第11話 こういうことたまにあるよね
「ねぇ、どういうことか説明してくれない?しゅーちゃん、いいえ俊介」
「あたしにも教えてくれるよね俊介お兄ちゃん?」
姉と妹の怒りを弟は一身に受けていた。二人とも顔は笑っているが、目が恐ろしいほど笑っていない。
弟がこんな状況に陥っている理由は一時間前にさかのぼる。
「は?遊園地?」
弟の聖域、キッチンに妹が入ってきていた。時間は朝食前、弟は目玉焼きが綺麗に焼けて上機嫌な時だった。
「うん♪この近くに最近新しく遊園地出来たでしょ?今日日曜日だし行こうよ」
「姉貴に交渉してこいよ」
「もう交渉した」
弟が振り返るとキッチンの入口に姉が顔を出して笑っていた。
「よろしくしゅーちゃん」
「しゅーちゃんて誰だよ!!」
「お兄ちゃんは俊介だもんね。どこをどうしたらそうなるのか教えてほしいぐらいだよ」
徐々に妹の毒舌が進化していく。
「と、とにかくよろしく!!道わかんないから連れてってね!!」
逃げたな。
「なんで俺が連れてかなきゃいけないんだ。今朝飯作ってるからその間に姉貴が調べろよ」
「この家の家賃は誰が払ってるでしょうか?」
「…姉貴です」
このやりとり久しぶりに見た。
「久しぶりでもやりたくなかった俺は」
姉のお世話になってる限り無理な問題だ弟。
「頼りにしてるよしゅーちゃん」
「しゅーちゃんじゃねぇよ…」
「影から応援してるよお兄ちゃん」
「影から応援しなくていいから手伝ってくれ、鈴」
姉と妹が笑いながらキッチンから出て行った。手伝う気ないな、あれは。…ところで弟、なんか焦げ臭い。
「あー!!」
綺麗に焼けていた目玉焼きは綺麗に黒こげになりました。
そして三人が遊園地に着くと、遊園地に人影はなく、虚しく風が吹き荒れていた。台風が上陸したわけではない。
「本日…お休み!?」
弟がすっとんきょうな声を出した。入場口のところに貼ってある文字を読み上げたのだ。
それにしても、不幸なこともあるもんだ。
「なんてのんきな!!」
私は関係ないからだよ。
「どうして休みの日も調べてないのか説明してくれない?しゅーちゃん、いいえ俊介」
「あたしにも教えてほしいな俊介お兄ちゃん?」
こうして冒頭につながるのである。
「いえ…あの…」
「調べるなら休みの日も調べようよ。ね?」
「なんのためにわざわざここまで来たと思ってるのお兄ちゃん?」
「いや…」
「俊介」
「お兄ちゃん」
素直に謝っておけよ弟。
「…すいませんでした」
弟、平謝り。姉と妹はなんだか満足げだ。
「ここまで来て何もせずに帰るのは交通費がもったいないから、美味しい物食べて帰ろっか」
「賛成ー!!」
この話は本当に食べ物が絡む確率が高いな。
「どこ行く気だ?」
「近くにハンバーグの美味しい洋食屋さんがあるのよね」
「あぁ。あの高い老舗の。よく金あるな」
弟がそう言うと姉がニッコリと笑った。
「何言ってるの」
「そうだよ。何寝ぼけたこと言ってるのお兄ちゃん」
弟がまさかという顔をした。正にそのまさかである。
「俊介のおごりに決まってるでしょ」
「ねぇ」
運命とは定まっているものなのだよ弟くん。
「なんで俺が!?」
「休みの日調べなかったのは誰の責任?」
「…そんなに金ねぇよ!!」
「大丈夫。今は立て替えてあげる。今は」
あとになってからたっぷり利子をつけて返すことになりそうだ。
「本当に天の声は他人事だな!!」
当たり前である。
「私、ハンバーグ定食!!」
「じゃああたしはデミグラスハンバーグで!!」
「それもいいなぁ。あー、でも和風も捨てがたい!!」
わいわいとはしゃぐ女二人の後を、平べったい財布を抱えて弟がトボトボとついて行った。今月はもう金がないんだろうな。頑張れ弟。
「どう頑張れっていうんだよ!!」
なせばなる。
「ならねぇよ!!金はほっといて湧いてくるもんじゃねぇんだよ!!」
姉と妹のコンビは最強でした。