第47話 もちろん竹より団子が優先ですよ
「あかりをつけましょぼんぼりに〜♪」
「それ違う」
「えー。じゃあ何?」
「………なんだっけ?」
ツッコミをいれた弟も忘れていた。
今日7月7日は七夕。お空のどっかで遠距離恋愛カップルが一年に一度会うと言われているような気がする日。
「ロマンのかけらもない言い方するなよ…」
だったら弟がもっとロマンチックに解説すればいいのである。
「仕事放棄するなー」
「で、七夕って何食べる日?」
姉が無理矢理話題を変えた。
ちなみに只今リビングでごろごろしながら夕飯のメニューなどを考えていた。テレビの七夕特集で今日が七夕だとやっと気づいたのだが。
「そうめん」
「そっかぁ。七夕はそうめんを食べる日………ってそんなわけないでしょ!」
姉はノリツッコミを会得した。
「いいだろ。うまいよそうめん。何より夏の手抜き料理代表」
絶対に後半の理由でそうめんを勧めている気がしてならない。
「よしっ!じゃあ行ってくるね!」
姉が突然立ち上がった。その勢いでソファの座面が跳ね上がり、ぼーっとしていた弟が横向きに倒れ込む。そんなことは気にもせず、姉はそろそろ炎天下という言葉が似合ってきた外へ出て行った。
ソファに転がったままの弟がつぶやく。
「どこに?」
「ただいまー」
弟がテキパキとそうめんの用意をしていたところに姉が帰ってきた。ただのそうめんだと色々文句を言われそうなので具を乗せた、冷し中華風そうめんである。具は普通の冷し中華を作った時の残りなので、今風に言えばエコ、昔風に言えばもったいない精神の塊で作ってある。
「おかえ………」
弟がキッチンから顔を出したままの格好で固まった。
そんな弟には気づかずに姉がガサガサと入ったきた。そうガサガサと。
「……………」
「すごいでしょ、これ」
「……………」
「しゅ、しゅーちゃん?」
「……………」
「もしもーし。聞こえてますかー?」
「しゅーちゃんじゃねぇよ…」
ツッコミのキレがすっかりなくなっている。それもそのはず、帰ってきた姉は手に、というか肩にかけて持っていたのだから………竹を。
「ご感想は?」
「…パンダにでもなる気か」
姉が笑った。竹を持ったままだったので竹も一緒にガサガサ鳴る。
「パンダは熊笹だよ。それに別に竹を食べる気はないからね」
笹であっても普通の日本人は食べない。
「ほら、七夕なんでしょ?だったら雰囲気だけでもと思って笹…じゃなかった、竹を貰ってきたの」
「誰に?」
「そこらへんの気のいいおじさん」
「よく都合よくそんな人いたなぁ」
「この世は情報戦よ!」
竹の?
「まあそんなことはいいから早速飾り付けよう」
「……そうめん伸びるけど」
竹をさっとリビングの片隅に置いて、ダイニングテーブルに座る。
「ご飯優先で」
「だろうと思った」
冷し中華風そうめんを食べ終わってようやく姉弟は竹の前にやってきた。竹と言ってもマンションの部屋に入る程度の小さめの枝である。
「さてと飾り付けと言えば…」
姉がちょっと高いお菓子を買うとよく貰うような直方体の箱を持ってきた。中には折り紙と短冊になりそうな色画用紙が入っている。
「よくそんなの持ってたな」
「うん。ちょっと仕事で使った残り」
「…仕事で?」
「細かいことは気にしなーい」
パタパタと折り紙を折り始める姉。それを固唾をのんで見守る弟。やがて姉の手から鶴が作り出された。
「鶴なんか作れたんだな」
「鶴ぐらい折れるに決まってるよ。幼稚園の時に習ったもん」
「…鶴、飾りにしなくないか?」
「………」
まあまあ。どうせ誰も見ないんだから。
「…どうして姉弟でこんなことしてるんだろ」
「やりたかったんだからいいじゃない」
「姉貴、彦星見つけて、二人でやれよ」
「だったらしゅーちゃんも織り姫探してきなさいよ」
「…あと二年は無理」
姉の方を見ながら弟が言った。
姉は弟の視線など無視して竹をみている。
「じゃあ、あとはしゅーちゃんが飾り作って、私が何枚か短冊書けば完成かな」
「俺に短冊一枚も書かせない気か」
「かたいこと言わないの」
「かたいことじゃないから」
文句を言いつつ弟は飾りを適当に作り始める。その横で姉は短冊を書き始めた。
『しゅーちゃんにかわいい彼女ができますように』
そこまで書いて満足げに笑ってさらに続ける。
『って書こうと思ったけど、夕飯がそうめんだったから来年はもっと豪勢なものが食べられますように』
「ちょっと待て!!何書いてるんだ、何を!!」
今日も賑やかに夜はふけていく。
今日気がついて今日書きました。間に合ったのは奇跡!!