第4話 美の定義って何!?
いつものように姉が「お腹すいたー」と言いながら帰ってきた。すぐに夕飯がでてくる。姉が帰ってくる時間を考えて夕飯を作ってくれているところは出来た弟である。
「………」
あれ?いつもならすぐにツッコミを入れるのに今日はどうしたんだ弟よ。
「…お前の弟じゃねぇよ…」
覇気がない!!
「しゅーちゃんどうしたの!?悩みがあるならお姉ちゃんに話してごらん」
「俊介な…」
姉に悩みを話しても解決しなさそうだ。なぜなら原因は姉である。
「なんで知ってるんだ!!」
ナレーションなので。
「原因私ってどういうこと!?」
「知らなくていいよ姉貴は!!」
ではその時のことを振り返ってみよう。
「お前が仕切るな!!」
弟が大学の学食でいつものように唐揚げ定食を食べていた時のこと。
「ここいいか?」
「ん?あぁ」
同じ学部の塚田がきつねうどんをトレーに乗せて立っていた。眼鏡に髪はキッパリ七三分け、将来(今?)オタクになる確立大だ。弟とはまぁそれなりに仲がいい。
弟の向かいに座ると、うどんをすすりながら話しかけてきた。
「なぁ」
「食うかしゃべるかどっちかにしろ」
塚田は大人しく箸を置いてからまた口を開いた。
「お前姉ちゃんいるよな?」
「姉貴?いるけどそれがどうした?」
「駅前でお前の姉ちゃんちゃん見かけてよぉ」
会社に行くのに電車を使うからいるだろう。
「で?」
「お前の姉ちゃん美人だよな」
「ここで止めるのか?」
回想は終了です。
「……俊介は一体何を悩んでたのかな?」
「はたして姉貴は美人の定義に入るのか」
かなりどうでもいい悩みだ。
「…迷ったなら入れておきなさい」
遠回しに自分で美人だって言ってる!?
「そこはとりあえず謙虚にしておくべきだから姉貴」
とりあえずとか付けるところが弟らしいところである。
「それは置いておいて、塚本?くんはなんで突然そんなこと言い出したの。見知らぬ大学生に話しかけられたことはないよ」
正しくは塚田である。
「なんで突然そんなこと言い出したのかは明日聞いてくる」
そう答えるのが無難だな。実は回想の後に姉が美人という考えを物凄い否定していた弟くん。
「おま…!!姉貴に聞かれたらどうするんだ!!」
弟がヒソヒソと訴えた。
ちなみに姉に聞かれる心配はない。姉はご飯に夢中でこちらの言うことなど聞いていない。
「なんで天の声が知ってんだ!!」
何故?それはもちろんナレーションだからである。
そして次の日。
いつものように夕方を過ぎた頃、姉帰宅。しかし部屋の電気は消え、人の動く気配が全くしない。ゆっくりとリビングに入って行くと、ソファの上に弟が微動だにせず倒れていた。
「ちょっ…しゅ、俊介!?どうしたの!?」
こういう時は、姉は弟の名前を間違えない。間違えていたら雰囲気ぶち壊しだ。それもそれで面白いが。
弟がゆっくりと首だけを動かして姉を見るとやっとしゃべった。
「…名前間違えられても面白くねぇよ…」
さすがツッコミ!!いつ何時でもその心は忘れちゃいけない!!
「…お願いだから天の声、こういう時ぐらいまともにナレーションやって」
了解しましたお姉様!!
姉はキッチンに入るとコップに水を入れて持ってきた。こういう時は本当に姉らしい。
弟をちゃんと座らせるとコップを渡し、隣に座った。
「俊介、どうしたの?なんで夕飯の準備してないの?」
こんな時でもまず心配するのは夕飯!?
「悪いけど…無理。作る気力が出ない」
弟は本当に末期だな。熱は出てないので大丈夫だろうが。
「きっちりしたことが好きなしゅーちゃんがおかしい!!」
「…俊介だ…」
「いつものツッコミの切れは一体どこに!?何が原因なの!?」
「原因は…」
弟がちらっと姉を見てまた顔をふせる。
「答えようよ!!」
「………」
ではその原因となった出来事を振り返ってみよう。
講義が終わった後、弟は塚田を捕まえることに成功した。
「塚田…昨日のことなんだけど…」
「昨日?あぁ、学食の時か」
弟が激しく首を振る。
「姉貴が美人てどうしてそう言い出したのかと思って」
何故か塚田が怪訝そうな顔をする。
「なんにも言わなかったか?」
「何が!?」
「姉ちゃん美人だなの後に」
「何も言ってない!!」
塚田が不気味な笑い方をした。嫌な予感がする。
「文化祭がもうすぐあるのは知ってるよな?」
「それは知ってる」
「じゃあこの大学の文化祭の目玉は何だか分かるか?」
「プロのミュージシャンによる野外ライブ」
「違う」
「…学生有志のお笑い」
「残念!!」
「…………女装美人コンテスト…」
「正解!!」
塚田の笑顔で嫌な予感がさらに強まった。
女装美人コンテストとはその名のとおり男が女装して美しさを競う文化祭恒例のイベントだ。しかし共学でそういうのがあるのはかなり珍しい。
「ここから最初の話につながるわけだ。お前にそっくりな姉ちゃんが美人だったんだから、お前が女装して美人じゃないはずがない!!」
「はぁ!?」
弟の嫌な予感は見事的中した。
「というわけでもうエントリー済みだから」
「ちょっと待て!!なんで許可なくエントリーしてんだ!!取り消せ!!」
「コンテストには推薦という手があるんだよ。そして一度エントリーしたら例え入院していてもコンテストにでなければいけない。残念だったな!!」
塚田がさわやかに言いきった。それにしても入院していても出なきゃいけないってどれだけ過酷なんだ!?
帰ってきてから弟がぶっ倒れているのはこういうわけなのである。
「しゅーちゃん…」
姉が弟の肩を叩いた。
「ファイト」
「何を頑張れと!?」
「じゃあ…ご愁傷様です」
「もういい…」
弟が顔をふせてしまった。
「でも…弟が女装コンテストに出るなんて滅多にないことだよね。当日は何があっても行くから!!」
「来るな!!」
弟が立ち上がり、自分の部屋のドアに手をかける。
「夕飯どうするの?」
「勝手に食え!!」
そう言うと音を立ててドアを閉めてしまった。
「…出前でも取ろう」
姉はこんな時でも自分で作ろうとはしないのだった。
女装美人コンテストの回はもうしばらくしてからになります。