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第21話 面白すぎる学祭 その四

 女装コンテストをお送りするにあたり、客観的に話を進めるために天の声が弟に話しかけたりしませんが、ご了承ください。

「ついにやってきました!!大学祭恒例!!大学祭の目玉!!第24回男のための男による女装美人は誰だコンテスト!!只今から開始です!!」

 マイク片手に男がテンション高く叫んだ。観客からも興奮の声が聞こえる。

「私、今回このコンテストの司会進行をさせていただきます当大学三年の芒野(すすきの)と申します。このコンテストを仕切らせてもらうにあたりいくつかの抱負を…」

 芒野の説明が長引きそうだと判断した観客からブーイングが聞こえてくる。このまま抱負を述べていると観客全員によるブーイングの嵐が起きそうだと思った芒野が片手を肩まで上げた。

「オーケー、オーケー。俺の抱負なんか聞きたくないって言うんでしょう?みなさんの非難が爆発する前にコンテスト出場者を呼んでしまいましょう」

 芒野のこの言葉で音楽が流れ出し、出場者が入場してきた。それぞれ色鮮やかな服を身に纏い、たった一人を除いて全員が観客に、にこやかに手を振っている。

「では自己紹介していただきましょう。チャイナ服な一番の方どうぞー」

 次々に番号を呼ばれ、自己紹介していった。皆個性的な自己紹介で観客にアピールしている。

 そして出場者の中でただ一人、にこりともせずにうつ向いている人の番になった。

「はーい。ではお次は九番の方自己紹介どーぞ」

「………」

 九番はうつ向いたまま顔を上げようともしない。

「浴衣がとってもお似合いの九番の方ー?」

「………」

「九番の方お名前をどうぞー」

「……いと……」

 ボソボソと九番が喋り出した。しかし声が小さすぎて観客にも司会者にも聞き取れない。

「いと?あぁ、伊藤さん?」

「違うから!!斎藤です!!」

 もちろん、この九番がこの物語の主役、弟である。

 弟は紺の地に朝顔の柄が入った浴衣を着こなしていた。髪を束ねてエクステンションをつけている姿は姉そっくりだ。

「斎藤さんね。特技は?」

「絶対わざとだろ…。どっかに出場者の名前ぐらい書いてあるだろうが」

「はいはい。特技はツッコミね。どんなボケも見逃さないツッコミね」

 弟のツッコミを無視して司会が進行を進める。こうでもしないとコンテストの司会は勤まらないからだろう。

「で、趣味は?」

「なんか投げやりだな…。趣味は…あれ?俺って趣味あったっけ?」

「日常的によくやることってないの?」

「必要に迫られて家事…」

「趣味は家事!なんと家庭的な人なんでしょうか斎藤さん。そんな斎藤さんに拍手」

 観客から割れんばかりの拍手が響いた。その拍手の合間に黄色い声が…聞いたことのある黄色い声が…。

「しゅーちゃん可愛い!」

 弟は思わず両手で顔を覆った。うん。その気持、分からないでもない。

「さあ次は十番の方」

 司会は観客の中から聞こえる黄色い声を完全に無視して進行を進める。ここまでくると誉めてやりたくなる。

 無事、十五番までの自己紹介が終わり(結構な人数が参加していたものだ)、観客による投票が行われている。相当の人数がいたため、自己紹介だけで時間をくってしまったようだ。

 このコンテストには大学側も金をかけているため、投票の集計にはハイテク機器が使われる。簡単に言ってしまえばマーク式集計の超高速版。投票数が多くても二分足らずで集計が終了する…はずだった。

