第37話 父子二人旅へ行く
目の前に広がる青い空、青い海。広いな大きいな。行ってみたいな他所の国。こんにちは今日は斎藤家の大黒柱と長男の逃避こ……二人旅をお届け。
BGMが今一番欲しい…。歌わないと今の言葉に歌が入ってるのが通じないから。
「海見えないし。旅してるわけでもないから、旅番組を作ろうとするな」
弟のツッコミが入った。
これは旅番組ではありません。父が上京している弟を連れて東京観光をしているだけなのです、はい。
「…ナレーションの仕事を放棄するのはやめないか、天の声」
父にまでつっこまれてしまった。
現在は東京観光と言えばここ!という観光名所東京タワーにいる。50年だってめでたいね。
「天の声…」
弟の逆鱗に触れそうなのでここからは真面目に行こう。
東京タワーに来たいと言ったのはもちろん父。講義もなく暇だった弟は巻き込まれる形で父の観光に付き合っている。私服の用意はしていなかった父はスーツのまま東京の観光名所を回っていた。東京タワーで3ヶ所目だっただろうか。
「スーツと替えのワイシャツだけあれば出張なんて十分だろ?」
「まあそうだけど…父さん、そういえば今日は会社は?出張の最後の日だけ休暇なわけ?」
父が爽やかに笑った。一生忘れられない笑みだった。
「部下に全部押し付けてきた」
「あー………」
今弟と私の心の中は完全に一致した。
やっぱりこの人、姉の父親だ…。
安くてそれなりに美味い店で昼食を済ませ、二人は東京駅へと向かった。
「何時発の新幹線?」
「2時15分だ」
「そんなに時間はないのか。じゃあこれからどうする?」
父は少し考えてから答えた。
「土産でも買うか。鈴に要求されてるからな」
兄弟の中で唯一実家にいる妹を思い出した。小学校高学年になろうという歳なのに人で東京まで来てしまうようなハチャメチャな妹である。
「そういえば鈴元気?」
「鈴は…」
父が遠い目をしている。こういう時に後に続く言葉と言えば元気すぎるとか、また家出しそうだとか…。
「病気なんだ」
「へぇ………えぇ!?」
うえぇ!?
「今入院しててな…」
「ちょっと待て!出張とかしてる場合じゃないだろ!!」
その前に兄弟に連絡があってもいいのでは?
「…というのは冗談だ。今日も学校に行ってる…はず」
サボってなければの話か…。
「冗談かよ!!驚かすなよ、父さん!心臓止まるかと思ったから!!」
「すまんすまん。冗談に付き合ってくれる人が普段家にいないからつい」
常識人のいない家=斎藤家だからである。それにしても弟はシスコンだな。
「妹を可愛がっちゃ悪いか」
開き直った…。
「うん……まあ…いいんじゃないか…」
父もちょっと困り顔だ。ちょっと遠い目で何を思い出しているのやら。
「お土産買うんじゃないのか?」
「そうだった。お土産屋とかどこにある?」
すぐそこ。父の目と鼻の先にあるのである。
「あぁそうか………あっ!」
父、弟に何も言わずに駆け出す。正確には早歩き。
「どうしたんだよ」
弟はすぐに追いついたが、父はその間にもうお土産を買っていた。東京土産代表のお菓子である。
「いや、お母さんはこれ好きだったから買って帰ろうと思ってだな」
「そんなに慌てなくても逃げないから、それ」
弟苦笑気味。母がそれを好きなのは知っているが父もちょっとはしゃぎすぎ。
「はしゃいでない」
ではそういうことにしておこう。
「鈴へはどうするんだ?」
「うーん…。あのネコのストラップとか…?」
「東京限定版?この前来た時買ってたよ」
妹はあの時しっかりお土産を買っていたのか。さすが弟の妹。
「なんか他に限定物系あったか?」
「…思いつかない」
父、父。新幹線の時間になる。
「え!?うお!!」
自分の腕時計を確認してあわを食っている。
「土産!!もういいか土産!!」
「お菓子が二人分のお土産ってことにしておけば?」
「そうするよ!」
荷物を抱えて父が走り出した。その背を追いながら、弟が大声を出す。
「夏休みには帰るから!」
「あぁ!うわぁ!!」
父、お菓子を落下させる。それをひっ掴んで階段を駆け上がって行った。
帰る時だけ嵐のようだ…。
弟が笑う。
「そこだけは鈴そっくりだろ?」
お久しぶりです。
気がつけば、もう100日以上更新してないとか…。サボってたわけではないのでゆるしてください。
父編はこれにて終了で、次回はまたゆるゆるとした一話完結のものを。
実はこの回から完全定期更新性にしようということにしました。週二回更新です。火曜日と金曜日に更新する予定ですので、お暇な方は毎回お付き合いいただけるとうれしいですね。
あ、それと、もし更新予定日の翌日になっても更新されていなかったら、次の更新予定日にならないと更新されません。されませんというか、多分書けていないからそんなにすぐに更新できません。更新されていなかったら温かく見守ってください。