第13話 イメチェンてイメージチェンジの略なんだぜ
弟が机に突っ伏して寝ている。寝やすいのか?
「黙れ」
弟は眠すぎて不機嫌なようである。それならば答えなければいいのに。
弟が顔を上げ、小声で言った。
「なんか言わないとお前また言うだろうよ」
何か言っても何かしら言わずにはいられないのがナレーションである。
ちなみにここは自宅ではなく大学のキャンパス内。講義と講義の合間の時間。弟も今日は講義があるので仕方なく来ているのだ。
こんな話をしている間に弟は深い夢の世界へ入っていってしまった。寝ているのか?
「………」
寝ているのか狸寝入りか知らないが、弟が行動をおこさないならこの合間に弟の幼い頃の話でも。
妹が生まれる前に家族で川原に来ていた時のこと。姉が弟に…。
「やめろ!!」
その後母が…。
「やめろって言ってんだろ!!」
父はその後始末に追われ…。
「何度言わせる気だ!!」
弟よ。人に物を頼む時にその口調は駄目だろう?
「言いなりになってたまるか!!」
姉が弟に石をたくさん…。
「すいませんでした!!やめてください!!その残酷な昔話!!」
分かればよろしい。
ちなみに次はなんの講義?
「は?そんなこと聞いてどうすんだよ。大体、天の声は…」
「よぉ!!」
乱入者登場である。
「よぉ…て、お前誰?」
背は弟より高く、顔立ちにこれといった特徴のない真ん中分けの茶髪の男が弟に声をかけてきた。果たしてこんな人物はいただろうか?
「何言ってんだよ」
男は笑いながら弟に断らず、隣に腰かけた。
「本気でどちら様ですか?」
弟が疑るような目を向ける。
「ちょっ、マジで傷つくわ。ほら同じ学科の…」
「ここにいるやつら大体同じ学科だし」
「入学式で声かけた…」
男が焦り始めた。弟の人相が段々悪くなっていく。
「そんなもん覚えてねぇよ」
「………女装美人コンテスト…」
男は早くも半泣きだ。
「出場者?それはおめでとう」
誰だか分かってて嘘ついてるのかは知らないが弟の口調は段々と冷めていく。
「………キミの友達、七三眼鏡…」
「俺に七三眼鏡の友達はいないな」
「全否定!?ひでぇよ!!友達だろ!!俺は少なくともそう信じてる!!」
「暑苦しい。失せろ塚田」
いつの間に弟はこんなに冷めたキャラに…?
とりあえず、名前を呼んでもらえた方はよっぽど嬉しかったのか、目をうるうるさせて弟に手を伸ばした。
「やっぱり分かってたんじゃん!!眠くて不機嫌でも俺はそんなお前が」
「大好きとかぬかしたら、この世に生まれてきたことを後悔させてやる」
今日の弟は不機嫌で口が凄く悪いが、読者のみなさんはご勘弁を。
塚田が泣き崩れた。多分わざと。
「酷いわ!!私の愛を受け取ってくれないなんて!!」
「キショイ」
同感。
「と、まぁ冗談は抜きにして、どうよ?似合う?」
塚田が茶髪になった髪を指差した。
「………。眼鏡は?」
弟はコメントを避けた。私から言わせれば、それなりに似合ってはいるが、やっぱり日本人だなぁ…といった感じ。
「コンタクト。七三眼鏡っていうレッテルを払拭しようと」
「七三眼鏡の塚本くんの方が語呂がいいけどな」
「お姉さんと同じような間違いするなよ」
「間違えてるように見えるか?」
わざとか。
「見えない」
あの姉の弟だからな。
「で、なんで突然髪染めたり、コンタクト入れたりしてんだ?」
「イメチェン」
「………」
「ほら、夏休みがあけて学校きた時に七三眼鏡の人が海の似合う茶髪のナイスガイになってたら驚くだろ。驚きがときめきに変わるかもしれないだろ」
要はモテたいのか。
「だったら夏にやれよ」
正当なツッコミだな。
「あえて夏にやらないところがポイントだろ」
「…パーマもかかってんの?」
さらに話をずらした。
「そうそう。パーマかかってる方がセットしやすいから」
「目指せワカメ頭?」
「…それはやたら海の幸が出てくるアニメの妹か?」
「頭の中まで海藻なんだな」
ここまでくると弟がボケてるのかツッコミを入れてるのかわからない。
「…そろそろ学祭だな」
塚田も話をそらした。
「だから?」
「そろそろ衣装用意しないとな」
「なんの?」
「女装美人コンテストの」
弟が固まった。最近妹が来てたりしたから忘れていたかもしれないが、女装美人コンテストは本当にやりますよ。
「頑張ってお前を美人に仕立て上げてみせるから」
「頑張らんでいい!!」
「さぁてどんな衣装にしようかなぁ。今から楽しみだなぁ」
「…お前がやんの?」
「もちろん♪」
塚田が笑顔を浮かべて言った。
「ちょっと待った!!」
今日は乱入が多いな。しかも今度は女三人だ。
「当日の衣装とメイクは是非私達に!!」
「マジで?やってくれんの?ラッキー。じゃあ俺は普通に推薦者としていくわ」
「は?」
「こんな面白そうなことないからね」
弟を使って遊びたい三人の女が現れた。
「マジで!?」
弟に女装で着てほしい衣装を一応募集中。あまり少ないようですと作者が考えたもので通します。