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第49話 本日は趣向変え

 ほとんど街灯のない暗い道を女性が一人歩いていた。

 彼女とて本当ならばこんな道は通りたくないが、この道が駅から自宅のあるマンションまでの一番の近道だった。もっと人通りの多い道を歩くと10分近く違ってしまうのだから仕方ない。

 いつもはもう少し早い時間に帰るのだが、今日は終業直前に面倒な仕事が回ってきて、こんな時間になってしまった。周りの家はちらほら明かりが消えているところもある。

 出来るだけ足早に自宅を目指して歩き続ける。

 ひたひたひた。

 足音が聞こえた。彼女が足をさらに早める。

 ひたひたひた。

 その音はピッタリと彼女についてきた。

 怖くなって彼女は振り返る。

 しかし後ろには何もいない。途中で曲がったのかもしれないと思い、彼女は後ろを見たまま歩きだした。すると…

 ひたひたひた。

 人はいないのに足音だけがついてくる。

 鞄をしっかりと抱えて彼女は逃げる。

 しかし、足音はなおも聞こえる。しかも彼女の真後ろから。

 早歩きだったのがいつの間にか全速力で走り出していた。

 それでも足音が止むことはない。

 彼女が鞄を抱え直そうとした時、何かに足を捕まれた。勢いで彼女は倒れ込む。

 立ち上がろうとして自分の足を見た時、彼女はストッキングにしっかりと赤い手形がついているのを見てしまった。さきほどまで聞こえていた足音も消えている。

 ポンと肩を叩かれて彼女が振り向いた―――。


「ただいまー」

「きゃあぁぁ!!」

 帰ってきて早々弟は犬を抱いてカーテンに包まっている姉を見つけた。

「何やってんの…?」

「ちょっ!!驚かさないでよ!!」

 弟とわかって姉が恥ずかしそうにカーテンから出てきた。

「別にいつも通りに入ってきただけだろ」

「タイミングが悪すぎ!!」

「意図的にやったわけじゃないし」

「じゃ、じゃあ帰ってくる直前にメールぐらいしてくれれば…」

「なんでだよ」

 いつもやらないのにと文句を言って弟がテレビの前のソファに座る。テレビをつけようとしたら姉が止めにかかった。

「だめ!!このテレビは呪われてるのよ!!」

「はあ?」

「だからつけちゃだめ!今日の7時まではだめ!」

 リモコンは姉の手の中、本体の前には姉が立ちはだかっていてとても弟にはつけられない。

「………」

 弟が何か思いついたようにニヤリと笑った。

「…さて姉貴、ここでクイズです」

「何?」

「俺が手も足も使わずにそのテレビをつけるにはどうしたらいいでしょう」

「そんなことできるの?」

 不思議がる姉を勝ち誇ったように弟が見ている。犬はなんだか楽しいことが起きそうだとしっぽを振っている。

「じゃあ実験してみようか」

「え…。今…?」

 当たり前だろと言いたげな表情を姉に向けた。

「つけろ、天の声」

 はいはい。

 パッとテレビがついた。姉がさっきまで見ていた番組が映る。

「あーあーあーあー!!」

 自分の耳を塞いでテレビの音が入らないように声を出す。

 そんな姉をどかして弟がテレビを見た。

「なんだ。怖い話特集か。姉貴が止めるからもっと別のものかと思った」

「だって怖いじゃない!!というか天の声使うなんて卑怯!」

「どこが怖いんだよ、こんなの」

「ちょっと後半無視しないでよ!!」

 弟がテレビを消して、姉の腕から犬を奪った。悠々とソファに座って犬を撫で回す。

「そんなに平然としてないでよ!」

「じゃあどこが怖いのか上げてみろよ」

「…後ろから足音だけ聞こえるとか」

「常日頃、それ以上の超常現象にあってんのにそれぐらいでうろたえないし」

「え!?しゅーちゃん実は幽霊とか見えちゃう…」

「姉貴もあってるだろうが」

「私も!?」

 頷いて弟がおもむろに手をパタパタ振りはじめた。何をしているのだろうか。

「ほらこれこれ」

「どれ?」

「身体ないのに声だけ聞こえる。身体ないのにテレビつけたり、鍵開けたりできる不思議生物」

「あー、天の声?」

 というか不思議生物って……。

「現実にいる分、へたな怪談より上いってるだろ」

「なるほどー」

 納得しないで欲しい。

「じゃあ怪談も全部天の声の仕業だと思えば…」

「うん。無理だろ」

 身体がないので、手形は残せないのである。

「せっかく人が忘れようとしてたのにー!!」

 さてさて、物語は7月終わりなので怪談にしてみました。これのネタは随分前からあったんですけどね。

 タイトルが『趣向変え』なのは最初の怪談の女性がお姉様だと誰か誤解してくれるんじゃないかと狙ったからです。『怪談』と入れたらバレバレなので。誰か引っ掛かってくれました?

 次回はいよいよ『談笑会』です。質問送って頂いた方々、ホントお待たせしました。

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