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第38話 新学期を祝え

「祝え!祝うんだ!無事に3年に上がれたことを!」

「俺、お前ほどピンチじゃなかったから」

 塚田の言葉に対して新年度早々冷めた態度をとっている弟。4月になり、大学生活も3年目を迎えた現在、何故か塚田がうかれている。

「べつに俺もそこまでピンチじゃなかったぞ。英語がスレスレだっただけで」

「心の広い教授で助かったな」

 塚田が机に突っ伏し、泣いている真似をする。いや、実際に泣いているのかもしれない。もちろん弟が辛辣だから。

「優しさを求めることが間違ってる」

 塚田が顔を上げた。頬が濡れていないので嘘泣きだったようだ。

「もう少し態度を軟化させてもいいだろ!?」

「これ、元からだから直らない」

「努力!!努力を見せて!!」

 弟には無理なことを新年度早々塚田は願っている。年度が変わろうが、大学生活3年目に入ろうが、二人に成長は見られない。そう簡単に変わられても困るが。

「…成長って何だろうな、塚川」

「塚川って俺?」

「何言ってるんだ、塚林」

「成長って何だろうって言葉はそのまま返すよ、斎藤」

 だからどっちもどっちである。



 さて、いつも通りの会話の後、授業開始。塚田は弟の隣に座って真面目に授業を聞く、わけはない。聞き逃したところを弟のノートを盗み見て写す。弟は言い争うのも面倒なのかほっといている。

「めくるなよ。まださっきのとこ書いてないんだから」

「授業妨害するな」

 すべて小声の会話である。

「少しぐらい貢献してくれても…」

「そこ、うるさい」

 塚田は教授に怒られた。単位がまた危うくなった。

「塚田、ファイト」

 隣にも聴こえないぐらいの声で弟は呟いた。



「お前ってさ…得意なものとかないの?」

 講義が終わった後、まるで塚田は人生すべて不得手であるかのように弟が聞いた。

「数学」

「へー」

 自分から聞いておいてかなり気のない返事だ。

「…数学?」

「そうそう。1A2B3C。微分積分とか何でもいける」

「数学?」

「二回も聞くなよ。こう見えても俺、この大学数学の評定で推薦で入ったから」

 弟も初めて聞く話だった。どうりで英語ができなさすぎるわけだ。数学の評定だけなら英語はいらない。

「なんで経済学部?」

 普通数学が得意なら理学部数学科あたりを狙うだろう。

「数学科とかで普通に受験したら一科目じゃないだろ」

「あぁ、なるほど。英語が…」

「そうなんだよ。英語がどうしても…って断定するな」

「でも英語だろ?」

「そうなんだけどさ!」

 地団駄を踏む。弟が迷惑そうな顔をした。塚田が弟の顔をちらっと見て足を止める。

「なんだよその顔は!!」

「うるさいなぁと」

「表現はオブラートに包もう!!」

 改めて隣の席に座って、体ごと弟の方を向く。

「じゃあ斎藤の得意なものって何?」

「文系三科目はそれなりに。まあ世界史はその中でも出来る方」

「違うだろう!」

 そうだ違う。弟の得意なものと言えば家事。その中でも特に料理だろう。

「斎藤の得意なものは料理もあるけど、女装だろう!チャンピオン!」

「…ちょっと待て。どうしてお前が知ってるんだ…」

 そういえば弟は塚田に優勝したことを報告していない。残念でしたという気持ちを込めての打ち上げをしたために完全にタイミングを逸していた。それなのに何故か塚田が知っている。

 塚田が弟の肩を叩いて笑った。

「俺は推薦者だったからな!後日、実は…って大学祭進行から聞かされた」

「………」

「安心しろよ!!今年の前年優勝者紹介の時は俺ら全力でサポートするから!」

「俺ら?」

「もちろん!!この前のメンバーで!」

 柿崎、葉賀、山村の女子三人組か…。

「もちろんあいつらにも声かけてあるからな」

「………」

 誰も知らないと思っていたのは弟だけなのだった。

 なんか…弟と塚田の大学生活詰め合わせみたいになってしまった…!!

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