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第19話 お約束ですから!?

大学祭編を書いている間に正月が来てしまったので、斉藤家の正月を楽しんでください。

「新年、あけましておめでとうございます」

 おめでとうございます。

 今年もナレーションこと天の声をよろしくおねがいします。

「斎藤家のお姉ちゃんをよろしくね。しゅーちゃんも新年の挨拶しないと駄目でしょ」

「あけおめ。ことよろ」

「そんなに略さないでよ。それよりおせち出来た?」

 挨拶よりも食ですか。

「俺におせち作らせておいて、挨拶略すなとか言うな!!」

「挨拶は大切なのよ。新年の挨拶がしっかり出来ない人は新な気持で…」

「去年最後の昨日も、今年最初の今日も弟に飯を作らせる姉貴に言われたくないね!!」

 そう、今日も弟はキッチンでおせちの準備に勤しんでいる。エプロンを着て。

「エプロン着てちゃいけねぇのかよ」

 珍しい現象がおきているなぁと。

「そうですか」

 今日は雪かなぁと。

「そんなに珍しいのかよ!!」

 おたまを空中に振り上げている。弟程度に捕まらないし、私には実体がないのでぶつかったりもしないのである。

「………」

「しゅーちゃん、お雑煮は?」

 暢気な姉の声がキッチンに届く。

 弟は諦めて、鍋を手にダイニングへ行った。姉が机に座って弟が運んで来る鍋を凝視している。

「なんだよ。そんなに腹減ってんの?」

 鍋から目をはなさずに黙ってうなずく姉。

 弟は深くため息をついてから鍋のふたを取った。味噌の香りが漂う。

「お味噌汁?」

 怪訝そうに姉が聞いた。正月に食べるのは普通味噌汁ではなく雑煮である。

「雑煮だ。ほら」

 弟が味噌汁もどき?をよそって姉に出す。姉ははじめて見るかのように恐る恐る箸をつけて中の具をかき回す。

「お餅が入ってる」

 姉がかき回すと餅が表面にプカプカ浮いてきた。焼き目のついた丸餅だ。

「なんで丸餅?ていうかなんで味噌仕立て?」

「関西風なんだよ。知らないのか?関西は四角じゃなくて丸い餅が一般的で、すまし汁じゃなくて味噌なんだよ。因みに俺の趣味で今日のやつは白味噌」

 というか弟よ。

「しゅーちゃんは静岡出身でしょうが!!」

 静岡ならすまし汁だろう。

「関西は味噌っていうから試してみただけだ。いつも同じだと飽きるだろう?それより、早く食べないと餅が硬くなるぞ」

 姉が雑煮に口をつける。弟も自分の分をよそって食べてみた。

「お味はいかがでしょうか、お姉様」

「うん…お味噌汁」

「普通は美味しいとか答えるもんだろう!!」

 今年も姉は一味も二味も違うようで。

「ねぇ、しゅーちゃん。初詣行かない?」



 姉弟は連れだって近所の神社に来ていた。弟は新年の始めぐらいは素直に従う気になったようで、それほど抵抗せずについて来た。雪が降らないことを願おう。

「そんなに珍しいか、天の声…」

 怒りを抑えた小声で弟が言う。寒そうにダウンのポケットに手を突っ込んでいる。

「まぁまぁ。それぐらいで怒らないでよ」

 姉がなだめる。こちらもコート着用だ。新年だが、振袖を着たりはしないらしい。

「誰が着付けすんだよ」

 姉は不器用だから着付けは出来ないらしい。

「はいはい。ほら、もう順番よ」

 初詣の客の流れに乗ってやっと賽銭のところまで来た。五円玉を投げ込み、手を合わせる。

「みんなが今年一年、健康で過ごせますように」

 これは姉のお願いだ。

「今年こそは家事から解放されますように」

 それは無理なのではないだろうか、弟。姉が弟の姉として生まれた時からその運命は変わらないだろうよ。

「……せめて一日だけでも家事を休めますように」

 いっそどこかで家政婦を雇えばいいんじゃないか?

願い事が終わり、二人は参道から離れて行った。いつもそんなに賑わってはいない神社が正月ばかりは活気を取り戻し、御守りや絵馬などを売っている。おみくじが枝に結びつけられて白い花が咲いているようだ。

 弟が他人が書いた絵馬を何気なく見ている。

「あー、今年もあるなぁ。大学に合格しますように。受験の時は大変だったな。こっちは…幸せな結婚生活が送れますように。その幸せを分けてほしい」

 弟…何してるんだ。

「意外と面白いんだよ、こういうの。こっちは?彼女ができますように?いるなこういうやつ………塚田孝司…?」

 どこかで聞いたことのある名前だな。

「あ、姉貴は?」

 そこで甘酒もらってる。

 弟が姉を探して辺りを見回す。

「よ!!」

 弟に手を振りながら男が近づいてきた。当たり前というか案の定というか…七三眼鏡から茶髪コンタクトになった塚田である。

「なんだよ。お前も来てたのかよ。声かけてくれれば一緒に行ったのに」

 弟の肩を叩きながら上機嫌で笑う。

「お前…何飲んでんの?」

 塚田は紙コップを持っていた。わずかに湯気がたっている。

「これ?甘酒。配ってたからもらったんだ」

「そんなに酒弱かったか?」

「いや。酒飲んだらテンション上げないと失礼だろう?」

 誰にだ。

「あら塚地くん」

 紙コップを二個持って姉が駆けてきた。

「いえ…あの……塚田です」

「そうだったね、塚原くん」

 言っておくが姉は酒豪である。ざるである。甘酒程度で酔ったりはしない。

「(弟が)おせち作ったんだけど、食べに来ない?」

「(お姉さんの)おせちですか!?是非!!塚原でも塚地でも構いません!!」

「いいでしょう?」

 姉が弟に聞く。弟が凄く嫌そうな顔をしていたが、やがて何かに気づいて微笑んだ。

「塚田、食べにくるなら礼儀は守ってくれるよな?」

「?あぁ」

「食器とか洗うのは頼んだぞ」

「客にやら…」

「うちでおせち…食べたいよな?」

「いいともー」

 弟は塚田の肩をつかんで、逃がさないようにした。姉は弟に甘酒を渡しながら弟に友達が出来て良かったと喜んでいる。

 塚田は今日、シンデレラの気分を味わうことになるのであった。

 季節外れですいません。元旦に載せようとしていたのですが間に合わず…。

 美味しいか尋ねられているのに姉が「味噌汁」と答えているところは俺が実際に昔、やったことです。お雑煮ではなかったのですがね。


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