 あと少し待っていれば集計結果が出るという時になって集計所が騒がしくなった。

「集計所でトラブルが発生したようですが、皆さんしばらくお待ちください」

 そう言うと司会者の芒野は裏方に何が起きたのか聞いている。その声は舞台上にいる弟の耳にも届いた。

「集計の機械が古くなってきていたから、高速集計に追いつかなくなったらしい。モーターから発火して、集計所のテントが今燃えてる」

「じゃあ集計は無理だな…。観客に知らせてくるか…」

「そんなことしたらパニックになるぞ」

 いてもたってもいられなくなった弟は浴衣のまま舞台を駆け降りて、司会と裏方に聞いた。

「被害は!?」

「テント一つ」

「人は全員逃げたのか!?」

「さあ、そこまでは…」

 弟は裏方を押し退けて走り出した。

「ちょっ…斎藤さん!!」

 司会が驚いて弟を止めるが、弟はそれも押しのけた。

 走る走る。弟は浴衣だということを忘れさせるほど全力疾走した。

 走り続けて、集計所にたどり着いた。テントは炎上して、集計のスタッフはテントを囲んで呆然としている。火の勢いは留まるところを知らず、少しずつ広がっていく。

 呆然としているスタッフの一人を捕まえて弟は聞いた。

「全員逃げたか!?」

「え、えぇ。なんとか…」

「良かった…」

 その言葉を聞いて弟がやっと緊張をほどいた。そして辺りを見回す。皆呆然としていて動こうとしていない。

「消防車は?電話した?」

「あ、はい。一応。でもすぐには来ないらしいです」

「消火器は?」

「へ?」

 スタッフは弟の言葉にキョトンとしている。消火器ってなんだっけというような表情だ。

 弟は使えないスタッフをほっといて、また走り出した。

 今度はすぐに帰ってくる。左手に消火器を持って。

 弟は未だに燃えている集計所のテントを消火し始めた。弟に触発されてスタッフもやっと消火器を持ち出す。

 テントを覆っていた火は小さくなり、やがて消えた。テントは炭になったが、奇跡的に怪我人は一人として出なかった。

「はあ…はあ…」

 弟はすっかり息を切らして、浴衣だということも忘れて、地面に転がった。

 そんな弟にスタッフが寄ってくる。

「あなたのおかげで助かりました。ありがとうございます」

「…いえ…」

「消火器を持って現れたときは救いの女神が降りてきたのかと」

 ん?女神?

「男です!!」

「え?だって浴衣…」

「男ですから!!」

 弟のキレる寸前の言葉にスタッフはやっと気づいたようだ。

「あ…コンテスト出場者ですか?いやぁ、浴衣がとてもお似合いなので本気で女の方かと…」

「どうして女に見えるんだー!!」

「どこからどう見ても」

 スタッフは即答した。周りにいる人も頷いている。私も身体があれば頷いている。

「今こんな格好も男です…」

「大丈夫かー」

 間延びした声が響いた。司会の芒野が走ってくる。

「火は?」

「この人のおかげで鎮火しました」

 スタッフが地面にぶっ倒れている弟を指差す。指されている弟がなんとか立ち上がり、芒野の方を向いた。

「それはどうも。観客の方はトラブルが起きたから集計が出来ないってことで帰したから」

「ですよねー」

 スタッフが相づちを打つ。

「で、今年の優勝者だけど…」

 芒野が弟の方を見た。嫌な予感がして、弟は一歩後退する。

「消火してくれた斎藤さんということでいい人ー」

 スタッフのほとんどが手を挙げる。

「じゃあ、優勝は斎藤さんてことで」

「はぁ!?」

「まあ集計の途中経過もこの人が一番だったんでいいんじゃないでしょうかね」

 弟が嫌そうな顔をした。そんな弟の顔など無視でスタッフは勝手に決めていく。

「じゃあ、優勝者の報告流しますか?」

「それはいいだろ。毎年やってないし」

「表彰式は?」

「観客もういないから」

 一人この場から置いていかれている弟の肩を芒野が叩いた。

「じゃ、来年はよろしく」

「は?」

「前年の優勝者は次のコンテストで優勝者に表彰状とか渡すことになってるから。女装で」

「ということは来年も…?」

「そう。来年も女装でコンテスト」

 弟が音も立てずに倒れた。芒野やスタッフが呼びかけても返事をしない。


 まあ、何はともあれ優勝おめでとう、弟。

 長い…。長かった…。

 いつもの二倍でお届けのお姉様と弟クン。ようやくコンテスト終了です。

 弟が優勝するところまでは予想出来たでしょうが、まさかこんな形で優勝するとは思わなかったでしょう。実は作者も予想してませんでした(笑)

 次の予定は…タイトル未定ですね。お楽しみに。

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