装された石畳の通路があり、水飲み場が見え、小さな賽銭箱の奥には、それほど大きくも無い社が構えている。簡素な神社のような作りを、一望するように眺め…彼女は更に奥へと視線を移動させる。


彼女が見やる方角には、明かりが灯っていた。


「本堂……ねぇ……最悪の布陣ね」


そう、苦笑するかのように呟き…髪を軽く払うと、月光に反射するように黒い波を空に残して、彼女は再度跳躍する。


この簡素な神社の更に奥へと、明かりが見えるのは…ここから更に上へと向かわなくては、ならないようだ。


彼女が地面を蹴りつけ、更に跳躍をすると、上へと抜ける山道を加速しながら突き進みーー彼女は、ただ一度だけこう呟いた。


「零司…貴方をーー」


呟いた声は、最後まで聞こえない。


聞こえたのはーー悲鳴のような絶叫。


その絶叫と共に、無数の骨が地面から這い出てきた


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