第42話 多分中型、現在小型
「しゅーちゃん、ただいまー」
「しゅーちゃんじゃな……」
姉の帰宅にキッチンからフライパンを持ったまま弟が出てきた。そして視線を姉に向け、そのままの格好で固まる。
「しゅーちゃん…」
「ダメ。ぜっっったいダメ!」
「まだなんにも言ってない…」
弟の言葉に姉がしゅんとする。ついでに姉が抱き抱えているものも。
「姉貴には無理」
「だってこんなにかわいいのに…」
姉の腕の中には一匹の犬がいた。茶色のトイプードルだ。大きさからして生まれてまだ一ヶ月というところか。それを姉が撫でる。
「かわいいでしょ?」
犬を目の前に持ってこられて弟が唸る。犬は目をうるうるとされて弟を見つめる。
「う………」
弟の唸り声が大きくなった。
時を見計らって姉が畳み掛ける。
「かわいいでしょ?」
「…だからって飼っていいことにはなりません」
「私がちゃんと世話するから」
「それが一番信用できない」
姉が犬をゆっくり床に下ろした。犬は喜んでリビングを駆け回り、弟の足にじゃれつく。
「こら!フライパン落とすだろ!」
弟に怒られて犬の耳が下がる。というか、弟がフライパンを置いてくればいいだけの話である。
「そうよー。私が世話出来なくなったらしゅーちゃんが見ればいいじゃない」
フライパンを置いてから弟が据わった目で姉を見た。
「世話できないと思ってるなら元あったところに捨ててこい」
正論である。
「捨てに行かないよ。だってこの子捨て犬じゃないもん」
姉の足にじゃれついていた犬をまた抱き抱える。かまって貰えると思って犬は大喜びで尻尾を振っている。
「買った…?」
「買ってないよ。ペットにお金はかけない主義です」
じゃあどうやって…。
「強奪?」
「お姉ちゃんに向かってなんてこと言うの!友達に貰ったの!」
貰い物、貰い犬か。捨て犬だと雑種が多いが、貰ったのならば種類も明白だ。
「飼えるか考えてから貰ってこないか?」
「飼えるでしょ。このマンション大型犬より小さいのは可なんだから」
「姉貴が世話できるかって話だよ」
「なんのためにしゅーちゃんがいるの」
弟が腕組みして堂々と答える。
「少なくとも姉貴が放棄したペットの世話のためにはいない。ついでに家事をするためにいるわけでもない」
主夫なのに。
「主夫じゃねぇよ。大学生だ」
「人生のモラトリアムならペットの世話ぐらいできるでしょ?」
姉が笑顔で犬を突き出す。犬は嬉しそうに弟を見て尻尾をパタパタ振る。弟が眉間にシワを寄せた。
「返してこい」
「えー。じゃあ一日だけ!一日世話して飼うか考えようよ!」
「いやだ」
そこまで頑なに拒否するということは、もしかして弟は犬がダメなのか…?
「え!?知らなかった!そうなの?」
「違うから。姉貴が世話出来なくなった犬の将来を考えて言ってんだ」
そうか…。ダメだったのか…。それは面白い…悪いことを聞いた。
「そうなの…。じゃあしょうがないわね」
「なんか違うけど、飼わないことにしたならいいか」
姉が悲しそうな表情をする。
「しゅーちゃんが犬大丈夫になるようにぜひ飼わないと」
「そうしろそうし…。今なんて言った?」
途中まで頷いていた弟だったが、予想していた台詞と違ったために聞き返す。
「ぜひ飼わなきゃって言った」
「は…?」
「耳悪くなったの?」
弟よ、受け入れ難いことでも時には受け入れなければならないのだ。
「この犬飼うのか…?」
「さっきからそう言ってるでしょ。よし、名前なにがいいかなぁ。雄だからカッコイイのがいいよね。フロイトとか」
なんで精神論者…?
「しゅーちゃん、どんなのにしたい?」
「……………ピタゴラス」
なんでまた数学者の名前にするのか。
ということで犬の名前を募集します!!
雄ですから、それらしい名前を送ってください。姉弟のように学者の名前を使う必要はありません。
締め切りは48話更新日までということで。決まったら談笑会ででも発表しましょう。