表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/26

夕焼けの空の中で〜招かれざる者〜

血のように、真っ赤な色が世界を包む。


俺は、命の長い話を聞き終えーー屋上を照らし出す夕焼けを座りながら、視界に収め。


まるで血塗られた空だな…などと考え、紫煙を静かに吐き出し、もう入りきらない空き缶に無理矢理押し潰す。


溢れて、山のようになった吸い殻を横目に、夕焼けの空になったことから…どれくらいこうしていたのか…などとくだらない事を思いながら、横に佇む命をみやり。


「彼女と契約を交わした事はわかった。だが…お前は何故ーー彼女を巻き込んだ?」


そんな問いに、彼女は俺を見やり、視線をそらすと…夕焼けを見つめながらコンクリートの壁に背中を預け、何気なくこう言った。


「私の話を聞いていたわよね?彼女は…生き残る事を選んだ」


「違うな、お前ならーー殺して終わる筈だ。選択など…余程の理由が無ければ与える訳がない」


軽くなった箱から煙草を取りだし、食わえ火をつける。


紫煙に揺られ、その先にいる彼女は笑みを浮かべながら、髪を片手で掬うように払うと、俺へと向き直りーー


「ええ、殺すわよ。彼女を殺してーー」


俺へと近づき、髪を片手で撫でる。彼女がーー命が何かをしようとする際の、癖のようなものだ。


「私と零司の命の糧になってもらうわ」


煙を吐き出し、成る程…命が、彼女に時間を与えた理由がーーそういう事かと理解し、同時に…俺にはそれは出来ない。


「零司は、出来ないしーー容認しないし、理解はしないでしょうね」


命が俺の髪を優しく撫でながら、そう言い…俺は静かに紫煙を吐き出す。


先端から灰が重力に引かれ、落ちーー緩やかな風にたなびき、夕焼けの空に舞う。


「……俺の為か?お前の為か?」


煙草を指で床に投げると、フィルター付近まで来た熱を指で感じながら、命へと視線を投げる。


「……さあ?零司には解らないわ。どちらの可能性もあるかもしれないし、零司の事なんか…考えてすら、いないかもしれない」


そっと頬に、冷たい指先が当たり…撫でるように動かしながら、彼女はーー俺の唇に指を這わせる。


「何時もの事よ。何ら変わらないーー私と貴方の在り方よ」


……何も、変わらない。俺も命も、この世界もーー


夕焼けに照らされたこの世界は、俺達にとってーー


「壊れた世界はーー何をしても、壊れたままよ。それを修復しようとするのは、貴方の意思。私の在り方は、貴方と私のーー」


血だまりに染まる空。壊れた世界ーー俺には、何も出来ない。


指が、白い人形のような冷たい指が、俺の頭を後ろから押さえる。


頭を押さえながら、命が俺の顔を覗きこみ…


「終わりの無い世界を、永遠にーー殺しあいましょう」


微笑む命。俺は、息を止め…命の顔をただ見つめる。


優しく微笑む命。優しい顔をしながら、その裏はーー常に泣いている。


俺には、それが解る。命と共にどれくらいの時間を…日時を…過ごしたか解らない程の俺には、命の事が解る。


「……それを望むなら、俺に出来る事はそれだけだ」


多分、俺はーー命と誓約を交わしたあの日からーー


いや、違うな。命と出逢ったあの日から…俺はーー


「おやおや。お二人共ーーどうもこんにちは」


唐突にーー声が聞こえた。


「いや、捜しましたよ。気配はあるのに…まるで行方がわからない…雲を掴むようなーーそんな捜索でしたから」


夕焼けを背に、金色の短い髪が俺の視界に映り。漆黒のタキシードに身を包む長身の男が…屋上のフェンスに音も無く、両足を乗せる。


まるで死人のように白い顔で…にこやかな笑みをこちらに向け。


どこぞの執事のように、優雅に片手を肩に添え、腰を折るように挨拶をする。


