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第32話 季節外れの鍋パーティー

 サバとアジのパックを持って弟はものすごく吟味していた。今日の夕飯の買い物中である。

「サバとアジどっち食べたい?」

 弟よ、私は節食行動は出来ないのだ。聞いても無駄である。強いて言うなら刺身が食べたい。

「却下」

 …なんのために聞いたんだ…?

「今日はサバとアジが安いから選択肢は二つしかない」

 …それなら両方買って、片方明日食べては?

 私の言葉に頷いて、弟は買い物カゴに両方ほうり込んだ。…ナレーションの役割は助言することだっただろうか。

「別にいいだろ。ナレーションだろうが、人間じゃなかろうが、天の声は話しかけすぎなんだから」

 弟に言われるのが一番不服である。

 ブー…ブー…。

 何かが鳴っている。決してブタの鳴き声ではないと主張しておこう。

「もしもし?」

 何かと思ったら弟のケータイだった。

「あー…お前かよ…」

『名前見てから出ろよ』

 相手はしょっちゅう名前を間違えられるあの人だった。私もあえて名前は出さない。

「何か用?」

『今日暇?』

 質問に質問で返されて弟が不機嫌になった。

「今、夕飯の買い物中」

『鍋パーティーしようぜ』

「…季節を考えろ。夏だから。鍋は冬に食え」

『じゃあチゲ鍋』

「辛くしてどうする!!なんの解決にもなってない!!」

『えー。斎藤は何なら許せるわけ?』

「…そうめん?」

『……それでパーティーは無理』

 弟がカゴに入れたサバとアジを戻した。夕飯を作るのはやめたようだ。

「じゃあ鍋でいいよ。買い物中だから材料買ってく」

『サンキュー』

「…割り勘だからな。ところで材料何人分買えばいい?」

『二人?』

「………」

『お前のお姉さん呼んで三人?』

 電話の相手はまだ誰も誘っていないようだ。しかも姉を呼ぶところを見ると呼ぶ気もないようだ。

「…姉貴は今日飲み会だ」

『男二人で寂しく鍋つつくか』

「…二人じゃパーティーじゃねぇよ。他誰もいないのか?」

『んー…じゃあ三人組呼ぶか』

「学祭の時の?」

『そうそう。あの女子三人組』

「連絡先知ってるか?」

『なんとか聞いた』

「じゃあ連絡よろしく塚本」

『塚本じゃなくて塚…』

 ツー…ツー…。

 弟はジーンズのポケットにケータイをしまうと買い物を再開した。今度は自分の分の夕飯の材料ではなく鍋の材料をカゴに入れていく。タラをカゴに入れてから野菜を入れてないことに気づき、もと来た道を戻ろうと振り返ると女性が思いきりぶつかってきた。お互いにしりもちをついく。

 弟は素早く立ち上がり、しりもちをついた女性に手を差し出す。

「すいません。大丈夫ですか?」

「ごめんなさい。こっちがよそ見してたから」

 素直に謝りながら女性が弟の手を借りて立ち上がった。そして弟の顔を見て「あっ」と呟く。そういえばこの人…。

「…どっかで見た気がするけど、誰だっけ?」

 おいおい…。覚えておいてやれよ…。

「山村です。学祭の時の…」

 数少ない弟の友人だった。しかも弟が忘れても何も言わないあたりが弟の友人である。

「あぁ!!三人組の一人か!!そういえば塚田から連絡いった?」

「連絡?いえ…何も」

「塚田の家で鍋パーティーするけど、参加する?」

「え?それは私なんか行っていいんでしょうか?」

 山村がそう言った時に彼女のケータイが鳴り響いた。山村が慌ててケータイを出して画面を見る。

「あ、塚田くんだ…」

「貸して」

 明らかに何か企んでいる笑顔で弟が山村からケータイを受け取る。そして通話ボタンを押した。

『あ、もしもし?山村さん?俺、塚田だけど…』

「………」

 弟は笑顔のまま、何も答えない。弟が何を考えているのか分からない山村がオロオロしだした。

『聞いてる?山村…美姫さんですよ、ね?もしかして俺間違い電話!?知らない人のとこにつながってます!?もし間違えてたらごめんなさい!!ていうか、もう誰でもいいからなんか答えてください!!』

 プチパニックに陥った塚田の声を聞きながら、弟はまだ笑っている。さすがに私も弟が何をしたいのか分からなくなってきた。

「さ、斎藤くん?あの…塚田くんパニックになってませんか?」

 意外と耳のいい塚田が山村の声を聞きとった。

『山村さん!?よかった!間違ってなかった!ていうか、随分と声が遠い気が…』

「Hallo!Mr.Tsukada.What are you doing now?」

 流暢な英語が聞こえた。もちろん、弟の口から。

『え、英語!?山村さんじゃないし!!誰!?あー……フー!いや、ワット!?なんか声に聞き覚えある気がするけど…英語なんか喋れるかー!!』

 キレた塚田が勝手に電話を切った。弟がニヤリと笑う。英語が分からない塚田をパニックにさせて、自分から電話を切らせるのが目的だったようだ。

 ケータイをオロオロしている山村に返し、弟は食材を全て棚に戻した。鍋の材料はどうするんだ…。

「さてと。電話の声が誰だか、塚田が気づいて俺に電話かメールしてくるまでそこらへんでお茶して待ってるか。山村もどう?」

「え!?…塚田くんに悪いんじゃ…」

「問題ない。塚田だから」

「でも、気づかなかったら…」

「気づく」

 何故なら塚田だから。

 オロオロしっぱなしの山村を引っ張って弟はスーパーを出ていった。



 そしてやっと声の主に気づいた塚田が慌てて電話をしてくるのは1時間後の話。

 そしてそして、そのネタで女子三人組の残りの二人、柿崎と葉賀から塚田が散々からかわれ、ぐれた塚田が自分の家なのに『出てってやるー!!』と言いながら飛び出していくのはさらに数時間後の話である。


 ほぼ二ヶ月ぶりです。すいません、サボり続けてみた作者です。

 実はこの話…最初は買い物に行った弟が家に帰ると父が玄関先にちょこんと座って待っているという設定だったのですが、途中で鍋の話に…。本来なら弟が鍋奉行って話になる話だったのに、それるそれる(笑)それまくった結果がこの話です。

 次回は今度こそ、父の話を。それたりしなければ父の話を(笑)

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