第18話 担当ですから
季節優先で大学祭の最後の回より先に、斎藤家の大晦日をお届けします。
大学祭はもう少しお待ちください。
「やっぱりこたつにミカンが冬の醍醐味よね」
姉がミカンを頬張りながら言った。
「こたつはねぇよ」
いつものように弟が容赦ないツッコミをいれる。
「いいじゃない。今日は大晦日よ!!今年もあと何時間かで終わっちゃうのよ!!買ってきてよ、 こたつ!!お金は私が出すから!!」
「だったら姉貴が買ってこい!!もしくはこれ、代われ!!」
今日は大晦日。大晦日と言えば、そう年越しそば。弟は腕をふるってそばを用意しているのだ。そば粉から始めるなんてことはないが。
「当たり前だ!!そこまで出来るか!!むしろ大晦日ぐらい料理代われよ!!」
「えー。だってねぇ?」
ねぇ?
「しゅーちゃんが担当ですから!!」
「そのポジションを代えろって言ってんだよ!!」
年末なので弟のツッコミの勢いも二倍である。
因みに、今さらな気もするが、現状を説明すると、年末恒例の大掃除(ほとんど弟がやる)が終わり、弟はそばを茹でていて、姉はミカン片手にソファに座り、テレビを見ながら笑っている。それで必死に働いている弟にこたつを買ってこいと言うのだから、この姉も無情である。まぁ、いつものことだが。
「だからたまには代われって言ってんだよ!!」
「無理無理」
のほほんとミカンの皮を剥きながら姉が答えた。
というか弟よ。食べられる物を求めるなら弟が作った方が無難である。
「作れるわよ。そばぐらい。茹でるだけでしょ?でもやらないからね。食費全部払ってるの誰だと思ってるのよ」
「…姉貴です」
「分かってるならキリキリ働きなさい」
段々と弟がシンデレラに見えてきた。
沸騰した湯の中に市販のそばを入れて、弟が大きくため息をつく。そばつゆを作っている方の鍋がことことと音を立てた。
「大晦日ぐらい休みをくれ…」
「何言ってるのよ。今まさに冬休みでしょ?大学生。私より休み長いんだから文句言わないでよ」
「訂正。俺がやってる家事の休みをくれ」
そんなことをすればあっという間に家から食べられる物が消えるのである。
「一日家政婦、誰かやってくれー…」
切実だ…。
そんなことをしている間にそばが茹であがる。弟は水を切って二つの器にそれを入れ、温かいつゆを加えた。湯気が立ち上る。
「美味しそう」
姉がキッチンの入口から顔を出していた。
「いつの間に!?」
「しゅーちゃんと天の声が喋ってる間に」
姉はそう答えるとそばをテーブルに運んだ。…珍しく姉が働いてるのを見た気がする。
「ほら、しゅーちゃん、早く食べないとおそばのびちゃうよー」
笑顔で姉が言う。それを見て弟が複雑な顔をしている。
「…俺が作ったんですけど」
「つべこべ言わずに早く食べる!!」
「はいはい。わかりましたよ、お姉様」
弟が苦笑しながらキッチンを出て椅子に座った。そばが美味しそうな香りを漂わせる。
こうして今年も終わるのだろう。何か大きな変化はなくとも、日常が一番いいのである。
「姉貴、今年最後に一つ言っていいか?」
姉がそばをすするのをやめて弟の方を見る。
「俺は俊介だから。断じてしゅーちゃんではないから」
姉がキョトンとしている。それは理解していると思うぞ。
ところで私も最後に一句詠んでいいか?
「どうぞ」
姉が笑ってこちらに手を振る。
では一句。
年越しも 最後はつっこむ 弟だ
「お前がツッコミ入れさせてるじゃねぇか!!」
弟のツッコミに姉が吹き出した。
除夜の鐘とともに斎藤家からは愉快な笑い声が聞こえるのであった。
今日だからこそ書ける年越しバージョン。
今回は笑いより、日常っぽさを優先させてみました。