「……零司、あれはーー」


そう言いながら、命は執事の格好の男を険しい表情で見つめーーほんの一瞬腰を落とす。


「ーー姫は、お嫌いでしたか?」


にこやかな笑顔を向けながら、フェンスを蹴りつけーー既に、いつの間にか正面にいる命の…繰り出す拳を片手で薙ぐように払い。


瞬間ーー執事の男は、床に着地するまでのほんの僅かの間に、命の顔を目掛け、右の拳を振り抜く。


命はーー宙を舞い、振り抜いた拳と共に執事の男は床に着地…次いでーー


「ふ…遅いですね」

嘲笑うかのような小言を述べ、命の横を疾走し、目前に迫る俺をゆっくりと視認しながらーー


拳を執事の男目掛け、最速の一撃。威力など完全に無視。それを執事の男は、当然のように手の甲でいなす。


上体が一瞬横に反れ、開いた胴目掛け、男は正面蹴り《フロントキック》を放つ。


当然のように、胴に深々と入り込む、黒の革靴の底から衝撃が走る。


吹き飛ぶ俺はーーしかし、笑う。狙いはーー


俺の肩を蹴りつける衝撃。それに合わせ、既に俺の後ろから迫る命が宙に踊る。その蹴りの反動で床に俺の体は吸い込まれーー両手で床を、全力で叩くと…勢いを殺さず、前面へと無理矢理体を進ませる。


宙を舞う命は、ぐるりと全身を駒のように回し、執事の男の頭部目掛けーー風を切るような回転踵落としーー正面に迫る俺は、勢いを殺さず、前進。


「…攻撃と防御…陽動にーー追従ーーですか。何とも…素晴らしい連携攻撃コンビネーションですが……」


迫る猛攻に対し、男は優雅に両手を胸の位置へと移動。クロスを描きーー


刹那ーー執事の男の綺麗な白の指先から、異常な爪が生える。


長さはレイピアの穂先ほどーー軽く30センチ以上の、鋭利な刃のそれがーー


命の足目掛け、振り払われーー


「な!零司!?」


「ーー黙ってろ…お前になど、触れさせる訳がない」


自分の腕と、命の蹴りを弾くようにしてぶつけさせ…命はぐるりと宙を旋回。


俺の腕は当然のように…易々と切り裂かれ、床に血の雨を降らせながら落下。


「身を挺して盾になりますか…成る程…しかしーー脆弱だな。人の子よ」


歯を剥き出し笑うと、愉快そうに一歩を踏み出し…鋭い刃のような爪が俺へと踊る。


視認出来る限界の速度で、銀の閃光が光ーー上体のみを後ろに後退しながら、床を蹴りつけ、次いでくる下からの切り上げが、太股を浅く薙ぐ。


僅かの攻防戦を経て…時間的に、5分にも満たぬような僅かな間で、打開策すら見出だせずーー俺の体は、既にボロボロになる。


目前に迫る爪を避け、刹那の間隔で来る回し蹴りを無事な腕で防ぎーーしかし、上段から繰り出される…鋭い爪の突きが腕の肉を貫通。


笑うように獰猛な笑みが視界を埋めーー強烈な頭突きを受け、体が後ろに仰け反りーー


「終わりだよ。人の子よ」


両手の爪が…下から交差するように振り抜かれーー


「あら?私は混ぜてくれないの?」


そんな陽気な声を弾ませーー彼女はーー


迫り来る爪を易々と弾き返す。たたらを踏み、男は後退。


「遅いぞ命…さっさとーー」


「準備運動はーーいいわよね?」


今度は、こちらが獰猛な笑みを浮かべる番だ。


彼女はーー床に落ちた俺の腕を肩に担ぐとーー


その腕がーー巨大な鉈へと姿をかえーー


「さて、お前には悪いがーー死んでもらうぞ」


片手で胸ポケットをまさぐりーー器用に箱をとりだすとーー蓋を開き、煙草を口へと飛ばす。


命は、肩に担ぐ子供のような長さの鉈を…前面に向け、手をこいこい…とするように動かしーー俺は、煙草に火をつける。


「さあ、本番といこう」


俺と命は、床を蹴りつけーー走り出した


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