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第34話 やっぱり貴方が犯人

「で、父さんはいつ来たんだ?」

「昨日の12時すぎかな」

「それは俺完全に寝てた。よく入ってこれたな」

 父が遠くを見た。疲れた雰囲気をまとっている。

「あぁ…。それはな…」



 昨日、夜12時すぎ。

 父は玄関前で考えていた。ものすごく考えていた。もうみんな寝てるんじゃないかと。

 こんなに遅くなるならホテルに泊まった方が良かったかな…。常識人な父がそう思い悩んでいた次の瞬間。背中を押される感覚。思いっきり、ドアに頭をぶつけた。背後には娘である紗弥加が。

「鍵開けるからどいて。邪魔」

 冷たすぎる姉の物言いに、父は心を痛めつつ素直にどいた。ちなみに姉のこの態度は現在不機嫌というものも加わっているが、大体父に対してはこんな感じだ。弟に接する時と少し違うのはブラコンだからだ。

「…随分遅いんだな…」

 中に入ってから父がそう言った。姉は鞄を自分の部屋にほうり込んでから、父の方を見る。目が据わっていた…。

「行きたくもない上司との飲み会」

 不機嫌な理由が明らかにされた。

 あまりにも姉が不機嫌すぎて父は逃げ腰。

「それは…大変だったな…」

「あー!!もう!!しゅーちゃんのご飯が食べたかったのにー!!」

 そう言って頭を掻きむしる姉。これは大分イライラがたまっている。というかなかなかブラコン度合いが高い。

『俊介だろう』と心の中でツッコミをいれる。姉より弱いので心の中で。

「あー…どこで寝ればいい?」

 話をそらそうと父がそう聞くと、姉は父を睨んでから自室に入っていった。怖すぎる…。

『もしかしてこのまま朝までここに立ってないといけないのか…?』

 父が青くなっていると、まもなく姉は黄緑色の毛布を片手に出てきた。

「荷物はそこらへんに置いて」

 姉の言う通りにする父。なんだか哀れだ…。

 そして姉に毛布の一端を持たせられた。何がなんだか分からずに持っていると姉が父の周りをぐるぐるぐるぐる。しかも不気味に歌など歌っている。

「あかりをつけましょ、ぼんぼりにー」

「時期が違うぞ」

 父の鋭いツッコミに姉がにこぉと笑った。黒すぎる…!!

「なーつーも近づく、八十八夜」

 ぐるぐるぐるぐると周り続けて、父は毛布を巻かれて動けなくなった。

「待ってくれ!まだ風呂も入ってない…」

「だから?」

 姉は容赦がない。今日は特に。

 父はそのまま頭まで毛布にくるまれた。こうして父いも虫が誕生したのだ。姉はそれ(父)をソファに投げて自室に入っていった。

「おい!!お……紗弥加!!苦しい!!」

 父の叫びは姉には届かなかった。父はそのまま気絶するように眠りについた。というかあまりの息苦しさに気絶した。

 そして今朝のいも虫に繋がる。



「………」

 弟が完全に無言になった。気持ちはよく分かる。

「父さん、とりあえず風呂入ってきたら…?」

「あぁ。そうさせてもらう」

 家から持ってきた鞄を引きずって風呂場に消えた。弟はそのあとをしばらく見ていたが、すぐにキッチンに向かった。

「さてと…和食でいいか」

 そんなことを言わずとも弟はいつも和食である。

「うるさい」

 そう言いながらサクサクと朝食の用意を進める。昨日から用意していた煮物に味噌汁。普通の日本の朝食。

「…なんか文句あんのか?」

 弟まで据わった目をしなくてもいいだろうが。用意が出来たのなら姉を起こした方がいいのでは?

「そうだな」

 姉の部屋の前まで行って、ノックする。返事がない。

「姉貴ー。そろそろ起きないと会社遅刻するぞー」

「…しゅーちゃん、女装して私の代わりに行って…」

「不可能だ」

 姉は起きているようなので、弟は朝食を並べたテーブルの前に座った。すぐに父がやってきた。風呂に入って、ひげも剃ってさっぱりしている。

「…さっき、そんなに見苦しかったのか?」

 シワになったスーツが。

「………」

「お姉ちゃん登場!!」

 いつもよりテンションの高い姉がやってきた。昨日の不機嫌を知っているから、テンションが高いだけなのに怖さを感じる。

「何よ。朝は爽やかに起きないと」

 むしろテンション高すぎて弟と父が引いている。

 早めに立ち直った弟が一人で、朝食を食べはじめた。続いて姉が。最後に姉の機嫌を伺いつつ父が食べはじめる。

「しゅーちゃんさすが!今日も煮物がおいし…」

「姉貴」

 顔を上げた姉の目の前に弟が無言で時計を突き出した。弟が起きてから大分時間が経っている。

「7……8時!?」

 姉が慌てて立ち上がり、鞄を掴んで玄関を飛び出していった。

「なんか落ちてるぞ」

 さっきまで姉の鞄が置いてあったところに、小さな四角い物が落ちていた。父が拾い上げたそれは…姉の定期券だった。

「紗弥加…慌てすぎだ」

「大丈夫大丈夫。気づいたら取りにくるから」

「時間ないから飛び出して行ったんだろう?」

 父の問いには答えずに弟は時計をいじりはじめた。時計の時間が7時30分になっている。父が自分の腕時計を見たが、やはり時間は7時30分だった。姉が出勤するには少し早すぎる。

「…俊介」

 7時30分を示した時計を元通りの場所に戻している弟に父が話かけた。肩に手を置いて、若干涙目。

「強かに生きろ」

 父よ、弟は十分強かだ。


 姉が黒い。そしてかなりブラコンだった…。最初からブラコン入ってましたけど。

 父、本当にまともだなぁ。


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