第9話 暴風域はいります
土曜日の夕方。
二日酔いの弟が帰ってきて、部屋のドアを開けるとベッドの上に妹が寝転がっていた。念のため言っておくが転がりこんでいる姉の部屋ではなく弟の部屋だ。
「なんでお前はそこにいるんだ」
「うーん…そこにベッドがあったから?」
さすがあのお姉様の妹。将来が危ぶまれる。
「そんなことないよ、天ちゃん。あたしはあんなに堕落してないもん」
堕落とか言いましたよ。どうですか弟クン。
「仮にも、一応姉貴なんだからそんなこと言うなよ」
「…シスコン?」
おっと!!妹の思わぬ攻撃に弟、ムスッとした!!これはちょっと怒ってるぞ!!
「シスコンじゃねぇよ!!怒ってねぇよ!!あと、天の声!!実況かお前は!!面白がってる時だけ実況になってるぞ!!」
気のせいである。
「この連載始まってから気のせいって何回言ってんだ!!」
この前3回ほど言ってその前は…。
「数えろって言ってねぇ!!」
「大変だね。多方面にツッコミ入れなきゃいけなくて」
「…鈴、誰のせいだと思ってんだ…」
「あたし」
分かってやっているということが判明したのである。
「あとお姉ちゃん」
よく分かってるな妹。
「…その中に天の声も含めておけ」
「天ちゃんはツッコミとボケを両立してるからダメ」
「なんで!?両立するのはいけないのか!?」
「お兄ちゃんがいないところでは天ちゃんがツッコミだから」
「…本当に、似てきたな…」
誰にとは言わないところがポイントである。
「ただいまー」
噂のお姉様が帰宅しましたよ弟クン。お出迎えしてこいよ。
「なんで命令!?」
「しゅーちゃん、ただいま」
姉がドアを開けて、ベッドの上の妹を見た。
「そうだった。鈴もいたんだっけ」
「忘れてたな」
「酷いよお姉ちゃん!!お姉ちゃんに会うためにわざわざ新幹線に乗ってきたのに!!」
「さっきと態度違うだろ!!」
さすが妹。
「何がさすがだ!!鈴まで姉貴化したら家が壊れるだろうが!!」
いっそのこと姉化してしまえ。
「天ちゃん、お姉ちゃん化はしないよ。だって…お姉ちゃんの上を行くから」
お姉様越え宣言が出ました。
「鈴、私を越したら人生苦労するわよ」
「大丈夫。堕落せずに人を操って見せるから」
凄い発言が出たな…。
「怖っ!!」
「行きつく先はどの辺の予定なの!?」
「…お姉ちゃんを越すから、お母さん!!」
「やめろ鈴!!あんなんになったら家が壊れるとかのレベルじゃなくて、人間じゃなくなるから!!」
それは凄いな。ところでそんな凄い母はまだ出てきてないが、どんな人なのか教えてくれないか三兄弟。
「お母さんはゴーイングマイウェイ」
その辺は確実に姉が継いでるな。
「うーん…唯我独尊?」
…まぁ姉の上をいくならば…。
「魔王」
はい?なんて言った弟。
「あれは魔王だ!!人間じゃねぇ!!」
自分の母親だろうよ。
とりあえず、色々凄い人なんだということは分かったのであった。
「しゅーちゃん、夕飯」
弟=夕飯か?
「はいはい。で、リクエストは?」
そういうところは従順な弟である。
「そういうところはって何!?いつもはなんなんだ!!」
…ツッコミ?
「他に言うことないのか天の声!!」
「夕飯はいつもお兄ちゃんが作ってるの?」
妹の素直な質問だ。
「そう」
「お姉ちゃんは?」
「姉貴に作らせちゃいけない!!キッチンが戦場になる!!」
「ちょっと…そこまで酷くないって」
「あれの後片付け誰がやってると思ってるんだ!!」
珍しく弟が攻撃に転じている。
「…今日はポトフがいい」
姉が話をそらしたぞ。
「和食のリクエストしか受け付けません」
厳しいな弟よ。
「いつお前の弟になった!!」
昔から。
「ああ言えばこう言いやがって…」
「お兄ちゃん」
「…なんだ鈴」
「衣がカリカリな海老の天ぷらが食べたい」
「分かった。今から買い物行くけどついてくるか?」
「うん。お手伝いするね」
「鈴はいい子だな」
妹がはにかんだ。
弟が先に出て行ったのを確認してから妹が姉の方を振り返った。
「料理もできないの?」
「少しは出来るって」
「でもお兄ちゃん任せなんでしょ?」
「う…」
妹が冷たく笑って一言。
「駄目人間」
弟を追いかけて出て行った。
姉は突っ伏したまま動かない。多分弟は今日も姉の愚痴に付き合わされることだろう。二日連続徹夜が決定した。
妹が着実に最強キャラと化していきます。ツッコミを発展させて切り捨てにしたらこんなことに。
とりあえず妹がいると姉があんまりボケないんですよね。次はその辺をどうにか。