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第12話 二度あることは三度ある

「なんだ…?」

 コンビニから帰ってきた弟が絶句した。

 家の中は十数分前とは一辺していた。靴箱から靴が飛び出し、たたんだ洗濯物の山は無惨に崩され、ありとあらゆる引出しは開けっぱなしの散らかり放題だった。弟が絶句するのも無理はない。

「泥棒でも入ったのか…?」

 今日は姉と妹が家にいるからそれはないだろうよ。

「だよな…」

 玄関に呆然と立っている弟に気がついて姉が顔を出した。

「しゅーちゃん、おかえり」

「しゅーちゃんじゃないけどただいま。で、なんでこんなに家の中が散らかってんだ?」

 弟がリビングに入っていく。妹がソファに座ってテレビを見ていた。

「おかえり。家が散らかってる理由は言わずもがな」

「…姉貴だな」

「言わずもがなって何よ!!確かに私だけど!!」

 やっぱり姉なんだ。

「一体お姉様は何をしやがってるんですかねぇ?」

 弟はキレていた。笑顔だが、口調に怒りが現れている。

 姉、夕食抜きにされる前に謝ったほうがいい。

「ごめんね。印鑑を探してて…」

「それで洗濯物の山を崩して、靴箱までめちゃくちゃに?」

「うん…。もしかしたらあるかなぁって」

「ねぇよ!!靴箱とかはありえねぇよ!!」

 あったらすごいな。

「どこにあるか知らない?」

「姉貴のだろ?部屋じゃねぇの?」

「ないから探してるんじゃない」

 そんなこと威張られても困りますよお姉様。

「はぁ…」

「ため息つくと幸せが逃げるよ」

 弟がお前が言うかと言うように目を細めて姉を見た。

「…鈴、なんで手伝ってやらなかったんだ?そしたらもう少し部屋が綺麗だったかもしれないのに」

 あ、無視した。

「だってここの住人じゃないのに印鑑の場所なんか知るわけないよ。それに、あたしが手伝ったら汚さ二倍になってるよ今頃」

 さすが姉の妹。言うことが一味違う。

「…まともな人種をくれ」

 毎度のことだが苦労してるね。

「とりあえず、この惨状どうにかするぞ。鈴は玄関。姉貴は洗濯物」

「はーい」

「え〜」

 この状態にした元凶が文句を言いますか。

「姉貴、手伝わないなら飯」

「ご飯抜きにしたらこの家から追い出すから」

 姉が最後?の切札を使った。

「すいません…。けど、手伝ってくれ」

「はいはい」

 こうして三人は掃除を始めた。

 妹は靴箱に靴を入れ、あるいは突っ込み、弟は飛び出した物を拾い集めて引出しの中に。もちろん開いている引出しは全て閉めて。姉は…多分洗濯物を畳み直している。多分。

「姉貴!!余計ぐちゃぐちゃだから!!」

「失敬な!!ちゃんと畳んでるのよ、これでも!!」

 洗濯物は崩れていた時よりさらに、弟が畳んだ原型を保たない程度にぐちゃぐちゃだった。例えるならば、脱ぎ捨てた状態そのまま。もしかすると、姉は家事全般が不器用なのではないだろうか。

「もしかしなくても!!そうじゃないと俺が家事なんかやるか!?」

 いや、家事が趣味でもおかしくないだろう。弟ならば。

「俺ならってなんだよ!!分かったから姉貴は洗濯物運ぶだけにしてくれ!!」

 そう言うと弟は靴をしまい終わった妹を呼んで、洗濯物を畳ませた。…姉よりはましである。

 満足したのか弟は自分の分担の方に戻って行った。

 テキパキと掃除を終わらせた頃には夕飯の買い出しに行かなければいけない時間だった。

「もうそんな時間か!?」

 そんなに無駄な嘘は言いませんて。

 弟が冷蔵庫の中身を見にいく。買い物の前に見ておかないとたまにあるはずの物がなくなっているのだ。誰が犯人とは言わないが。

「キャベツ、ニンジン、こっちは…バターと牛乳と…なんだこれ」

 卵が並んでいるところに小さくて長細い箱が入っていた。弟が恐る恐る箱を開ける。

「…………姉貴!!」

 弟が珍しく怒鳴った。今にも血管が切れそうだ。

「何?」

 姉がキッチンに顔を出す。

「これはなんだ?」

「………」

「何?どうしたの?」

 妹も顔を出したが、弟の怒りの形相にすぐに顔を引っ込めた。

「天ちゃん、一体何がおきたの?」

 自分の目で確かめてきた方がいい。

 妹は弟の八つ当たりが来ないように、静かに近づいて弟が持っている箱を覗いた。中身は白くて長細い姉の印鑑だった。

「なんで冷蔵庫…?」

「俺も是非聞きたいな。さぁ、説明していただきましょうか、お姉様」

「……それは…うん…あれだよね…」

 姉がしどろもどろに言いわけをし出した。要約すると、通帳を冷蔵庫に隠す人もいるから印鑑もいいだろうと考えて冷蔵庫に入れたはいいが頻繁に使う物じゃなかったのですっかりどこにしまったか忘れていたらしい。

「普通忘れる?」

「印鑑を冷蔵庫に入れるな。入れたことを忘れるな。忘れて家中ぐちゃぐちゃにするな」

 弟が淡々とツッコミを入れた。ここまでいくと説教だ。

「天の声は黙ってろ」

 …はい。

 弟が長々と説教をしていると電話が鳴り響いた。不機嫌丸出しの弟が舌打ちして受話器を取る。正座になっていた姉が安堵のため息をもらした。

「もしもし?」

 電話でさえも不機嫌丸出しである。

「もしもし?俊介か?」

「父さんか。何か用?」

「鈴、まだそっちにいるか?」

 怪訝そうに弟が妹の方を見る。妹はテレビの前に座っている。

「いるけど?どうかした?」

「…鈴がそっち行った時、いつまでいるって言った?」

「火曜日。明日」

「…明日から学校なんだ」

「………は?」

「明日学校あるから強制的に帰らせてくれ」

「火曜休みっていうのは…」

「嘘だな」

「…了解。駅まで送っていく」

「頼んだ」

 弟がゆっくりと受話器を置いた。そして妹の方を見る。妹も電話の内容で大体何が起きるか分かったらしく縮こまっている。

「………鈴」

「えへ」

「さっさと荷物まとめろ!!」

「ごめんなさーい」

 妹がドラムバッグの置いてある姉の部屋に駆け込んで行った。

「まったく…鈴は何やってるんだか」

「……姉貴、帰ってきたらさっきの続きがあるから、逃げるなよ」

「………」

 こうして妹はしっかり駅まで送られ、姉は夜中まで弟に怒られるのであった。

 弟がキレてますね。あんな姉と妹を持つと苦労するんでしょうね。

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