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第46話 暑い日ってやる気なくなるよね

「あーつーいー」

 5月、普通なら風が僅かな熱を持って、薄着でも過ごしやすいという季節である。あくまでも普通の場合であって、『僅かな熱』ではなく『かなりの熱』を持った今日という日は普通の5月とは言えない。今日の気候は例えるなら梅雨も去り、気温が一気に高くなった7月だろう。

「あー…つー…」

 弟は完全にだれていた。今日は特に授業もないため、一日中家にいる予定である。しかし、やることがないと人間はダラダラしてしまうものだ。ダラダラしていると、この5月らしからぬ気温が気になってくる。

「あーつー…いー」

 ソファからゴロッと落ちて床にベタッと張り付いた。木製の床の方が布製のソファよりも冷たいので弟は張り付いたまま動かない。

「冷………」

「わんっ」

 床に落ちている弟の背中に犬がのしかかる。ソファよりもむしろ暑くなった。

「わんっわんっ」

「…暑い」

 そんなに暑がるならクーラーを使えばいいだろう。

「電気代がもったいない」

 …主夫。

「主夫じゃない。それに今からクーラーなんか入れてたらどうやって夏を過ごすんだ」

「わんっ」

「ほら、犬も同意してるぞ」

 犬はただ弟にかまってほしいだけである。

 犬を撫でてやりながら弟は尚も床でごろごろしている。

「あー…もう昼だ…」

 弟がちらっと時計をみた。針は12時10分前を指している。

「ひるー…ひーるー……昼寝」

 そう言って犬からも手を離し、完全に目を閉じる。犬は不思議そうに弟を見つめた後、弟の横に並んで、仰向けで転がった。そして一人と一匹は深い眠りに落ちていった。



「ただい…」

 姉が帰ってきた。リビングの床で野に倒れたように寝ている弟と犬を見て驚きの表情を浮かべる。

「犬じゃない…」

 仰向けで熟睡する犬はあまりにも無防備すぎて、犬らしさにかけていた。

「犬としゅーちゃんが一緒に寝てるところなんて、そうそう見られないよね…。写真写真」

 いそいそと鞄から携帯電話を取りだして、カメラを弟に向けた。

「…撮ってんじゃねぇよ」

 むくりと弟が起き上がる。不機嫌な顔をして頭を掻いている。

「起きてたの?」

「今起きた」

 姉は惜しいことをした。さっさと撮ればよかったのに。

「天の声…」

 低い声で弟が静かな抗議をする。

「だってしゅーちゃん、この犬の眠り方は写真撮るしかないでしょ!?」

 姉がケータイを持った方の手で指差す。犬は相変わらず仰向けのままのんきに寝ていた。もし人間だったらいびきまで聞こえてきそうである。

「…珍しい眠り方だけど、俺まで撮ろうとするな」

「しゅーちゃんが床で寝てるなんて珍しいじゃない!」

「…しゅーちゃんて誰だよ…」

 色々言いたいことを胸にしまって、静かにつっこんだ。

「しゅーちゃんはしゅーちゃん以外の何者でもないでしょ」

 姉がやっと携帯電話をしまって、当然と言わんばかりに答えた。

「いや、俺俊介だから」

「いいじゃない、しゅーちゃんで」

 姉と弟の不毛な闘いが続く。

 二人の声でやっと犬が起き上がって、自分の小屋に帰っていった。小屋でまた眠るのだろう。

 夫婦喧嘩は犬も食わないと言うが、不毛な姉弟喧嘩も食わないようだ。

「ちょっと待て。まだ終わってないんだから、まとめようとするな」

 弟から抗議の声が上がった。

 そんなことを言われても、今のところでしめるのがちょうどいいと思ったのである。

「お前はなんでこの世界の全権を掌握してるんだよ」

「全権を、しょ、しょうあく?」

「姉貴、大丈夫か?日本語だぞ」

 なんでも何もナレーションの特権である。

「ずるい。私にもその特権分けてよ」

「…もう持ってるから」

 どんなに弟が頑張っても姉には勝てないのである。

次回に続きます(たぶん)

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