第2話 食べ物は大切にね
今日も今日とていつものように弟は夕飯の準備をしていた。別に姉のためを思ってやっているわけではない。やらないとお姉様に脅されるからである。
「天の声…本当に一言多い。しかもなんだその説明。俺はいつからシンデレラになったんだ」
姉という人物の弟に生まれてから。
「…言い返せない…」
ちなみにコトコト何か煮込んでいるようだが、本日のメニューは?
「豚バラ肉の塊、甘辛煮とほうれん草と薫製豚肉のバター炒め」
小難しく言っているが要は豚の角煮とほうれん草とベーコンのバター炒め。豚肉だらけだ。
「いいんだよ!!安かったから!!」
弟対ナレーションの奇妙な会話が続く中、会社帰りの姉が帰宅した。
「天の声がそんなこと言ってる時点で会話途切れてるよ!!」
「ただいま〜」
姉が帰ってきたのは事実ですよ弟くん。
「何してんの?」
「何って夕飯」
弟が料理をテーブルに運ぶ。会話する余裕があると思ったらもう準備終わってたのか。
「当たり前だろ。天の声のせいで夕飯駄目にしたら意味ないじゃないか」
………。
「なんだその間は!!駄目にしろって言ってんのか!!」
「何もないところに向かって吠えないでよ。天の声にそんなにツッコミ入れてどうするの」
その通りですお姉様。
「だからなんで姉貴には従順なんだよ!!」
気のせいである。
「………」
弟が中空をジッと睨んでいる。そんなところに私はいない。
「どこにいるんだよ!!」
弟には見えないところに。
「はいはい。そんなこと言ってるとご飯冷めるよ。いただきます」
姉が箸を手に夕飯を食べ始めた。仕方なく弟も食べ始める。
「そういえばさ…」
「何?」
「俊介って男なのに私と同じぐらいしか食べないよね」
そういえばそうだ。姉と弟の食事量はほぼ同じ。日本食はひ弱な弟の趣味。
「だから一言…」
「俊介も天の声もうるさい」
いっぺんにザクッと斬られた。
「で、なんでそんなに食べないのよ。お姉ちゃんに話してみなさい」
「姉貴に話すことないから」
まず自分でお姉ちゃんて言ったことをつっこむべきじゃないか弟。
「そんなものは知らん」
「しゅーちゃん…こっちで会話なりたたせて」
「いや、しゅーちゃんじゃないから」
姉は弟に言いたいことがあるらしい。
「なんだよ」
「あのね、駅でチラシ配っててもらってきたんだ」
B5版の紙をテーブルに置く。
「町内大食い大会…我こそは大食い自慢だという人集え…。何だこれ」
「問題はその後よ!!」
「え〜…制限時間内により多く食べた人が優勝。優勝賞金10万円…10万円!?」
町内なのに大きく出たな。
「どう!?参加してみない!?」
「俺!?今食が細いとか言ってたのに俺が出るのか!?…どうせ賞金全部持ってく気だろ…」
「そんなことないって。賞金は全部俊介の物。ただ…今までの生活費に半分欲しいなぁ」
「結局半分取るんじゃねぇか!!」
「そりゃ、大学生一人やしなってるんだからねぇ」
食費はしっかりとるものですか。
「姉貴の考えてることは大体分かった…。でも俺じゃ優勝できないから。ぼったくられるだけだから」
「ぼったくる?」
弟が紙のある部分を指差した。そこには…「但し参加費1000円」の文字。
「やめようか…」
「やめておけ」
弟では本当にぼったくられるだけとふんだ姉はあっさり参加させるのを諦めるのだった。
数日後に行われる町内大食い大会は参加者0人で中止になった。参加者0人なら弟が出ればよかったのではないか。
「なんでだよ。誰と競争するんだよ」
一人で大食い。一人で優勝。見物客も姉一人。
「寂しすぎ!!」
ナレーションであるはずの天の声がナレーションとして働いていない。そんな気がする。