表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/51

第23話 こんな呼び方してはいけません

 軽快な音がキッチンから聞こえてくる。いつものように弟が夕飯の仕度中である。いつも作っているのだから弟の趣味の欄は料理でいいと思う。そして将来立派な料理人になればいい。

「人の将来を勝手に決めるな、天の声」

 姉はきっとその方が喜ぶぞ、弟。

「………」

 うちのご飯はいつも出張料理人が作ってくれるの、とでも言いながら。

「恐ろしいことを言うな!!あり得そうで恐すぎる!!」

 弟が包丁をまな板に叩きつけた。

 そんなことばかりしているからまな板と包丁がすぐに駄目になるのである。

「八割がたお前のせいだろうが!!」

 あとの二割は?

「姉貴のせい!!」

 正論である。

 そんなことを言っている間に姉が帰ってきた。

 姉は鞄を部屋に投げ入れると、バタンという音を立ててソファに倒れこんだ。埃がたって弟が顔をしかめる。

「おい、姉貴。埃たてるなよ!!」

「………」

 姉はうんともすんとも言わない上に、微動だにしない。姉らしくない。

「ちなみに天の声、姉らしい時はどう答えるんだよ」

 しゅーちゃんがちゃんと掃除すれば埃のほの字も出ないわよ!!か、ところでしゅーちゃん、夕飯まだ?というところだろう。両方というのもありだ。

「よく観察しておいでで…」

 観察と描写が出来なければ、ナレーションなど勤まらない。

 弟がため息をつきながら夕飯を運んできた。リビングの方まで美味しそうな匂いが漂う。匂いを嗅ぎ付けて、姉がのそのそと移動してきた。

「しっかりしろよ」

「うー…」

 唸っただけで、だらけた状態のまま箸を掴む。かなり疲れているのか?

「姉貴、疲れてるんだったらそのまま部屋行って寝れば?」

「うー…」

 弟が姉の茶碗をどかそうとした。…動かない。よく見ると姉が茶碗をしっかり掴んでいて放そうとしない。今日のお姉様は一段と食い意地をはっていた。

「姉貴?」

 どうした姉よ。夕飯は逃げていったりはしないぞ。

「なぁ、毎回思ってるんだけどさぁ。なんでナレーションなのに俺よりセリフが長いんだよ」

 ナレーションの特権である。

「なんでもありだな…」

「心配してんの!?してないの!?」

 確実に脱線し始めたところに姉がたまらずツッコミを入れた。

「ツッコミいれられるならもう大丈夫だ」

 通常のツッコミ担当、弟が冷静に返した。姉が泣き崩れる(ふり)をする。

「ひどい!!ひどいわ、しゅーちゃん!!あの可愛かった頃のしゅーちゃんよ、戻ってきて!!」

「戻らねぇよ。てかいつまでも弟を間違ったあだ名で呼ぶ姉貴の方がひどいね」

 弟は冷静なツッコミを手にいれていた。

 演技派に疲れたのか姉がいつも通りに戻った。

「ちょっと聞いてくれない?」

「聞かないって言っても聞かすんだろ?」

「そうとも言う」

 姉が夕飯を食べながら喋り始めた。

「うちの課のクソジジイがね……さば美味い…ムカつくんだけどね…さばもう一個ない?」

「喋るか食べるかどっちかにしろ」

「あら。この家の家賃を払ってるのは誰かしら」

「姉貴です…」

「この家では私が法律だから」

 そう言いつつも、さすがに行儀が悪いと思ったのか姉が箸を置く。

「で、マジでありえないんだけど。あのクソジジイね、出先で自分がやった失敗を私のせいにするんだよ!?最低でしょ!?」

「へー」

 弟は一言で済ませたが、きっと頭の中では姉を怒らせるなんて勇気あるなとか思ってるに違いない。ちなみに『クソジジイ』と姉が呼んでいるのは姉の上司である課長だ。ちなみにちなみに、課長は30歳半ばである。

「で、姉貴はそのままほっといたわけ?」

 ほっとくわけがないと言いたげな口調で弟が聞く。

「まさかぁ」

「やっぱりか…。仕返ししたのか?会議の書類を抜いたりとか?」

 弟はさらっと黒いことを言った。

「そんなことしないわよ。それやったらまた部下の責任にするだけよ、あのクソジジイは」

 大分怒りがたまっているらしい。

「で、具体的にはどのような…」

「苦いコーヒーをいれて愛想良く出す」

「それ、コーヒーの分量わざといれすぎたってバレバレなんじゃ…」

「甘いわね。うちの会社、コーヒーはインスタントじゃなくてコーヒーメーカーなのよ。コーヒーメーカーなら機械のせいに出来るじゃない。文句言われたら『コーヒーメーカーの調子が悪いんでしょうかね。修理に出してはどうですか?』って言えばそれ以上向こうは何も言えないわよ」

 黒い。姉が非常に黒い。

「ちなみに…どうやって苦いコーヒーをコーヒーメーカーで…」

「一度出来上がったコーヒーを、本来お湯をいれるべきところに入れれば終わりよ」

 黒い。どす黒い。今回の腹黒チャンピオンは姉で決定である。

 ちなみにそんな方法で苦いコーヒーを作っていたら他の人が気づくのではと思うかもしれないが、断言しておこう。このお姉様に勝てる人間などそうそういないのである。

 予想外です。予想外なほど長いです。原因は弟と天の声の漫才ですけどね。書いてるうちに調子にのってしまうんでしょうね。

 批評、感想、誤字訂正はいつでも受け付けています。あ、それと談笑会へのメールも。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
朝比奈颯のウェブサイト「龍の社」

Wandering Networkへ投票
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