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第45話 塚田孝司物語

塚田孝司、九州は熊本の生まれ。九州男児という言葉が最も似合わない男。モテないという理由で訛りは決して出さない。

 弟の姉、斎藤紗弥加に毎度毎度名前を間違えられる。弟こと斎藤俊介も時々わざと間違える。

 軽いノリのキャラクターなのに、何故登場当時七三眼鏡だったのか謎。

 その他、無駄とも言える設定が主人公たちよりも多い。


 これは「お姉様と弟クン」の脇役、塚田孝司の生き様を描いた物語である。…………多分。




「さ・い・と・う」

 弟の苗字を一音ずつ区切って言いながら、塚田が肩に手を置いた。

「なんだよ」

「なあ、今日暇?暇だよな?暇だろ?」

 畳み掛けるように塚田が言った。ほぼ暇だと断定している。

「なんか用か?」

 講義のノートとにらめっこしながら塚田の方は見ずに聞く。

「今日の講義終わった後なんだけど…」

「無理」

「まだなにも言って…」

「無理なもんは無理」

 肩に置いてある手を払い落とした。

「せめて用件ぐらいは聞いてくれ…」

「じゃあ言えよ」

 なんでこんなに上から目線なのかと思いつつ、塚田が口を開いた。

「今日、合コンなんだけど、一人足りないから来ないか…?」

「無理。今日は姉貴が早く帰ってくるらしいから、余計なことされる前に帰りたい」

「…うん。もう答えは分かってた…」

 哀れ塚田。いつものように塚田は弟にフラれた。

 力なく席に着いて、寝そべる。授業を聞く気はなかった。寝そべっているうちに頭がぼーっとしてきて、自然にまぶたが下がる。

「…だ」

「………」

「…かだ、塚田」

「…ん?」

 重いまぶたを持ち上げる。目の前に弟がいた。塚田の前の席に座っているのだから不自然なことではない。ただ、弟が満面の笑みなのには不自然さを感じた。

「ど、どうしたんだ!?」

「なにが?」

 口調はいつも通りだが、まだ笑みを浮かべている。

「お前、ホントに斎藤!?偽者じゃないのか!?」

「偽者ってなんだよ」

 不満げな口調でも、笑みを浮かべている弟はかなり上機嫌にすら見える。こんなに上機嫌の弟は見たことがない。

「……じゃあ、なんで笑顔なんだ?」

「別に笑ってないだろ」

 これほど説得力のない言葉があるだろうか。

「自覚ないなら、まあ…いいか。で、なんか用?」

 弟が笑みを深めた。

「お前よく寝てたな」

「そうか?」

 塚田からすればほとんど寝た気はしていなかった。眠りに落ちてまもなく弟に起こされた。

「そうか?」

 首を傾げて塚田がもう一度聞く。

「寝てた寝てた。俺が何回塚田って言ったことか」

「3回」

「クイズじゃないから数えてねぇよ」

 弟が笑った。あの弟が笑ったのだ。

「お前、今何時か知ってる?」

「2時ぐらい…」

 そう言いながら携帯電話で時間を見る。15という数字が目に飛び込んできた。

「3時半…?」

「正解」

「…これから授業じゃ…」

「これから4限だからもう今日の授業は終わったんじゃないのか?」

 弟がニッコリと笑う。塚田にもようやく弟がどうしてこんなに上機嫌なのかが理解できてきただろう。

「えー………3限は?」

「もう終わった」

「…よく寝てたって……」

 弟がさっきまでやっていた英語の教科書を振る。

「授業始まったから何回も呼んだのに起きないんだもんな、塚田くんは」

「………英語だったっけ?」

「そうですよ。塚田くんの大好きな英語です。あぁ、そうそうこれ」

 弟が塚田に一枚のメモ用紙を差し出した。

「P12からP45…何これ」

「先生が見かねて出した、塚田への課題。ちなみに来週まで」

「…これはページ数?」

「Yes,it is.教科書の12から45ページまで全文訳だってさ。がんばれ塚田」

 塚田の手からメモ用紙がひらひらと落ちていく。弟が意地悪く笑った。

「先生から伝言で『これだけやれば英語もできるようになるでしょう、さすがに』って」

 椅子にピッタリと背中をつけて上を向く。

「…夢、これはきっと夢なんだ。だから起きなきゃいけない」

 残念ながら夢ではないので、今日の合コンもキャンセルして塚田は英和辞典と戦うのであった。

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