第5話 危険な買い物へ行こう
「今日暇?」
出し抜けに姉が聞いている。
「暇…と言えば暇」
きっと弟は姉が何か頼むと忙しいと言うのだ。絶対に。
「うるせぇ!!なんでそこで毎回一言言うんだ!!」
ナレーションはナレーションでも一つのキャラとして成り立っているので。
「天の声なら天の声らしくしてろ!!」
それだと面白さが半減するのだよ弟くん。
「……!!」
まだ文句を言いたそうだが、ここは流さないと話が進まない。
で、姉、続きは?
「会社も休みだから買物行こうよ、しゅーちゃん」
「しゅーちゃんじゃない!!」
いい加減そこは受け流すべきではないか弟よ。
「いつ俺が天の声の弟になった!?」
何を言う。ある意味私も家族の一員である。
「見えない家族なんかいるか!!」
本当に話を進めてくれないとナレーションとして困るのである。
「ね?買物行こう?しゅーちゃんと一緒に行くことほとんどなくなっちゃったからさぁ」
そうそう。弟は軽い反抗期。
「反抗期じゃねぇよ!!そろそろ自分で進行止めてることに気づけ天の声!!」
いちいちツッコミを入れるから進行が止まるということに気づけ。
「はいはい。そこらへんで止めてくれないとこの買物の回、次まで引っ張ることになるよ」
「買物なんて行かねぇよ」
「あらそう?」
姉が目を細めた。
「ここの家賃と生活費…」
「はい!すいません!!行きますよ!!行きますから!!」
弟の立場はとことん弱い。
「分かったならお姉様とお呼び」
弟が物凄く何か言いたそうだが、姉がどうかした?と聞くと口を開い重々しく言った。
「…わかりました、お姉様…」
さすがの私も弟が可哀想に思えてきた。
そして現在、半ば引きずるようにして姉が弟とともにデパートにいた。ちなみに弟は姉に髪をいじられ、いつもと違う雰囲気の服を着(させられ)ている。…姉の権力万歳…。
「一度やってみたかったんだよね。弟を彼氏と偽るの」
「なんでだよ!!」
そもそも似てるから偽れないってことを誰か教えてあげて。
「あのお店可愛い!!見てこうよしゅーちゃん!!」
「俊介だ!!」
こんな風に姉の勝手気ままな買物に付き合ってる間、弟はこう唱え続けた。
「知り合いに会いませんように…。知り合いに会いませんように…。知り合いに会いませんように…」
そんなことを言っている時に限って偶然知り合いに会ってしまうものである。
「あれ?お前…」
弟は思わず頭を抱えた。よりによって目の前にいるのは…。
「塚田…」
弟と同じ大学で同じ学部の七三眼鏡、塚田だった。
「やっぱりお前か!!最初気付かなかったよ!!どうした!?イメチェンか!?」
イメチェンだけならよかったのに…と弟は思ったに違いない。
「勝手に人の思考を読むな!!」
「何が?一体何に言ってるんだよお前は」
ツッコミがくる前に言っておくが、私の声は脇役には聞こえない。
「マジで…」
「お前、俺の質問に答える気ないだろ」
塚田が不満げに言ったところにタイミング悪く姉が現れてしまった。
「しゅーちゃん、これい…。……誰?」
「…姉貴…」
「お姉さん!?」
塚田が一歩前に出て敬礼。…敬礼って塚田は一体何者?
「はじめましてお姉さん!!お…私は俊介君と同じ学部の塚田です!!前に駅で一目見た時からお知り合いになりたいと」
「塚地君…だっけ?弟がいつもお世話になってます」
見事だ姉。暴走しかけた塚田を途中で遮って、なおかつ名前を間違えるとは!!実はわざとですか!?
「お姉さん、塚田です。今後とも長い付き合い…」
「塚田、誰か待ってるんだろ?俺たちに遠慮せずに早く行けよ」
弟が塚田の口をふさいで黒く笑った。黒く。そしてそのまま塚田を引っ張って行く。面白そうだから追いかけよう。
「塚田、俺が何を言いたいか分かるか?」
「なんだよ…しゅーちゃん♪」
「忘れろ!!それは幻聴だ!!」
必死だな弟。
「忘れてもいいけど…お姉さんのメアド…」
「それは無理だ!!殺される!!姉貴関係じゃないのならなんでも聞くから言いふらすな!!」
あ〜あ…。
「言ったな?なら、女装美人コンテストの用紙にサインを!!」
ズボンのポケットから紙を取り出す。なんて用意周到なんだ…。
「…これはなんだよ」
「コンテスト参加者の応募用紙。実は推薦だけだと駄目だったんだよねぇ」
塚田が笑った。脇役なのになんて黒いんだ。
「サイン、くれるよね。しゅーちゃん♪」
「………」
結局その場で弟はサインさせられたのだった。自分で女装美人コンテスト出場を決めてしまったのである。
次回に続く。
「結局!?」
続くのである。
出すつもりではなかった塚田を出したために長くなり過ぎた…。姉の言うとおりになってしまったよ…。