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第26話 風邪はひきはじめが肝心です

 静かだ。いつもうるさい斎藤家に似合わず、かなり静かだ。

「ゴホッ…ゴホッ…」

 いや、そうでもないか。

 本日は、姉は仕事でいないが、弟がいた。もうすでに春休みなのでいるのは問題ないのだが、遊びに行くのをキャンセルしてでも家にいた。その理由は…。

「ゴホッ…ゲホッゲホッ……」

 もうお分かりいただけたであろう。弟は風邪をひいたのである。なんとも情けない。

「黙れ…頭に響く…」

 黙れと言われても物語からナレーションが消えたら、ただの会話文である。

「………ゴホッ…」

 弟が哀れなので、仕方がないから弟に聞こえない音声で話してやろう。

「…それはどうも…」

 どういたしまして。と言っても、もう聞こえていないのだろうが。

 さて、暇なのでどうして弟が風邪をひいたのか説明でもしよう。昨日、物語的には前回、大雨の中、姉にせがまれて傘を片手に迎えに行ったわけだが、駅の周りで姉を探してずぶ濡れになった弟の元に姉から無情なメールが届いたわけだ。その雨の中、疲労困憊の弟は倒れたが、なんとか自力でタクシーを拾った。そしてずぶ濡れで帰った弟は次の日、つまり今日熱を出して寝込んでいる。

 まあ、自分のせいで弟が熱を出したということにさすがに気づいている姉は責任を感じて仕事を休むと言い出したが、弟が大丈夫だからと言って仕事に行かせた。もちろん、この時の弟は「心配をかけてはいけない」などと考えたわけではなく、「姉貴に看病されたら余計ひどくなる!」と思っていたわけだが。

 一人で延々と喋っているのは疲れるので弟に聞こえるように話してもいいだろうか?

「…出来るだけ声のトーンを落として話してくれるなら…」

 承知した。

 ところで弟よ。階段を誰かが上ってくる音がしないか?

「階段、どれだけ遠いと思ってるんだよ…」

 その足音がこの家に近づいてきた。3歩、2歩、1歩。弟よ、呼び鈴が鳴るぞ。

「は?」

 ピンポーン。

「マジかよ…」

 ピンポーン。ピンポーン。

「誰かいませんかー?」

 弟、出て行かないのか?

「無理。動けない」

 弟が動かなくても、鍵は独りでに開くのだが。

「なんだよ。ドア開いてんじゃん」

 不法侵入者らしき者が入ってくる音がした。

「閉めておいたはずなのに…」

 ナレーション・マジックである。

「んな、馬鹿な…」

「お邪魔ー」

 いつものように軽いノリであの人、いやあれが不法侵入した。

「この声はまさか……!!」

 そのまさかである。

「えー…うー……雰囲気的にこっちかな?あ、大当たり」

「マジかよ…」

 嘘でも冗談でもなく、塚田孝司(たかし)本人である。ちなみに弟の『マジかよ…』は本日二回目である。

「なんだよ、その反応は。もっと喜べよ」

「どうしてお前が…」

「風邪ひいたって遊びに行く予定をドタキャンしたから見舞いに来たの!!」

 弟は塚田と一緒に遊ぶ予定だったらしい。まあ、塚田でよかったな。

「で?風邪はどうよ?」

「お前がいると余計ひどくなる」

「…わざわざ見舞いに来てやった友人にそれはひどくないか…?」

「そう思うならさっさと帰れ。風邪うつったら面倒だろう…ゴホッ…」

 いつになく優しい言葉をかけた。

「…風邪うつったら『斎藤にうつされた』って騒いで同情票を集めようとするんだから俺が面倒だろ?」

 塚田に対してそんなに優しい言葉をかけたくなかったのか。

「…さすがに俺、そこまではやんないよ…」

 塚田が寂しそうに呟いた。哀愁が漂っている。

「まあ、ともあれ来たんだから飯ぐらいは作ってやろう!」

 たった一行で立ち直る辺りが塚田だと思う。

「別にいい…」

「遠慮するなって!これでも一人暮らししてんだからそこそこ自信があるんだ!」

「い…」

「あー!!お前は寝てろって!大丈夫!『ここは戦場か?』って状態にはしないから」

 そう言うと塚田は弟を残してさっさとキッチンへ向かった。


 普通ならばここから塚田の料理風景などを書くところだろうが、そんなものに無駄な行を使うのはもったいないので、塚田がキッチンから戻ってきたところから書こう。


「じゃじゃーん!たーまーごーがーゆー!!」

 鍋の蓋を取ると出てきたのは普通の病人食だった。姉の料理のような悲惨さはない。かといって特別美味しそうなわけでもない。

「なんで…21世紀から来た耳がない猫型ロボット風?」

「あの青いやつな。そんなこと気にするなよ。さぁ食ってみろ」

 粥をすくったれんげを塚田は弟の方に差し出した。弟が露骨に嫌な顔をする。分からないでもない。

「…自分で食うから」

「いや、自分で食うって言って鍋ひっくり返したら大変だろ?ほれ口開ける」

 弟は頑なに口を閉ざしたまま塚田を睨んだ。塚田はにこにこと笑いながられんげを構えている。

そこへ…。

「しゅーちゃん、まだ生きてる!?」

 会社から真っ直ぐ帰宅したと思われる姉が弟の部屋に飛び込んできた。

 驚いた塚田の手かられんげが滑り落ちる。そして熱々の粥が入ったままのれんげは床に落ちた…りはせずに布団から出ていた弟の手に粥を掛けた。

「熱っ!!」

「わ、悪い!!」

「キャー!!水!氷!?それともアロエ!?」

 姉が現れただけで大惨事である。ちなみに火傷には流水が正しい。

「…お前らこの部屋から出ていけ!!」

 塚田と姉は部屋から追い出された。

 そして弟は、自分で火傷の治療をし、自分で溢れた粥を拭き取っている。結局はいつもと同じぐらい働いてしまうのであった。

「…天の声も出ていけ…」

 私もなのか!?

 風邪をひいても弟は働かないといけないんですよね。そんな弟がさすがに哀れになってきました。

 この回は天の声が色々と…すごいことをしてくれましたね。ナレーション・マジックって何!?って作者も思いました。

 第30話で、『第一回談笑会』をやる予定なので、疑問質問など何でも送ってください。もちろん面白いペンネームを書いて(笑)

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